講演情報
[28-O-A016-05]通所リハビリにおける睡眠の関わりについて
埼玉県 ○箕浦 紀彦, 吉田 哲 (介護老人保健施設鶴ヶ島ケアホーム)
I. 目的:
通所リハビリテーション利用者がうたた寝する様子や睡眠不足の状態で利用されているのを目にすることは少なくない。
睡眠は心身の疲労回復に大変重要な要素であり、睡眠障害は免疫力を下げ、自律神経の乱れ、高血圧症などの各種疾病の進行や、移動時の転倒など様々な問題の原因となる。
当施設では、利用者の睡眠状態を把握し、睡眠に問題のある利用者に対しては、睡眠を含めた生活習慣の指導を行っている。
今回、通所リハビリ利用者を対象に睡眠覚醒調査をアンケート形式で実施したので、その結果を報告する。
II. 調査対象:
通所リハビリテーション利用者全員191名、有効回答者110名(男:69名、女:41名)、平均年齢:79.9歳、平均介護度2.73
III. 調査方法:
原則、利用開始時にアンケート調査を行った。
睡眠についての主観的症状についての質問は、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いた。
睡眠の質、入眠時間、睡眠時間、睡眠効率、睡眠困難感、睡眠薬使用の有無、日中の眠気について質問し、獲得点数(PSQI)を算定した。
カットオフ値を5.5とし、以下のように分類した。
(1)5点以下:睡眠障害なし
(2)6~8点:軽度の睡眠障害の疑い
(3)9点以上:重度の睡眠障害の疑い
客観的症状についての質問(問10)では、いびき(10a)、無呼吸(10b)、足のピクつき(10c)、ねぼけ・混乱(10d)、夜間の不眠と昼寝(10e)について第三者から回答を得た。
IV. 結果:
1.ピッツバーグ睡眠質問票から得られたPSQIの成績:
配布191名中、110名(57.6%)から回答を得た。
5点以下(睡眠障害なし):65名(59%)
6~8点(軽度の睡眠障害の疑い):23名(21%)
9点以上(重度の睡眠障害の疑い):22名(20%)
110名中、45名(41%)に睡眠障害が疑われた。
2.PSQI 5点以下群と6点以上群の違い:(5点以下群/6点以上群)
・就寝時間が遅い(午後12時以後):(2%/13%)
・寝床に入って寝入るのに30分以上:(5%/38%)
・睡眠時間5時間以下である:(0%/18%)
・中途覚醒(トイレなど)が多い:(39%/62%)
・眠るために服薬する:(5%/31%)
・社会活動中眠ってはいけない時に眠くなる:(2%/20%)
・睡眠の質が「かなり良い・非常に良い」と評価:(81%/89%)
※両群間に差が認められた。
3.客観的症状(問10)とPSQI値:
(1)睡眠時無呼吸・低呼吸障害の疑い(10a,b):12例、PSQI平均8.9点
(2)睡眠関連運動障害の疑い(10c):10例、PSQI平均12.5点*
(3)睡眠時随伴症の疑い(10d):4例、PSQI平均12.5点*
(4)概日リズム睡眠障害の疑い(10e):5例、PSQI平均10.4点**
(5)いずれにも該当しない群:12例、PSQI平均8.0点
*p<0.05、**p<0.1(マン・ホイットニーのU検定)
客観的症状のある群は、該当しない群に比べPSQI値が高く、睡眠障害の程度がより重いと推測された。
V. 考察:
高齢者は若年者に比べ、定年後の生活習慣に大きな変化が見られ、「やることがないから」と床上で過ごす時間が長くなり、結果として早寝早起き傾向が強まり、生活(睡眠・覚醒)のメリハリが失われやすくなる傾向がある。
高齢者が罹患しやすい睡眠障害には、睡眠時無呼吸症候群、レストレス脚症候群・周期性四肢運動障害、睡眠随伴症があり、その他、体内時計の加齢による機能低下に加え、日中の活動量や外出機会の減少に伴う太陽光の暴露減少に起因する睡眠・覚醒リズム障害、さらに、認知症の合併や、死別・独居などの心理的ストレスにより、うつ病に伴う睡眠障害の頻度が高まることは、すでに指摘されている。
