講演情報
[28-O-C007-01]老健で強度行動障害を伴う医療ケア児を受け入れて9年目の挑戦
埼玉県 ○菅野 亜紀 (介護老人保健施設さんとめ)
【はじめに】
A施設では、2016年から障害児者のショートステイ(以下、障害SS)を、空床型で受け入れている。事業開始から9年が経ち、利用実績や利用相談が毎年増えており、地域で貴重な社会資源の一端を担っている。老健として全国的にもほとんど例がないと思われる、強度行動障害を伴う医療ケア児の宿泊利用について、昨年度より試行錯誤しながら開始したため、ここに報告する。
【目的】
障害SSを継続的に受け入れできるようにする
【倫理的配慮】
本報告にあたり、目的と内容を家族に説明した。また、発表に際して、施設や個人が特定できないよう配慮する事で、事例提供の同意を得た。
【事例紹介】
・Bさん:10代後半 女性 高等特別支援学校3年生(重複クラス) ・障害支援区分:区分3
・疾患名:てんかん、心房中隔欠損術後(R3)、知的障害、脳性麻痺による両上肢機能障害・両下肢機能障害・体幹機能障害、歩行困難(5メートル程度の歩行は可能)
・特性:視覚聴覚正常と思われる。言語的コミュニケーションは難しいが、ジェスチャーと声で反応有。簡単な指示理解は可能。タブレット動画視聴・紙ちぎりが好き。
・母の利用希望:兄弟の行事があるため、初めから宿泊希望。SS利用で、本人の経験値を増やし、今後の療養先につながる対応力を親子で身に着けたい。今まで自宅と修学旅行以外に宿泊したことがないので、Bの行動が予測できない心配はある。自宅では発作は数年起きていないが、一番直近で2023年の修学旅行でてんかん発作があり、ダイアップ座薬を使用したとのこと。
【取り組み内容】
(1) 事前に受け入れ準備として、ご本人の様子確認を含めた見学対応を行う。相談員と看護師で対応し、母から注意点の情報聞き取りを行う。
(2) 受け入れを行い、退所後に、その後の受け入れについての検討を多職種で行う。
【結果】
(1)母と一緒にA施設の見学に来ていただいた。1時間程度過ごしていただく。母と一緒にいるBさんは表情豊かで、ハイタッチを職員と何度も繰り返し、興奮気味だった。この時点では、車椅子を自らすり抜けたり、動き回る様子はみられなかった。母の希望の聞き取り、重要事項等の説明を行った。その後の判定会議では、ダイアップ座薬持参で1泊なら利用可能との判断あり。
(2)初回宿泊
2024年夏。母と来所し、昼食が終わるまで2時間ほど一緒にさんとめで過ごしていただいた。母から職員へ、Bさんの特性や対応方法を教えて頂いた。その時点では落ち着いて過ごされていた。しかし、母が帰宅後、Bさんは、驚異的な柔軟性で車椅子ベルトからすり抜け降りて、タブレットの動画をみたり、紙ちぎりをはじめた。ステーション内のあらゆる紙をちぎるため、重要書類は鍵のかかる別室へ移動して対応した。夜間になると、動きは活発化し、添い寝をしても寝る様子は全くなかった。ふらつき強いが歩行可能で動きが早い。大声で人を呼んだり泣いたりしながら、自由に歩き回り、突然、床に寝転がる様子もあり。意志表出や承認欲求に職員が対応できないとわかると、ますます多動で衝動性が強くなっていき、強度行動障害(多動・こだわり・確認行為・破壊行為)の状態になった。行動が読めず、目が離せない状態が続いた。結果、一晩不眠で経過し、Bさんも職員も疲労困憊で朝を迎えた。朝7時すぎに母に電話し、早めのお迎えを依頼。8時半ごろに母が到着し、顔を見たとたんに大発作あり。ダイアップ座薬を使用し、9時半ごろに帰宅された。
