講演情報

[27-O-R003-06]在宅復帰に影響を与える社会的要因の検討HCSを用いた比較から

福岡県 肥田 奈苗1, 榎 一誠1, 辻村 直子2, 飯干 守道1, 永井 未来1, 古賀 恵一郎1 (1.介護老人保健施設 菖蒲, 2.介護老人保健施設御所)
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【はじめに】
 我が国は超高齢化が進んでおり、当施設のあるM町も高齢化率、後期高齢化率と県内でも高い水準にある。また、在宅介護の重要性も求められる中、当施設は現在円滑な在宅復帰を図る為に多職種協働で取り組んでいる。しかし、在宅での生活が可能と思われる身体機能があるにも関わらず、在宅復帰に至らない事例が数多く認められる。今回、在宅復帰を困難にしている要因を明らかにする為、在宅復帰者(以下:在宅群)と施設入所者(以下:施設群)に分類し、介護力や介護意欲等の社会的要因も評価可能な厚生労働省長寿科学研究事業所が開発した在宅介護スコア(Home Care Score 以下:HCS)を使用し調査・検証を行ったのでここに報告する。
【対象】
 令和6年1月~令和7年2月まで当施設入所歴のある要介護1~3の計50名(平均年齢:88.1±15.1歳、男性:13名,女性:37名)を在宅群20名(要介護1:9名,要介護2:6名,要介護3:5名)と施設群30名(要介護1:12名,要介護2:13名,要介護3:5名)に分類し対象とした。なお、顕著な介護拒否や,幻覚,興奮等の著明な認知症症状を有する在宅介護困難例は除外した。
【方法】
 HCSとは対象者の日常生活活動能力及び移動能力に加えて、介護者の有無や介護者の専念,経済面等計16項目(計21点)にて評価を実施、11点未満をカットオフとして在宅復帰困難な可能性が高いとされている。実施時期は令和7年2月、実施者は担当療法士、実施回数は1回評価を行い在宅群と施設群との比較検証を実施した。統計方法として対応のない2標本t検定及びWelchのt検定を用いて行い、P値を0.05未満と設定した。また、HCSの他、同居率・主な介護者の割合を確認した。
【結果】
 HCSの平均の合計点において在宅群が13.7点、施設群が10.4点と有意差を認め、項目別では介護者の専念(以下:介護専念),介護者の介護意欲(以下:介護意欲)に有意差を認めた。その他の項目では、有意差は認めなかった。同居者の割合は在宅群で75.0%、施設群は33.3%と差がみられ、主な介護者の割合は在宅群で配偶者が40%,息子33.3%,娘26.7%に対し、施設群では息子が70%,配偶者10%,親族10%,娘は0%と続柄の比率に差がみられた。
【考察】
 本調査より、在宅群と施設群の比較では、HCSの平均の合計点に有意差を認め、各項目では介護専念・介護意欲の項目で有意差を認めた。
 介護専念は、介護者が同居している事で介護に割ける時間や相互の安心感が生まれ、在宅復帰に繋がりやすいのではないかと思われ、同居状況が影響していると考えられる。一方、介護意欲には主な介護者との続柄が影響しているのではないかと考えられる。在宅群に配偶者が多い理由として「自分が介護するしかない」という強い義務感があり、先行研究にもみられる様に「介護は家族の義務である」という国民性を反映し、配偶者の介護を家庭の役割として捉えていると考えられる。子世代では仕事や育児との両立が難しく、同居していたとしても一日の関心や介護に割く時間が取れないといった要因も考えられる。また、介護経験が少ない事や介護に対する不安等の精神的負担も大きい事が、在宅復帰が困難になっているのではないかと考えられる。
 今回の在宅群には、配偶者が主な介護者である事に加え、在宅介護の経験のある家族も多く、ある程度の在宅介護のイメージが出来ており、介護知識や技術が備わっていた事で在宅復帰に結び付いたと考えられることから、リハ職としては、子世代や介護経験の少ない介護者への支援が重要課題であり、介護支援専門員との連携によって、具体的なサービス提案や介護指導等のチームアプローチを行う事で、介護専念や介護意欲の向上に繋がり、在宅復帰に結びつくのではないかと考えている。
 他方、在宅復帰が困難な場合でも、ある程度身の回り動作が獲得できていれば外出外泊といった社会参加の可能性は残っている。当施設においては、新規かつ既存の入所者に家族カンファレンスや家族と職員の意見交換会の場を設け各職種より状態説明等を行っている。定期的な状態説明により入所者様のできる事できない事を再確認し個々の介護指導を行う事で介護に対する不安感の解消を図り、外出外泊の機会を増やしたいと考えている。また、家族と外出外泊後の課題を共有し、課題の解決策を提案する事で、介護者も再度在宅復帰の可能性を見出し介護意欲向上に繋がるのではないかと考える。そして、入所者様も”もう一度家に帰りたい、外出したい”と闘病意欲の向上に繋がるのではないかと考える。
 しかしながら、健康寿命から平均寿命までに介護に要する期間は男性で8.7年、女性で12.1年と長く、終わりの見えない介護ともいわれている。その為、介護に対する身体的・精神的負担を感じた際は、老健の往復型利用を提案し介護負担を軽減してもらう事が必要となってくる。その為、退所後も多職種による長期的なアフターケアが必要であり、常にどのような形が家族にとって介護負担軽減に繋がるか検討していく事が重要となる。
 今回の比較検証ではHCSのカットオフ値と同様の結果が見られ、入所時スクリーニング評価にも適していることが検証された。また、定期的な評価を行う事で対象者の身体機能以外での背景因子も考慮しての在宅復帰を検討できる評価方法であると考えられる。
 今後は、入所時・中間カンファレンス実施時期等に、HCSを使用して多角的評価を行っていきたいと考える。なお、今回の研究では著明な認知症症状を有する入所者様は対象とせず身体機能に着目し選定及び評価を行っており、今後は認知症を有する方を対象としての調査も実施していく予定である。