今回の調査結果でも、主観的睡眠調査(PSQI調査)の結果から、回答が得られた利用者の約4割に睡眠障害の疑いが認められ、そのうち2割に重度の睡眠障害の疑いが認められた。
さらに、客観的症状についての調査(問10)から、具体的疾患が疑われた群は、疾患の疑いがない群に比べ、睡眠障害の程度(PSQI)がより重度であることが推測された。
なお、このように、睡眠障害の疑いと考えられる回答が比較的多いにもかかわらず、「過去1ヵ月間の睡眠の質」についての質問に対しては、睡眠障害疑いのある群の89%の利用者が「かなり良い」ないし「非常に良い」と回答していた。睡眠状況に対する誤認に起因するものであるのかより詳細な検討が今後必要と考えられる。
VI. 問題と今後の取り組み:
(1)対象191名中、回答が得られたのは110名であり、残る81名は認知症や介護度が重度の為調査が困難であった。また、独居者からは客観的症状に関する回答が得られなかった。今後はご家族あるいは介護者の協力を得て、より広範な情報収集体制を整備したい。
(2)重度睡眠障害が疑われた利用者には専門外来受診を勧め、それ以外の人にはリハビリ会議等を介して睡眠や生活習慣の改善指導を行っている。睡眠覚醒リズム障害の疑いがある利用者には、睡眠・覚醒日誌の記録を勧め、記録を継続することでリズム改善が見られた例や、光療法を導入した例もあった。
(3)今回の睡眠調査は、多くの通所リハビリ利用者にとって、自身の睡眠を振り返る機会となり、生活を見直す契機となった。リハビリ利用者の在宅生活の質を高めるには、本人およびその家族・介護者による睡眠への理解が重要である。今後も生活の基盤である「睡眠」への関わりを継続していきたい。
文献:
1.ピッツバーグ睡眠質問票の日本語版の作成 土井由利子他 精神科治療学13:755,1998
2.PSQI日本語版を用いためまい患者における睡眠障害の検討 許斐氏元他 Equilibrium Res73:502, 2014
3.高齢者の睡眠と睡眠障害 三島和夫 保健医療科学64:27, 2015
通所リハビリテーション利用者がうたた寝する様子や睡眠不足の状態で利用されているのを目にすることは少なくない。
睡眠は心身の疲労回復に大変重要な要素であり、睡眠障害は免疫力を下げ、自律神経の乱れ、高血圧症などの各種疾病の進行や、移動時の転倒など様々な問題の原因となる。
当施設では、利用者の睡眠状態を把握し、睡眠に問題のある利用者に対しては、睡眠を含めた生活習慣の指導を行っている。
今回、通所リハビリ利用者を対象に睡眠覚醒調査をアンケート形式で実施したので、その結果を報告する。
II. 調査対象:
通所リハビリテーション利用者全員191名、有効回答者110名(男:69名、女:41名)、平均年齢:79.9歳、平均介護度2.73
III. 調査方法:
原則、利用開始時にアンケート調査を行った。
睡眠についての主観的症状についての質問は、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いた。
睡眠の質、入眠時間、睡眠時間、睡眠効率、睡眠困難感、睡眠薬使用の有無、日中の眠気について質問し、獲得点数(PSQI)を算定した。
カットオフ値を5.5とし、以下のように分類した。
(1)5点以下:睡眠障害なし
(2)6~8点:軽度の睡眠障害の疑い
(3)9点以上:重度の睡眠障害の疑い
客観的症状についての質問(問10)では、いびき(10a)、無呼吸(10b)、足のピクつき(10c)、ねぼけ・混乱(10d)、夜間の不眠と昼寝(10e)について第三者から回答を得た。
IV. 結果:
1.ピッツバーグ睡眠質問票から得られたPSQIの成績:
配布191名中、110名(57.6%)から回答を得た。
5点以下(睡眠障害なし):65名(59%)
6~8点(軽度の睡眠障害の疑い):23名(21%)
9点以上(重度の睡眠障害の疑い):22名(20%)
110名中、45名(41%)に睡眠障害が疑われた。
