講演情報
[27-O-P111-03]事務所における紙使用削減の実践と働き方の変化
東京都 ○沢口 伸弥 (介護老人保健施設アルカディア)
【背景】
介護老人保健施設の事務所では、請求書類、契約書、会議録、報告書、購買申請書、起案書など、多様な書類の印刷・保管が日常的に行われている。これに伴う紙の大量消費は、印刷コストや保管スペースの圧迫といった課題を引き起こしている。特に介護分野の管理部門では、現場との連携が紙中心であること、ICTへの消極的な風土、職員間のリテラシーの差といった障壁が存在しているためペーパーレス化が進みにくい事も課題である。こうした背景を鑑み、現場の実態に即した具体的な紙使用削減策の導入と、その評価が求められている。
【目的】
本研究では、施設内の事務所業務において紙使用量の削減を目的とした1年間の取り組みを実施し、その削減効果および副次的な成果、さらに働き方改善につながる変化について検証することを目的とした。
【方法】
対象は当施設の事務所業務とし、2024年4月から2025年3月までの1年間を調査期間とし、前半6か月を上半期、後半を下半期とした。上半期は、会議や朝礼での啓発、電子ツールの使用方法の説明、文章回覧に関するルール整備などを通じて、職員の意識向上を図った。下半期から具体的な削減対策を実行した。主な対策は、1:会議録資料等の電子化および入退所支援システムの活用、2:書類のPDF化による保存・共有の徹底、3:PCから複合機を経由したFAXの電子送信とした。紙使用量はコピー用紙の購入実績および複合機の出力ログから定量的に評価し、出力費用の削減効果も併せて検証した。※本演題発表に関連して、開示すべき利益相反関係にある企業等はありません。
【結果】
コピー用紙の購入枚数は、上半期(4~9月)が47,500枚、下半期(10~3月)が35,500枚で、削減枚数は12,000枚(削減率14.6%)であった。複合機の出力ログは、上半期60,561回、下半期52,663回で、削減数は7,898回(削減率13.0%)となった。出力カウンターに基づく費用は、上半期178,100円、下半期74,215円で、削減額は103,885円と、特に複合機の活用での効果が下半期で顕著であった。また、会議録や回覧文書の電子化、書類のPDF保存・共有を徹底したことで、紙を前提とした業務の見直しが進み、印刷を伴わない業務フローが定着し始めた。PDF化の推進により書類の検索・閲覧が迅速化し、移動時間の短縮や保管スペースの有効活用、機密文書の廃棄・保管コストの軽減といった直接的な成果が得られた。さらに、副次的な効果も確認された。1:PDF化、スキャン、電子印活用など、基本的な操作スキルの向上、2:紙の紛失リスク低減と共有フォルダ活用により、セキュリティ意識の向上、3:会議資料をノートPCやiPadで閲覧するなど、電子ツール活用への心理的抵抗の軽減、4:業務内容に応じたPDF、メール、FAXなど電子ツールの適切な選択の4点の変化は実務に直結し、職員の業務への向き合い方にも前向きな影響を及ぼしていることが確認された。
【考察・結論】
今回の取り組みを通じて、紙使用削減を目的とした施策は、短期間でも明確な成果をもたらし、業務改善の入り口として有効であることが確認された。高額なICT投資を伴わず、既存の複合機やシステムの活用、職員教育と意識づけによって、現場に適した無理のない導入が可能であった。削減されたのは紙や費用だけでなく、「紙を出すことが前提」という固定観念そのものであり、それを打ち破ることによって職員の意識・行動にも変化が生じたことは、ICTリテラシーの向上に加え、職員間でも業務効率や情報共有のあり方に対する認識の変化という意味で大きな成果であると考える。今後は、紙削減を単なるコスト削減や環境対策にとどめず、「情報の扱い方」や「業務のスピード」「安全性」までを視野に入れたペーパーレスのあり方を追求することが重要である。最終的には、必要な情報が迅速・安全に共有できる環境を整えることで、職員の負担を減らし、本来業務に集中できる働き方への転換を図ることが望ましい。当施設でも、請求書や契約書の完全電子化に向けた取り組みを今後段階的に進めていく予定であり、紙に依存しない働き方のさらなる推進に取り組んでいく。
