講演情報

[27-P-STR1-01]BCPにおける断水対策の実践~送迎車両からの電源確保、井戸水の汲み上げ~

大阪府 隅野 裕之 (介護老人保健施設ベルアモール)
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はじめに2024年1月1日に発生した能登半島地震では、当施設を含む多くの高齢者施設が断水・停電・構造被害に見舞われ、利用者の市外移送が相次ぐ事態となった。南海トラフ地震は今後30年以内に70から80%の確率で発生するとされ、近年の気候変動による豪雨・台風の頻度増加はBCP(事業継続計画)の重要性を一層高めている。こうした背景を受けて、2024年4月に施行された介護事業者へのBCP策定義務に則り、本施設(入所157床・通所120名)では、断水時に生活用水を確保するため、敷地内井戸からの揚水体制を構築・検証した。方法・取り組みまず施設には地上約25mの井戸があることを確認し、季節や使用量に応じた水位変動にも対応できるかを調査した。次に、断水時に水中ポンプを動かすため、電源確保の手段として送迎車両(日産NV200バネット)のバッテリーに1500WのDC/ACインバーターを設置し、停電下でもAC100V電源を得られる体制を整えた。ポンプ選定では、当初試用した株式会社寺田ポンプ製作所高圧水中ポンプSP-150BNでは馬力不足で地上まで井戸水を汲み上げられず失敗したものの、株式会社寺田ポンプ製作所高圧水中ポンプSH 150を用いることで25m地点からの揚水に成功し、装置選定における余裕の重要性を再確認した。その上で、送迎車のボンネット開閉からインバーター接続、水中ポンプ設置・操作までの手順を動画マニュアル化し、職員教育ツールとして活用。インバーターやポンプの予備部品は日常的に目に触れる場所へ配置し、誰でも対応可能な体制を整えた。最後に、BCP対策委員と役職者により、実際の断水を想定した一連の訓練を実地形式で実施し、対応の実効性を検証した。結果訓練の結果、送迎車からの安定した電源供給と、適切な揚程を持つ水中ポンプの運用により、地上25m下の井戸水を確実に汲み上げることが可能であることが示された。これにより、断水時でも施設内で必要な生活用水を確保できる見通しが得られた。考察本取り組みは、介護施設におけるBCPの実効性を高める上で大きな意義を持つ。まず、書面上のBCPを実地訓練によって“現場で使えるBCP”へと昇華させた点は、実践的BCP構築および地域モデルとして有用である。BCPガイドラインでも推奨される第二水源としての水中ポンプ備蓄は、計画段階だけでなく運用面でも実現できたと言える。次に、電源確保の手段として車載インバーターを採用した手法は、技術的な課題(バッテリー設置位置、電圧変換等)を現実解で克服しており、他施設への水平展開に資する知見が得られている。また、動画マニュアルによる教育体制の整備は「全職員によるBCP定着」という観点で高く評価され、職員全体への習熟度向上にも寄与している。さらに、本施設では地域との連携制度が未整備であったが、多くの先行事例では地域の災害用井戸登録や自治体協定を活用し、地域包括ケアの一環として貢献していることも確認されている。今後はこのような地域連携の構築が不可欠である。最後に、夜間や悪天候時など、多様な環境下でも対応可能な照明・備品整備や、機器の定期点検・保守制度の導入も今後の重要課題として確認された。結論本取り組みは、送迎車両の電源活用と水中ポンプによる井戸水揚水というシンプルかつ有効な手法によって、介護施設における断水時の生活用水確保を、実際に現場レベルで可能とした初のモデルである。BCPの実効性を高める「現場対応型BCP」の具体的な好事例として、本施設の取り組みは他施設のみならず、地域全体の災害対策モデルとしての展開が強く期待される。加えて、今後は全職員による訓練の定期実施、地域自治体や近隣施設との連携協定、車載以外の予備電力・機器保守計画などを統合した高度なBCP構築へと発展させることで、災害時の介護サービス継続にとどまらず、地域の安心・安全確保にも資するものとなるだろう。