講演情報

[28-O-C006-06]偏見と不安の先にあったものHIV患者受け入れを通じた職員の変化

福岡県 三浦 良子 (介護老人保健施設西寿)
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【はじめに】
 エイズ/HIV感染症は、治療法の進歩により長生きできる病気となった。しかし、介護を必要とするHIV陽性者の増加や未だに世間の偏見が根強く、介護施設や医療機関の受入れが難しいケースが多いなど、社会問題化されている現状がある。当老健でも受入れは全く想定していなかったが、併設している病院にHIV専門医が入職したことを機に依頼を受け検討することになった。情報提供を受けて入所までの1か月間に、受け入れ準備を行った活動の経緯について報告する。
【事例紹介】
55歳男性、 要介護3、 2017年にエイズと診断を受け治療開始。脳室炎、ニューモシスチス肺炎、非結核性抗酸菌症などの合併により入退院を繰り返している。キーパーソンの転居に伴い他県より本県のエイズ拠点病院への転院を経て併設病院に入院。入院中にHIVウイルス量は検出感度以下、CD4陽性リンパ球は150-200程度で、療養先として、当老健施設が選択肢の一つになった。情報提供を受けてから1か月後に当施設入所となる。
【活動期間】
2024年11月~2025年6月現在
【活動内容】
1. 令和6年11月にHIV感染症指導看護師による出前研修会を全職員対象に当施設で実施。 欠席者には、資料提供および出席者より伝達講習を実施。
2. コアメンバーで問題点を共有し、ケアマニュアルを作成。
3. 職員に対するアンケート調査
  時期:受け入れ6か月後に実施
  調査対象:職種を問わず利用者に接点のある職員58人
  設問内容:受入れ前後の不安や偏見とその変化、受入れに対する思い、社会問題としての認識、老健で受け入れることに対する考えなど
【結果】
 併設病院では、HIV専門医による研修会を複数回実施後に多床室で入院受入れ、他患者と変わらず入院加療を受けていた。当施設には、拠点病院の専門スタッフによる出前研修を受けた。研修前は不安や偏見を口にする職員が多かったが、研修後は前向きな意識へ変化が見られた。
 研修で得た知識をもとに、現場スタッフの想定される不安に着目して、ケアマニュアルを整備した。項目として「個人情報」「コミュニケーション」「介助方法」「薬の管理」「急変時に対応」「感染リスクに直面した際の対応」をあげた。
 利用者の入所受入れから6か月後にアンケートを実施した。回答率は58人中48人82%であった。
 不安について、「大いにあった」「あった」が受入れ前27人から9人に減少した。偏見について、「あった」「少しあった」が受入れ前は28人であったが、「大きくなった人」はおらず、「変わらない」が18人であった。感染リスクが最も不安や偏見の理由となっていた。不安が改善した理由として、「対応をしっかりすれば大丈夫とわかった」「事前学習が良かった」が多かった。施設入所について、「いいと思う」の回答は8人「あまりいいと思わない」12人、「わからない」23人「受け入れるべきではない」5人であった。社会問題については「知っていた」10人、「知らなかった」38人であった。それを踏まえ、当施設で受け入れたことに対しては「良かった」20人「どちらでもない」8人「わからない」15人「受け入れるべきではない」5人であった。「良かった」と回答した中に「もっとメディア等で報道すべき」「偏見や差別を解消するためには正しい知識の普及が必要」「普及活動の一つになればと思う」などの意見が複数あった。
【考察】
 不安や偏見に対する職員の意識の変化は、研修の効果が大きかったと思われる。特に、研修でHIV 感染症について「特別な予防策」は不要で、標準予防策であること、恐れる必要はなくHIV はB 型肝炎ウイルスやC 型肝炎ウイルスと比べても感染力が低いことを数値として示してもらったことが意識変化につながった。
 また、マニュアル作成においては、現場スタッフの想定される不安に着目したことが職員の安心材料となったと思われた。
 アンケート結果では、比較的肯定的な意見が多かったことに安堵するとともに、今後受け皿の拡大につながる期待感を得ることができた。
 受入れ体制の構築について迅速な対応が取れたのは、併設病院にHIV専門医がいたことも要因の1つと考えられる。
【おわりに】
 情報提供を得てから短期間の受入れになったが、受入れ前のネガティブな意識は大きく変化した。当施設の体験が普及活動の一助になることを期待したい。