講演情報
[28-O-C005-05]その薬必要ですか?介護現場がポリファーマシーへ挑戦最も身近にいる私たち(介護)だからできること
栃木県 ○浅田 彩香, 水沼 久美子, 大門 舞 (医療法人矢尾板記念会 今市Lケアセンター)
「はじめに」高齢化が進む現代社会において加齢に伴う多病と多剤は大きな課題となっている。当施設においても利用者の平均年齢は直近で90歳、このうち5剤以上の薬を内服している方は86%にのぼり、いわゆるポリファーマシーの状態にある。背景には、入所以前から複数の疾患とその症状に対して多くの薬が処方されている事があり、加えて症状の改善や変化に応じた投薬の見直しが十分に行われていない事が原因にあると推測される。介護現場では、利用者のADL、嚥下機能、認知症状に応じた投薬介助を行っているが多剤による薬剤管理の複雑化は深刻である。又、多剤併用による副作用から、介護度が重症化する事も少なくない。中でも眠剤は、認知機能や活動性を低下させる等、生活の質に及ぼす影響が多い薬剤と考える。そこで、今回、利用者のポリファーマシーを、眠剤を通して、生活や心身に及ぼす影響を検証する事とした。方法)対象者、認知度介護度が重度で不眠の自覚に乏しく、自発的な訴えが表出しにくい方6名を選定。眠剤の効果や必要性を客観的に検証するため、令和7年4月25日から5月20日の4週間、対象者が投与時間にすでに入眠されている又は、平穏に過ごせている場合は眠剤を投与しないという条件を設定した。そのうえで、期間に眠剤を内服した日数と内服率を算出し結果は、医師、看護師とで共有した。5月26日以降は眠剤を定時での投与から、必要時のみ頓用投与へと、医師指示変更の元、眠りスキャンによる睡眠状況を追跡確認し、生活の様子、変化を観察した。結果)事例A様、89歳女性、認知症、変形性関節症、肺気腫、高血圧に対し9剤を内服。認知症と慢性的な痛みのため、日中の行動は不安定で注意認識の理解も難しく、生活全般の介助と見守りが必要であった。夜間は独語が多く聞かれ、寝具や夜着を必要以上に重ねる事に強いこだわりがあった。常に不機嫌で怒り易く、起床時には「めまい」を理由に離床を拒む事が多かった。就寝時のこだわりに対して、事前に予備の寝具やアンカを準備し、不要と思われる気温の時も欲求に応える事で、入眠前の安心感へつなげるように努めた。徐々に苛立ちの言動や独語が減る様子に合わせて、眠剤投与を見合わせていった。5月21日以降は眠剤を中止しても、8時間以上の睡眠が得られている事が眠りスキャンにより確認された。現在、夜間の独語は消失し、起床は良好。新聞を読む事が習慣にもなった。レクリエーションでは、他の利用者との交流を楽しむ様子があり、整髪や毎食後の歯みがき等、生活意欲の向上がみられた。認知面においても、危険認識が備わる様になり見守る場面が減った事で介護負担の軽減にもつながっている。事例B様、99歳女性、認知症、心不全、慢性尿路感染症にて8剤内服。超高齢で重度の心不全と、尿路感染による度々の発熱のため、日中はベッド上で過ごす事が殆どであった。感情の表出が乏しく、自発的な発語も少ないため、ご本人の欲求や不満を把握する事が困難であった。そのためか、日中の事故発生が多く、ベッドからの転落という重大事故もあった。検証以前は眠剤投与時刻に覚醒されている事が多く、眠剤内服は必要な方と捉えていた。しかし、入眠導入効果が緩やかなのか、朝方から、うとうとされている事が多く、日中は傾眠で昼夜の逆転傾向が伺えた。そこで、体調に合わせて離床の時間を増やし、生活リズムを整えながら、眠剤投与を減らしていった。徐々に入眠確認時刻が早くなり、眠りスキャンによる睡眠時間も平均11時間と睡眠状況が改善されている事が確認出来た。現在は、自身から離床を希望される事が多くなり、フロアーでの表情は穏やかで、感情の表出も伺える様になっている。考察)これまで介護現場では、薬剤調整や処方の見直しに直接関わる事はなく、利用者の多剤内服に対して、誤嚥や誤薬、生活への影響等、問題意識があっても、改善提案を発信する機会は殆どなかった。一方で、介護の現場は、利用者の実際の生活場面を通じて、状態変化を最も身近で観察出来る立場は強みであり、薬剤見直しに対して、具体的かつ的確に情報を伝えていく重要な役割を担うと考える。事例紹介2名以外の検証対象者においても、持病の状態、生活の様子や心身の変化、又、BPSD症状の出現の程度やサイクル等を、観察し発信している事で現在は、減薬につなげる事が出来ている。今後は、客観的な評価指標を設定する等、連携の体制を医師、看護師のみならず他部署へ広げる事で、利用者のポリファーマシー対策のアプローチを広げていく事を目標としたい。最後に、生活リズムの改善や環境の調整など非薬物的な支援を積極的に行う事で、利用者の安心安全な生活が守れると改めて感じた。
