講演情報

[28-O-A009-02]「食べたい」を支えた連携支援経管栄養から経口摂取への挑戦

福岡県 切通 恵太, 原野 朝太郎 (医療法人社団 久英会 介護老人保健施設高良台)
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【はじめに】2025年超高齢化社会を迎え、生命に対する価値観の多様化から様々なニーズがあげられる中「口から食べ続けたい」と願う人も多く、その実現には専門職間の連携が不可欠である。本事例は、経管栄養から経口摂取へと移行した要介護高齢者に対し、多職種が協働して支援を行った経過と成果について報告するものである。【対象者】対象は73歳、要介護4の女性(以下S・J様)。令和5年6月に自宅で倒れ救急搬送され、アテローム血栓性脳梗塞と診断。経口摂取が困難となり同年9月に胃瘻を造設し、完全経管栄養にて管理。11月に当施設へリハビリ目的のため入所される。【目的】経管栄養管理下にある利用者に対し、経口摂取再開を実現することを主たる目標とし、その達成に向けて多職種が連携しながら支援を行うことを目的とした。【方法】入所当初はエネルギー確保を優先し、1日3回(400kcal)の経管栄養を継続。その一方で、飲水訓練から段階的に経口摂取の可能性を評価した。むせ込みは認められず、嚥下反応も良好。歯科衛生士による口腔ケアを強化し、歯磨きやうがいの指導を行った。また、リハビリスタッフと連携し、体幹保持力と嚥下機能向上を図った。栄養士は味や食感の変化に配慮した補助食品を導入。介護職員は日常生活での接触機会を通じて心理面へのアプローチなども継続した。【経過・結果】中期に入ると昼食のみミキサー調整食による経口摂取を開始。リクライニング車いすによる離床も可能となり、食事場面での活動性が向上した。栄養補助食品の継続により、食事習慣が安定する中で、「味に飽きた」との発言もでるようになり、味覚への感受性が戻ってきた兆候と捉えられた。後期には体幹の安定とともに咀嚼機能も改善され、3食すべての経口摂取が可能となった。調整食を提供し、スプーンや自助食器を導入することで、食事中の自立性が高まった。また、好き嫌いを口にするなど、食への関心や主体性も回復。本人からは「今日は最高においしかった」「野菜ばかりでがっかり」など、感情表現が豊かになった。加えて、テレビや新聞の希望、レクレーション参加、隣人との会話など、生活全般への意欲が向上。起床介助や排泄介助以外の時間をフロアで過ごすようになり、社会活動が拡大した。【考察】本事例では、「口から食べたい」という本人の意欲を出発点とし、看護、介護、歯科、栄養、リハビリが密に連携し、段階的な支援を行うことで、完全経口摂取への移行を実現できた。また、食の自立により生活意欲も高まり、社会的関わりが増えたことは、心身両面における生活の質の向上に寄与したと考えられる。特に、食事は単なる栄養摂取だけでなく、「美味しい」「飽きた」といった主観的体験を通じて生きる実感を得る重要な営みであり、これを尊重したケアが重要である。本人の発言や反応を多職種で共有し、必要な調整を迅速に行えた点は、実践上の大きな成果といえる。【今後の課題】一時的に新型コロナウイルス感染症に罹患し、再度経管栄養へ移行する場面もあったが、回復後は経口摂取を再開できた。今後は、体調変化に対応しながら、現在の摂取状況を維持し、生活意欲の継続支援を行う必要がある。また、今後ますます進む高齢化社会では、食に関するニーズの多様化が予想される。今回のように、本人の思いを尊重し、それを軸に多職種が連携して支援する体制が、質の高いケアに不可欠であることを改めて確認する事例となった。