講演情報
[28-O-C005-06]その薬って必要ですか小さな疑問から始めたポリファーマシーへの取り組み
東京都 ○寺澤 昌美1, 伊藤 実1 (1.介護老人保健施設 ロベリア, 2.介護老人保健施設 ロベリア, 3.介護老人保健施設 ロベリア)
【はじめに】
私たちの担当するフロアには、認知症を発症した高齢者が多く39名入所しています。不安や不満を抱えたままの状態で入所することも少なくありません。そのため入所時に持参される薬には、眠剤や安定剤が含まれていることが多く、日中に寝ていたり、食事が極端に進まなくなるなど 明らかに薬の影響が考えられる場合以外は、服薬に対して深く介入することなく、そのまま様子を見てきました。しかし、ある日、新しく入職した職員からふとした疑問の声が上がりました。「その薬って、本当に必要ですか?」その小さな声がきっかけとなり、私たちは“就寝薬”に焦点を当ててフロアカンファレンスを開催しました。「寝ているのに起こしてまで飲ませる必要があるの?」「こんなに早い時間に飲ませて意味があるの?」「薬をやめたら寝られなくなるのでは?」「不眠者が増えて転倒事故につながるのでは?」など、様々な意見が飛び交いました。この「その薬って必要?」という気づきを出発点として、私たちはポリファーマシーを“多剤併用”だけでなく、“1剤でも不要であれば見直すべき”という視点でとらえ、業務とケアの両面から見直しを行うことにしました。________________________________________
【目的】
ポリファーマシー対策を「多剤服用の見直し」にとどめず、1剤でも高齢者のQOLやADLを損なう可能性があるなら再評価するという視点を持つことを目的としました。今回は就寝薬に着目し、多職種で協議しながら、尊厳を守りつつADLの維持・向上を図るとともに、職員の服薬介助にかかる業務負担の軽減を目指しました。________________________________________
【方法】
1.就寝薬の服用に関する現状の課題(就寝中で服用できないケースの増加)を施設長(医師)に報告。
2.「必ずしも服薬しなくてもよい薬剤」について確認し、次の薬剤が対象に
oデエビゴ
oロゼレム
oベルソムラ
oチアプリド
3.医師より「就寝中であれば服用しなくてよい」「中途覚醒時は24:00まで服用可」との指示を得る。
4.多職種で話し合い、対象者10名を選出。
5.服薬時間を20時頃と定め、既に就寝している場合は服用を見送るルールを設定。
6.状況に応じてカンファレンスを開催し、服用中止後は観察対応とする。
7.毎日の睡眠状況を記録し、睡眠パターン表を活用。
8.評価は1~2週間単位で実施。________________________________________
【結果】
対象者10名のうち9名は、就寝薬を中止しても睡眠に大きな問題が見られず、医師によって処方は終了しました。残る1名については、日中の傾眠が改善された反面、昼夜問わず多弁になり、安静保持が難しくなったため、就寝薬を継続する判断となりました。服用を中止した9名については、現在も特に問題なく就寝できており、中途覚醒の大半はトイレ覚醒で、排泄後は再入眠できています。時折、再入眠が難しいケースも見られますが、職員の傾聴対応で解決できており、薬の再開には至っていません。さらに、就寝薬の中止による転倒事故の増加も今のところ見られず、歩行が安定することで夜間のオムツ使用者が減少し、利用者の尊厳に配慮したケアの実現に近づけました。評価時に減薬できなかった1名も、現在では就寝薬を使用せずに穏やかに過ごされています。さらに、夜勤職員の服薬介助業務や見守り業務も軽減され、減薬の成果がみられました。________________________________________
【考察】
当施設に入所されてくる利用者さんは認知症の診断をされている方が多く、入院後や体調不良後の回復期だけでなく、介護者のレスパイト目的による入所も多く見られます。そうした背景には、夜間の不眠や落ち着かない行動による介護負担があり、「せめて夜だけでも安静に」「自分も休みたい」という家族の願いが、医師による就寝薬処方の一因になっているのではないかと考えられます。しかし、入所後に環境へ慣れ、職員のサポートを受けながら安心して生活するなかで就寝薬を使わなくても安定して眠れる利用者が多いことに気づきました。利用者の「自分の事は自分でやりたい」という思いを、減薬することで尊重できたのではないかと感じています。薬の力を借りることが悪いわけではありません。必要な時期に必要な薬を使用することは大切です。しかし、「今はもう必要ないかもしれない」と気づいたとき1剤であっても利用者の生活にどのような影響を与えているかを考え、私たち看護職が中心となって減薬に取り組む姿勢が求められます。また、「このケア、本当に正しいの?」と疑問を感じたときには、誰のための介護なのかを職員全体で立ち止まって考える機会を大切にしたいと思います。________________________________________
【おわりに】
今回の取り組みは、一人の職員の「その薬って必要ですか?」という小さな疑問から始まりました。その声を大切にし、職員全体で考え、行動した結果多くの利用者が薬に頼らずとも安定した睡眠を得ることが出来るようになった事は私たちにとって大きな学びでした。ポリファーマシー対策というと、どうしても「多くの薬剤を服用している人」が対象になりがちですが、たとえ1剤であっても、それが本人の尊厳や生活の質に影響を与えるものであれば見直すべきであるという視点は今後のケアにおいても重要だと実感しています。私たちは今後も、利用者一人ひとりの変化に気付き、医師や多職種と連携しながらより良いケアの実現に努めて行きたいと思います。そして、これからも「誰のためのケアなのか?」という問いを胸に、職員一人ひとりが考え、行動できるチームであり続けたいと考えています。