・振り返りと対応策:母がいる場合には、強度行動障害はみられなかった。Bさんは一人になり、初めてのA施設の環境に強いストレスを感じ、不安・不快を感じながら、回避する術もなく自分なりの行動を繰り返し、強い行動になっていったと考えられる。受け入れ側としても、見学時とは別人のような動きをする、これほど衝動性・多動性がつよい児童の前例がなく、戸惑いがあったことは否めない。一般的な高齢者ケアとは違った寄り添い方が必要で、常時、承認欲求があったことからも、本来ならば24時間体制でBさんに付き添い、対応する職員が、夜勤者以外に必要だったと反省あり。このことを踏まえ、次回より、部門責任者が夜勤に入ることに加え、介護職1名追加で夜勤体制を組み、受け入れることになった。
2回目宿泊
2025年春。Bさん専属職員により破壊行動はなかったが、初回とは別の職員だったためか、興奮しアピールすることが多く、多動性は変化がなかった。深夜帯に大発作あり、ダイアップ使用し2時間ほど休まれた。それ以降もふらつき強く動き回り、何度誘導しても体を休めることが出来なかった。再度、朝7時すぎに母に電話しお迎えしていただく。その時にも、前回同様大発作あり。このSSではダイアップを2回使用した。
・振り返りと対応策:夜勤追加体制は継続を行う。この夏3回目来所予定である。
【考察】
Bさんは職員の顔を覚えて認識していることがわかった。前回対応した看護師の指示を、しぶしぶながらも受け入れる様子もあり、Bさんの学習能力の高さに気が付くことができた。利用者の成長と発達を感じられる、障害SSの新たな魅力に、職員が気付くことが出来た。老健の体制上、同じ職員で対応することは難しいが、Bさんの特性を理解した職員を増やしていく必要がある。また、度重なる発作があっても、Bさんのお母様の利用姿勢は変わらない事に感謝したい。障害SSの利用浸透・拡大には、このような保護者協力も必須である。
【まとめ】
A施設の取り組みを広く知っていただき利用増に向けて、今後は、地域の生活介護事業所から親子見学に来てもらう取り組みを進めたいと考えている。また、県内老健の障害SSの登録はあれども、実績がある老健が非常に少ないことが分かっているため、県の医療ケア児等支援センター・地域センターと連携し、受け入れにつながる仕組み作りをしていきたい。
A施設では、2016年から障害児者のショートステイ(以下、障害SS)を、空床型で受け入れている。事業開始から9年が経ち、利用実績や利用相談が毎年増えており、地域で貴重な社会資源の一端を担っている。老健として全国的にもほとんど例がないと思われる、強度行動障害を伴う医療ケア児の宿泊利用について、昨年度より試行錯誤しながら開始したため、ここに報告する。
【目的】
障害SSを継続的に受け入れできるようにする
【倫理的配慮】
本報告にあたり、目的と内容を家族に説明した。また、発表に際して、施設や個人が特定できないよう配慮する事で、事例提供の同意を得た。
【事例紹介】
・Bさん:10代後半 女性 高等特別支援学校3年生(重複クラス) ・障害支援区分:区分3
・疾患名:てんかん、心房中隔欠損術後(R3)、知的障害、脳性麻痺による両上肢機能障害・両下肢機能障害・体幹機能障害、歩行困難(5メートル程度の歩行は可能)
・特性:視覚聴覚正常と思われる。言語的コミュニケーションは難しいが、ジェスチャーと声で反応有。簡単な指示理解は可能。タブレット動画視聴・紙ちぎりが好き。
・母の利用希望:兄弟の行事があるため、初めから宿泊希望。SS利用で、本人の経験値を増やし、今後の療養先につながる対応力を親子で身に着けたい。今まで自宅と修学旅行以外に宿泊したことがないので、Bの行動が予測できない心配はある。自宅では発作は数年起きていないが、一番直近で2023年の修学旅行でてんかん発作があり、ダイアップ座薬を使用したとのこと。
【取り組み内容】
(1) 事前に受け入れ準備として、ご本人の様子確認を含めた見学対応を行う。相談員と看護師で対応し、母から注意点の情報聞き取りを行う。
(2) 受け入れを行い、退所後に、その後の受け入れについての検討を多職種で行う。
【結果】
