講演情報

[28-O-C005-07]施設内感染症の発症割合から尿路感染症に焦点をあてて

三重県 井上 侑子, 西飯 真侑, 品川 まり子, 小川 幸一 (介護老人保健施設 志摩豊和苑)
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【はじめに】
 高齢者は、免疫機能の低下により感染症罹患リスクが高まる。尿路感染症、肺炎など当施設でも年間数十件の感染症が発生し、苑内での加療また提携病院への入院治療対象となっている。今回は、当施設での過去2年間の感染症発生割合を調べ、発症割合の高い尿路感染症に焦点をあて、課題発見と今後の対応をまとめた。なお、流行性の感染症(コロナウイルス、インフルエンザ)は別途に感染対策マニュアルを作成しているため除いた。

【方法】
 当施設は一般棟56床、認知専門棟44床の計100床の入所施設である。一般棟は老健施設として入退所が多くありショートステイ利用も多いため、今回は長期の利用が多い認知専門棟のみを対象とした。令和5年度と令和6年度の過去2年分の感染症発症数を調べ、感染症発症率(発症した利用者数÷毎年4月の全体の利用者数)をだした。また尿路感染症に関して、再発率(再発症例数÷その期間の症例数)と排泄自立度別の発症率を求め、月ごとの発症数も表にした。

【結果】
 令和5年度は、感染症発症件数53件。そのうち尿路感染症40件、誤嚥性肺炎4件、帯状疱疹2件、蜂窩織炎3件、その他4件。令和6年度は、感染症発症件数67件。そのうち尿路感染症53件、誤嚥性肺炎6件、帯状疱疹2件、その他6件である。施設内で発生する感染症では、尿路感染症が全体の8割、肺炎が1割をしめている結果となった。主な感染症である尿路感染症と肺炎の発症率は、令和5年度は尿路感染症47.7%、肺炎9.1%。令和6年度は、尿路感染症70.5%、肺炎13.6%である。尿路感染症は再発率が高く、令和5年度の再発率は43%、令和6年度は38%であった。尿路感染症を発症した利用者の排泄自立度別の発症率は、トイレ誘導者58%、オムツ対応者85%、膀胱留置カテーテル挿入者(以下Ba留置者)100%である。また、月ごとの発症数を比較すると、1年の中で9月から11月の発症が多いことが分かった。これらの結果から当苑で発症数の多い尿路感染症に焦点を当てていく。

【考察】
 令和6年の厚生労働省介護給付費分科会「介護老人保健施設及び介護医療院におけるサービスの提供実態等に関する調査研究事業」の調査結果によると、入所後に新たに発症した疾患は尿路感染症72.9%、肺炎58.3%である。当施設の感染症発症率を厚生労働省の調査結果と比較すると、尿路感染症の発症率はほぼ同じであるが、肺炎の発症率は低い。肺炎発症率が低いことは、当施設が力を入れている口腔ケアの効果が表れているのではないかと考える。
 尿路感染症に関して、発症要因は残尿の有無、陰部の衛生状態、水分摂取不足、免疫力の低下、基礎疾患の有無などである。一般的にもオムツ使用、Ba留置では発症リスクが高まり、当苑でもオムツ利用者、Ba留置者の発症率はトイレ誘導者に比べて高い。また、トイレ動作が自立の利用者は認知症による清潔観念の低下や身体機能の低下により排泄後の清潔動作(陰部の拭き取りやリハビリパンツの清潔保持)が不十分である可能性がある。またトイレの間隔が適切でなく残尿が多くなり、発症リスクが高まるのではないかと考える。9月から11月の感染者数が多いことについては、7月8月は施設全体で水分摂取を促すよう通達があり水分摂取促しへの職員の意識も高まるが、夏場を過ぎると気温の低下に伴い、意識が薄れ水分摂取量が低下するためではないかと推測する。
 問題点としてあげられるのは、同じ利用者が繰り返し発症していることである。尿路感染症を発症した利用者の4割が再発しており、Ba留置者は最多で年間8回の発症がある。認知症のある利用者はバルーン接続部外しも多く、無菌状態の維持が十分とはいえない。Baカテーテルの取り扱いについては、採尿バックの位置や管理の理解度を各職員に確認する必要がある。
 当施設で日常的に行っている取り組みに、毎朝の陰部洗浄と水分ゼリーよる水分補給がある。毎朝の陰部洗浄以外に、陰部清潔保持の為にはこまめなオムツ交換やトイレ誘導が必要といえる。しかし、職員配置の関係から頻度は限られることに加え、介助拒否がある場合もある。水分ゼリーは1日4回の配茶に加え、自力での水分摂取が少ない利用者に対して午前午後に1回ずつ提供し、見守り又は介助により摂取した事を確認している。また、嚥下機能低下により通常のお茶やトロミ茶の摂取が困難な利用者には、お茶を固めたお茶ゼリーを毎食提供している。当苑の食事に含まれる水分量を栄養士に確認したところ、主食副食共に常食の場合1日の食事に含まれる水分量は1000ml。ミキサー食の場合2000mlである。成人に必要な1日の水分摂取量は2000~2500mlであるため、食事から摂取できる水分以外に1000~1500mlを経口から摂取する必要がある。水分ゼリーを用いた水分摂取の促しにより、水分摂取量は十分であるように思えるが、利用者の状態や拒否により摂取できない場合もあるため確実ではない。
 これらの取り組みにより、尿路感染症発症を防ぐため日常的に意識しているが、認知症による介護抵抗や理解度の低下、業務の忙しさがあり、職員の意識の差があることは否めない。尿路感染症の発症要因をひとつずつ取り除き一貫した介助を行えるよう、今回の作成した表に適切なトイレ誘導により残量を減らす、陰部清潔保持の必要性、1日に必要な水分摂取量、Baカテーテル取り扱い留意点を加え、苑内に提示した。

【まとめ】
 尿路感染症をはじめとした感染症に罹患すれば臥床時間が増加する。寝たきりで筋力をほとんど使わなかった場合、1日で約3~5%の筋力が減少するといわれている。他者との交流が減少し会話が減れば認知機能の低下も進行する。疾患罹患率を低下させることは、利用者の残存機能の維持にもつながると考える。施設は治療の場ではなく日常生活の場である。疾患予防のため利用者に出来ることを、職員ひとりひとりが意識し継続して、行っていきたい。