講演情報

[27-O-P201-04]標準予防策定着に向けた委員会主導型教育の効果と課題メンバー育成におけるTTM活用の可能性

宮崎県 小森 順子 (介護老人保健施設並木の里)
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【はじめに】
標準予防策は感染対策の基本であり、日常業務における習慣化が求められる。当施設では年2回の法定研修を実施し、2024年5月の参加率は100%であった。しかし、同年7月に入所部で新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生し、研修のみでは標準予防策の定着が不十分であることが明らかとなった。そこで、感染対策委員会メンバー(以下、メンバー)が主体となり、現場での実践を強化するため、入所者に関わる全職員を対象とした個別指導を導入し、一定の成果が得られたため、ここに報告する。
【目的】
個別指導の実施過程において、感染対策委員会メンバーの成長と役割変化に焦点を当て、今後の課題を明らかにする。
【方法】
対象は入所者に関わる全職員約50名。メンバー8名のうち、事前指導を受け一定基準に達した5名が指導者を担当した。指導内容は「手指衛生」と「個人防護具(PPE)の着脱」であり、標準予防策の知識定着を確認する質問を合わせ、1人あたり約15分の実技確認とマニュアルを用いた修正指導を実施した。指導確認項目はチェックリストを用いて標準化し、2024年9月に第1回、2025年1月に第2回を実施した。進捗は毎月の委員会で共有し、未指導者の調整を行うこととした。4月に委員会再編が実施され、指導者減少と前年度の課題を踏まえ、相談員を指導者に追加する体制の改善を行った。2025年5月に第3回を実施した。
メンバーの変化を把握するため、会議記録や発言傾向を振り返り、発言内容、提案内容、学習意欲に関する発言を抽出した。
【結果】
個別指導は職員の行動確認に有効であったが、第1回は長期休暇や人員不足により遅延が発生した。また、進捗の共有が不十分で、第1回・第2回を渡って指導を受ける職員もおり、終了までに約6か月を要した。体制を改善し実施した第3回は約1カ月程度で完了した。
一方で、メンバーには顕著な変化が見られた。以前は会議で発言が少なかったメンバーが、実施後には「もっと勉強したい」「次回はスムーズに指導できるように工夫をしたい」など前向きな発言が増え、指導で経験した悩みや問題点を共有する場面も増加した。さらに、自ら感染対策に関する企画や改善案を提案する事例が増え、研修参加への意欲も高まった。委員会内の協力体制も強化され、情報共有が活発になった。
【考察】
限られた人員体制下での実施には困難もあったが、個別指導を通じて指導者自身の感染対策意識と教育への姿勢に変化が生じた。委員会内の連携が強まり、委員として会議内での発言や感染対策指導の提案などが出されるようになった。体制見直し後の5月に行われた個別訓練では期日内にすべての訓練が終了し、業務負担が軽減するとともに、心理的安全性が高まり意見を出しやすい環境が整ったと考える。
個別指導は、知識の伝達にとどまらず、相互作用を通じて組織全体の学習を促す手段であり、メンバーの役割認識やリーダーシップ醸成にも寄与した。受動的役割から主体的改善提案への移行は、感染対策文化を形成する重要な変化である。しかし、活動の積極性や継続性には個人差が残り、モチベーション維持が課題となった。
この点で、行動変容のステージ理論(トランスセオレティカルモデル:TTM)は有用な視点となる。今回の活動は「実行期」支援に偏っており、関心期や準備期のメンバーには役割付与や成功体験の提供、維持期にいるメンバーには評価やリーダーシップ機会が必要である。これにより、委員会全体のモチベーションと機能が持続的に高められると考える。
【今後の課題】
今年度の委員会再編では、ベテランの委員が離脱し、新メンバーが2名加入した。どの委員会においても委員として活動するためには、専門的な知識とスキルの習得が必要である。感染対策委員会においては、感染対策に関する知識はもちろんの事、感染対策に必要なスキルを習得した上で、指導ができるレベルまで到達できなければならない。標準予防策を現場に根付かせる鍵は、メンバーの計画的育成である。今後は、トランスセオレティカルモデル(TTM)に基づき、行動変容の段階に応じた支援を導入する。関心期や準備期には、啓発や小さな役割付与により参加意欲を促す。実行期には、実務を通じたスキル強化を図り、維持期では責任ある役割の付与やフィードバックにより継続行動を支える。さらに、メンバーの育成プランを整備し、モチベーションの維持と教育体制の強化を進めることで、標準予防策の習慣化と委員会機能の向上を目指していきたい。