(1)母と一緒にA施設の見学に来ていただいた。1時間程度過ごしていただく。母と一緒にいるBさんは表情豊かで、ハイタッチを職員と何度も繰り返し、興奮気味だった。この時点では、車椅子を自らすり抜けたり、動き回る様子はみられなかった。母の希望の聞き取り、重要事項等の説明を行った。その後の判定会議では、ダイアップ座薬持参で1泊なら利用可能との判断あり。
(2)初回宿泊
2024年夏。母と来所し、昼食が終わるまで2時間ほど一緒にさんとめで過ごしていただいた。母から職員へ、Bさんの特性や対応方法を教えて頂いた。その時点では落ち着いて過ごされていた。しかし、母が帰宅後、Bさんは、驚異的な柔軟性で車椅子ベルトからすり抜け降りて、タブレットの動画をみたり、紙ちぎりをはじめた。ステーション内のあらゆる紙をちぎるため、重要書類は鍵のかかる別室へ移動して対応した。夜間になると、動きは活発化し、添い寝をしても寝る様子は全くなかった。ふらつき強いが歩行可能で動きが早い。大声で人を呼んだり泣いたりしながら、自由に歩き回り、突然、床に寝転がる様子もあり。意志表出や承認欲求に職員が対応できないとわかると、ますます多動で衝動性が強くなっていき、強度行動障害(多動・こだわり・確認行為・破壊行為)の状態になった。行動が読めず、目が離せない状態が続いた。結果、一晩不眠で経過し、Bさんも職員も疲労困憊で朝を迎えた。朝7時すぎに母に電話し、早めのお迎えを依頼。8時半ごろに母が到着し、顔を見たとたんに大発作あり。ダイアップ座薬を使用し、9時半ごろに帰宅された。
・振り返りと対応策:母がいる場合には、強度行動障害はみられなかった。Bさんは一人になり、初めてのA施設の環境に強いストレスを感じ、不安・不快を感じながら、回避する術もなく自分なりの行動を繰り返し、強い行動になっていったと考えられる。受け入れ側としても、見学時とは別人のような動きをする、これほど衝動性・多動性がつよい児童の前例がなく、戸惑いがあったことは否めない。一般的な高齢者ケアとは違った寄り添い方が必要で、常時、承認欲求があったことからも、本来ならば24時間体制でBさんに付き添い、対応する職員が、夜勤者以外に必要だったと反省あり。このことを踏まえ、次回より、部門責任者が夜勤に入ることに加え、介護職1名追加で夜勤体制を組み、受け入れることになった。
2回目宿泊
2025年春。Bさん専属職員により破壊行動はなかったが、初回とは別の職員だったためか、興奮しアピールすることが多く、多動性は変化がなかった。深夜帯に大発作あり、ダイアップ使用し2時間ほど休まれた。それ以降もふらつき強く動き回り、何度誘導しても体を休めることが出来なかった。再度、朝7時すぎに母に電話しお迎えしていただく。その時にも、前回同様大発作あり。このSSではダイアップを2回使用した。
・振り返りと対応策:夜勤追加体制は継続を行う。この夏3回目来所予定である。
【考察】
Bさんは職員の顔を覚えて認識していることがわかった。前回対応した看護師の指示を、しぶしぶながらも受け入れる様子もあり、Bさんの学習能力の高さに気が付くことができた。利用者の成長と発達を感じられる、障害SSの新たな魅力に、職員が気付くことが出来た。老健の体制上、同じ職員で対応することは難しいが、Bさんの特性を理解した職員を増やしていく必要がある。また、度重なる発作があっても、Bさんのお母様の利用姿勢は変わらない事に感謝したい。障害SSの利用浸透・拡大には、このような保護者協力も必須である。
【まとめ】
A施設の取り組みを広く知っていただき利用増に向けて、今後は、地域の生活介護事業所から親子見学に来てもらう取り組みを進めたいと考えている。また、県内老健の障害SSの登録はあれども、実績がある老健が非常に少ないことが分かっているため、県の医療ケア児等支援センター・地域センターと連携し、受け入れにつながる仕組み作りをしていきたい。
