講演情報

[28-O-C006-04]事故報告書から考えるスキン‐テア対策への取り組み -

三重県 岡林 真広 (介護老人保健施設トマト)
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【はじめに】
 介護老人保健施設の入所者は、年齢による皮膚機能の低下および日常生活援助から、スキン‐テア(皮膚裂傷)が発生することが多い。スキン‐テアとは、摩擦単独あるいは摩擦・ずれによって皮膚が裂けて生じる真皮深層までの損傷である。当施設においても、日常生活上、介助を必要とする入所者が多く安全な介助を提供することが求められるが、移乗時や入浴介助時は皮膚の露出も多いため、スキン‐テアを起こすリスクが高い。そこで令和4年に「スキン‐テアとは何か、予防と対策について」の研修会を行い、以後は介護実践を通して介護スタッフに教育的かかわりをもち予防対策を実施してきた。今回は、研修後のスキン‐テア対策の取り組みについて、ヒヤリハット・事故報告書を基に検証を行ったので報告する。

【目的】
 令和4年の研修会では、「入所者様の苦痛を軽減したい」この思いを具現化する過程において介護スタッフの行動変容を期待した。そこで、1、観察する2、予防を考える3、実践に繋げる、この3つのスキル取得を目標とした。今回は、このスキル取得成果と一連のサイクルの継続および予防対策の取り組みについての評価を事故報告書から検証する。

【方法】
 対象者
 入所者ショートステイを除く80名(令和7年6月16日現在、平均年齢89.8歳、要介護4、5は全体の52.5%、90歳以上52.5%)および所属する介護スタッフ30名、看護スタッフ16名
 介護、看護への教育的かかわり
 ・入浴時の身体保清の方法は、洗浄剤を泡立て手のひらで愛護的に洗い、身体を拭くときには押さえ拭きとする。
 ・体位変換や保清時に四肢を挙上する時は、上側からつかまず下側から支えて保持する。
 ・上肢や下肢を保護するためにアームカバーやレッグカバーの購入、衣類はゆとりのあるサイズや伸縮性のある衣類等を、家族に依頼し入所者に使用してもらう。
 ・ベッド周囲の安全環境調節は、ベッド柵への接触時の外力の緩和をするために柵カバーを作成し、使用する。
 ・看護スタッフの統一したケア方法としては、保湿剤を両手に広げて押さえるように愛護的に中枢から抹消に向かって塗布する。
 ・医療用粘着テープを使用時には、テープを使用せず保護が可能か個々の状態に応じて対策を行い、カンファレンスで情報共有する。
 検証期間
  研修前 令和3年4月1日~3月31日
  研修後 令和5年4月1日~3月31日、令和6年4月1日~3月31日
 検証方法
  令和3年度および令和5年度と令和6年度のヒヤリハット・事故報告書を比較し、3つのスキルの取得成果、一連のサイクルの継続、予防・再発防止対策について評価検証する。

【結果】
 スキン‐テアの発生件数は、令和3年度はヒヤリハット5件、事故報告書26件、令和5年度はヒヤリハット15件、事故報告書12件、令和6年度はヒヤリハット13件、事故報告書9件であった。事故報告書の内訳は、部位別では令和3年度は右上肢8件、左上肢7件、右下肢5件、左下肢6件、研修後の令和5年度は 右上肢4件、左上肢5件、右下肢1件、左下肢2件、令和6年度は、右上肢4件、左上肢2件、右下肢1件、左下肢2件であった。外力発生要因は、令和3年度は車いすとベッドの移乗時が9件、入浴更衣介助時が9件、転倒による打撲時が5件、ベッド柵での入所者自身によるものが3件、研修後の令和5年度は車いすとベッドの移乗時が5件、入浴更衣介助時が4件、転倒による打撲時が2件、ベッド柵での入所者自身によるものが1件であり、令和6年度は車いすとベッドの移乗時が3件、入浴更衣介助時が4件、転倒による打撲時が1件、ベッド柵での入所者自身によるものが1件であった。令和3年度で同一の入所者で繰り返し発生が4件あったが、令和5年度、令和6年度ではなかった。また、スキン‐テア発生は低栄養者や水分が入りにくい入所者であったという意見が3件あった。
 研修後であっても、スキン‐テア発生前に必要な対策を個別に実践できていなかった例や観察不足により予防的介入が不十分であり、発生後に介入を行うことが主となっていた。看護からはリスクの高い入所者の早期特定が効果的であると考えられるが、その特定のための観察による情報共有が不足していたとの声があった。

【考察】
 ヒヤリハットおよび事故報告書は、研修前と研修後では研修前に多かった事故報告件数が、研修後は減少しており、ヒヤリハット数は研修前よりも研修後に増加となった。また、ヒヤリハットと事故報告書の合計数および外力発生要因は年々減少していることから、スキン‐テアに関する職員教育による意識づけ、介護技術の工夫や向上、皮膚の保湿管理と観察などが実施され研修の成果であると考えられる。しかし、予防的介入の不足により、スキン‐テアの発生件数はやや軽減した程度にとどまっている。上肢に発生が多いことは、下肢に比べて動作時間が長いことや関節可動域の減少により衣類着脱時に困難になることが一つの要因であると考えられる。また、1、観察する2、予防を考える3、実践に繋げる、この3つのスキルについて、同一の入所者で繰り返し発生することがなかったことから、発生後には活用ができており、再発防止に繋がったと考えられる。
 今後の課題はリスクの高い入所者の早期の特定と情報共有を行い、早い段階での予防のための3つのスキルの実施である。

【まとめ】
 今後も高齢化の進展に伴い、脆弱な皮膚の入所者が増加することが予測され、スキン‐テアに対する予防的知識の習得とケアの充実、定期的な研修会と多職種との情報共有、例えば管理栄養士との連携による低栄養の改善、脱水予防、理学療法士による拘縮予防や福祉用具の選定などを実践し、予防的ケア技術の浸透に努めたい。当施設での日常生活が入所者にとって、より安全で安楽な施設環境に繋がるよう、今後もスキン‐テア対策への取り組みを継続していく。