講演情報

[28-O-D005-02]本人の立場に立った認知症ケアの重要性

愛媛県 原田 真里奈, 小川 賢児, 西田 ゆかり, 新良 寿也, 城石 未希, 山本 昌也 (済生会松山老人保健施設にぎたつ苑)
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【はじめに】
厚生労働省によれば、認知症高齢者数は今後もさらに増加すると報告されている。その中にはBPSDへの対応が困難との理由で、やむを得ず施設を退所される方も存在し、そのような認知症高齢者が今後も施設生活を継続できるようにするためにも認知症ケアの質を高めていくことが求められる。
【目的】
BPSDは本人に合った適切なケアにより症状の予防や軽減が図れると言われている。そこで、症状が現れた後のその場しのぎの対処ケアではなく、症状が現れる前からの適切なケアを行うことで、対象者が安心して穏やかに生活できる、とした。
【方法】
多職種(看護師、介護福祉士、リハビリスタッフ、認知症ケア専門士のケアマネジャー等)で構成された認知症ケア向上委員会(以下、委員会)を発足(R5.4)。委員会が中心となり、BPSDが生じた利用者に対して職員全体で適切なケア(認知症ケア)を検討し実践した。
〈手順〉
1.対象利用者を選定後、BPSDとその要因、生活歴、施設での過ごし方等情報収集に加え、「BPSD気づき質問票57項目版(NQ57)」も活用しBPSDを評価する。
2.1をもとにケア内容を検討し実践、評価する。
3.1クール3ヶ月として、毎月の委員会で経過を報告する。ケアを進める中で生じた課題を共有し多職種で解決策を検討する。加えて社内掲示板で職員全体に活動内容、経過、評価を共有する。
4.再検討したケア内容を実践、評価を繰り返す。
【事例紹介】
A様 92歳 認知症自立度IIIa。入所当初は短期記憶障害がみられるもシルバーカーで移動し、身の回りのことはある程度自立していた。次第に下肢筋力が低下し車椅子生活となり、生活動作全般に介助を要する状態となる。加えて意欲、認知機能の低下もみられ、NQ57値13点、昼夜問わずトイレ希望頻回(トイレ誘導回数平均13.8回/日)、日中の傾眠、夜間の中途覚醒(睡眠時間平均6.8時間)等のBPSDが生じた。
【経過】
本事例の認知症ケアの経過は主に4段階(〈1〉~〈4〉)に大別される。
〈1〉アセスメントの結果、トイレ頻回要因は短期記憶障害によりトイレに行ったことを忘れてしまうこと、「間に合わなかったらいけない」等の言動から失禁への不安等による精神的なもの、特にすることがなく落ち着いた時間帯に多くなる傾向から手持無沙汰になった際にトイレに意識が向いてしまうと考えられる。そこでトイレ誘導は前回トイレ使用後から1時間経過してからとし、A様も経過時間が確認できるよう置時計、ホワイトボードを設置した。また日中の意欲的な活動量を増やすために、認知症ケア介入前から下肢筋力の維持・向上を目的に意欲的に取り組まれていたフロアリハビリ(平行棒内歩行。以下、フロアリハ)に加え、塗り絵や軽作業など毎日様々な日中活動を勧めた。結果(1)トイレ誘導回数11.9回/日,(2)睡眠時間6.9時間,(3)NQ57値13点、BPSDには大きな変化はみられず認知症ケアの方針が職員目線であるのでは?と課題となった。
〈2〉ケアを再検討し、ストレス軽減を目指す方針へ転換した。トイレ誘導は「トイレにいつでも行ける安心感」からトイレへの不安軽減を目的に、希望時に都度誘導へ変更、その他内服薬の調整をした。日中活動は〈1〉の期間で意欲的に取り組めていたフロアリハを中心に行った。トイレ希望回数の多い本事例に快く付き合うことに全職員不安はあったが、次第に夜間の睡眠時間は増加、トイレ希望回数も徐々に減少しBPSDは緩やかに改善した((1)11.5回/日,(2)8.6時間,(3)8点)。しかし、これまで意欲的だったフロアリハに消極的となり、「急に足が立たなくなった」等の不安の訴えが急増した。これは加齢に伴う下肢筋力、認知機能の低下で不安が強まったと推察される。また認知症ケア開始から半年経過しており長期継続による心身の負担もあると考え、ケア内容を再検討した。
〈3〉トイレ誘導は引き続き希望時都度誘導、フロアリハは心身の負担を考慮し週3回へ減らした。また不安の明確化のため不安言動時の記録を職員へ依頼した。
【結果】
睡眠時間の増加、トイレ希望回数も減少しBPSDは改善傾向。A様の不安は、不安言動時の記録から「翌日の心配事」、「認知面」、「排泄面」、「身体面」が主であることが明らかとなった((1)8.4回/日,(2)9.8時間,(3)7点)。特にNQ57は-6点で、「常同行動」「脱抑制」の項目で減少がみられた。
本事例を通し、「トイレ希望回数を減らす」ことがBPSDの改善といって職員側の理想を押し付けるのではなく、本人の言動や思いからニーズを把握し、本人の立場に立って多職種で適切なケアを繰り返していくことの重要性について学ぶことができた。
〈4〉その後、新型コロナウイルスに感染しADL、活気が大幅に低下、下肢筋力低下著明で終日おむつ対応となり、ケア内容を多職種で再検討。「また歩けるようになりたい」という思いを尊重するとともに、A様への認知症ケアにおけるリハビリは「「自分の希望を受け入れてもらえている」という安心感を得てもらうためのケアの1つ」であり、その日できることを行うことで成功体験を重ね、快刺激を増やすことが重要と助言いただき、リハビリスタッフと相談しメニューを変更し継続している。現在A様は依然として活気は低いが、以前より表情は穏やかに、昼夜落ち着いて過ごされるようになった。
【考察】
当委員会では令和5年度から当事例を加えた21名の方に対して定期的に多職種で評価、見直しによる予防的な認知症ケアを繰り返し検討・実践し、その経過を全職種で共有している。
令和6年度から介護報酬改定により認知症チームケア推進加算が新設されたが、改定前年度に当委員会活動があったことで新規加算取得時にも円滑に移行することができた。
今後も試行錯誤を重ねながらこの過程を継続することで、当苑における認知症高齢者に対する「適切なケア」はより進化し、標準化していくと考える。