2.PSQI 5点以下群と6点以上群の違い:(5点以下群/6点以上群)
・就寝時間が遅い(午後12時以後):(2%/13%)
・寝床に入って寝入るのに30分以上:(5%/38%)
・睡眠時間5時間以下である:(0%/18%)
・中途覚醒(トイレなど)が多い:(39%/62%)
・眠るために服薬する:(5%/31%)
・社会活動中眠ってはいけない時に眠くなる:(2%/20%)
・睡眠の質が「かなり良い・非常に良い」と評価:(81%/89%)
※両群間に差が認められた。
3.客観的症状(問10)とPSQI値:
(1)睡眠時無呼吸・低呼吸障害の疑い(10a,b):12例、PSQI平均8.9点
(2)睡眠関連運動障害の疑い(10c):10例、PSQI平均12.5点*
(3)睡眠時随伴症の疑い(10d):4例、PSQI平均12.5点*
(4)概日リズム睡眠障害の疑い(10e):5例、PSQI平均10.4点**
(5)いずれにも該当しない群:12例、PSQI平均8.0点
*p<0.05、**p<0.1(マン・ホイットニーのU検定)
客観的症状のある群は、該当しない群に比べPSQI値が高く、睡眠障害の程度がより重いと推測された。
V. 考察:
高齢者は若年者に比べ、定年後の生活習慣に大きな変化が見られ、「やることがないから」と床上で過ごす時間が長くなり、結果として早寝早起き傾向が強まり、生活(睡眠・覚醒)のメリハリが失われやすくなる傾向がある。
高齢者が罹患しやすい睡眠障害には、睡眠時無呼吸症候群、レストレス脚症候群・周期性四肢運動障害、睡眠随伴症があり、その他、体内時計の加齢による機能低下に加え、日中の活動量や外出機会の減少に伴う太陽光の暴露減少に起因する睡眠・覚醒リズム障害、さらに、認知症の合併や、死別・独居などの心理的ストレスにより、うつ病に伴う睡眠障害の頻度が高まることは、すでに指摘されている。
今回の調査結果でも、主観的睡眠調査(PSQI調査)の結果から、回答が得られた利用者の約4割に睡眠障害の疑いが認められ、そのうち2割に重度の睡眠障害の疑いが認められた。
さらに、客観的症状についての調査(問10)から、具体的疾患が疑われた群は、疾患の疑いがない群に比べ、睡眠障害の程度(PSQI)がより重度であることが推測された。
なお、このように、睡眠障害の疑いと考えられる回答が比較的多いにもかかわらず、「過去1ヵ月間の睡眠の質」についての質問に対しては、睡眠障害疑いのある群の89%の利用者が「かなり良い」ないし「非常に良い」と回答していた。睡眠状況に対する誤認に起因するものであるのかより詳細な検討が今後必要と考えられる。
VI. 問題と今後の取り組み:
(1)対象191名中、回答が得られたのは110名であり、残る81名は認知症や介護度が重度の為調査が困難であった。また、独居者からは客観的症状に関する回答が得られなかった。今後はご家族あるいは介護者の協力を得て、より広範な情報収集体制を整備したい。
(2)重度睡眠障害が疑われた利用者には専門外来受診を勧め、それ以外の人にはリハビリ会議等を介して睡眠や生活習慣の改善指導を行っている。睡眠覚醒リズム障害の疑いがある利用者には、睡眠・覚醒日誌の記録を勧め、記録を継続することでリズム改善が見られた例や、光療法を導入した例もあった。
(3)今回の睡眠調査は、多くの通所リハビリ利用者にとって、自身の睡眠を振り返る機会となり、生活を見直す契機となった。リハビリ利用者の在宅生活の質を高めるには、本人およびその家族・介護者による睡眠への理解が重要である。今後も生活の基盤である「睡眠」への関わりを継続していきたい。
文献:
1.ピッツバーグ睡眠質問票の日本語版の作成 土井由利子他 精神科治療学13:755,1998
2.PSQI日本語版を用いためまい患者における睡眠障害の検討 許斐氏元他 Equilibrium Res73:502, 2014
3.高齢者の睡眠と睡眠障害 三島和夫 保健医療科学64:27, 2015
