講演情報
[27-P-CO01-07]老健利用者の再転倒を防ぐ効果的対策の検討電子化報告書による初回転倒者における分析
群馬県 ○黒木 勝紀1, 田中 志子2, 井上 宏貴3, 小此木 直人2, 小島 恵理2, 深澤 浩1 (1.医療法人大誠会介護老人保健施設大誠苑, 2.医療法人大誠会内田病院, 3.(株)H&Mサービス)
【目的】高齢者施設において転倒転落事故は重要な安全管理課題である。当苑では利用者見守りシステムを一般棟・専門棟合わせて100床全てに導入しているが、年間の転倒転落報告件数は300件近く、効果的な転倒予防対策の立案が急務である。そこで当苑では2024年度より転倒転落報告書の電子化を導入し、効率的な報告体制と分析機能の向上を図った。本研究では、電子化報告書のデータを活用し、初回転倒者における再転倒の要因分析を行い、効果的な転倒予防対策を検討することを目的とした。【方法】当苑における2024年4月から2025年3月までの転倒転落報告から、初回転倒者92名を対象とした。利用者の基本情報(年齢、性別、障害高齢者の日常生活自立度、認知症高齢者の日常生活自立度、眠剤・向精神薬使用の有無)、転倒場所(居室、デイルーム、廊下、浴室、その他)、再転倒の有無、初回転倒時に実施された対策内容を調査した。なお対策内容については、報告者(転倒転落の発見者)が考案した上で、所属部署の介護事故対策委員がチェックし、所属長の確認後に電子化報告書に入力を行っている。本研究では、対策内容を「見守り強化」「センサー設置」「環境調整」「個別対応」の4つのカテゴリに分類し、統括介護部長、医療安全管理者、学術担当者の立ち合いの下でカテゴリ分け作業を行った。再転倒の有無を元に、対象者を再転倒群44名と非再転倒群48名に分類し、各項目について統計解析を実施した(有意水準5%未満を有意差あり、10%未満を有意な傾向ありとした)。電子化報告書システムでは以下の改善を実施した。(1)必須項目の選択式入力による効率化と入力ミス防止(2)記載欄の色分け表示(黄色→記載完了で色消失)による記載漏れ防止機能(3)SHELL分析に基づく要因分析の簡素化(従来の120項目から当院で頻出する要因コードへの絞り込み)(4)転倒転落報告におけるシェーマの図式化により視覚的理解を促進(5)データベース連携機能の追加によるデータ収集・分析の効率化。【結果】初回転倒者92名のうち、再転倒群は44名(47.8%)、非再転倒群は48名(52.2%)であった。利用者の基本情報について比較検討した結果、年齢(再転倒群89.0±6.5歳 vs 非再転倒群88.1±6.8歳、p=0.521)、性別(p=0.217)、障害高齢者の日常生活自立度(p=0.155)、認知症高齢者の日常生活自立度(p=0.131)、眠剤・向精神薬使用の有無(p=0.228)については、両群間で有意差は認められなかった。転倒場所についても有意差は認められなかった(p=0.174)。対策カテゴリの分析では統計学的に有意な傾向が認められた(p=0.051)。具体的には、再転倒群において「見守り強化」が20名(45.5%)と最も多く実施されていた。一方、非再転倒群では「個別対応」が15名(31.3%)、「環境調整」が13名(27.1%)と多く実施されており、「見守り強化」は12名(25.0%)にとどまった。【考察】本研究結果から、利用者の基本属性(年齢、性別、障害高齢者の日常生活自立度、認知症高齢者の日常生活自立度、薬剤使用)は再転倒リスクと直接的な関連性を示さず、実施された対策内容が再転倒予防において重要な要因であることが示唆された。対策カテゴリ別の分析では、再転倒群で「見守り強化」が45.5%と最も高い割合を示した一方、非再転倒群では「個別対応」(31.3%)と「環境調整」(27.1%)の実施割合が高く、「見守り強化」は25.0%にとどまっていた。「見守り強化」のみに依存した対策では、スタッフの配置人数や業務負荷の影響により、継続的で効果的な転倒予防が困難であることが明らかとなった。見守り強化は人的資源に依存する対策であり、スタッフの業務量や配置状況によって実施の質にばらつきが生じやすい。また全利用者に対する24時間体制での継続的な見守りは現実的ではなく、利用者の自立性やQOLの観点からも制限がある。一方、「環境調整」や「個別対応」は、一度適切に設定されれば持続的な効果が期待でき、人的資源への依存度も相対的に低い。環境調整では、ベッドの高さ変更やポータブルトイレの位置決め、置き型手すりの設置など、利用者の動線や生活環境を安全に整備することで、転倒リスクを根本的に軽減できる。個別対応では、各利用者の身体機能、認知機能、生活習慣に応じたきめ細かい対策(内服薬の調整、履物の適正化、見やすい場所への靴の設置、個別の生活パターンに応じた声掛けタイミングの調整など)により、より効果的な転倒予防が可能となる。【結論】転倒転落報告書の電子化により、効率的なデータ収集と詳細な分析が可能となった。初回転倒者における再転倒予防には、見守り強化のみに依存するのではなく、環境調整と個別対応を優先的に実施することが効果的であることが示された。今後の転倒予防対策では、利用者一人ひとりの特性に応じた環境調整と個別対応を第一優先とし、見守り強化は補完的な対策として位置づけることが重要である。今後は対策立案時の参考となるチェックリストを優先順位付きで作成し、環境調整および個別対応に重点を置いた対策立案を促すことで、再転倒の件数が減らせるかを検討していきたい。
