講演情報

[28-O-D007-03]「認知症ケア」導入による一利用者の変化

岐阜県 林 紗世, 大前 華苗 (独立行政法人地域医療機能推進機構可児とうのう病院附属介護老人保健施設)
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【はじめに】
少子高齢化が進み、日本の高齢化率は約29%となっている。超高齢化社会になったことで介護難民や老々介護などの問題が起きている。当施設でも入所者数は増加傾向にあるが職員数は減少しており、利用者との関わりやケアが十分に出来ていないのではないかと感じる。そこでケアの見直しと質の向上を図ることを目的に、職員には「介護老人保健施設における認知症ケア」の実態調査、利用者には改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)を実施した。点数が著しく改善したS利用者の認知機能面の変化と現状の把握、それに伴う職員の意識変化を報告する

【対象:(1)実態調査の対象者(2)HDS-Rの推移を見る利用者】
(1)フロアに従事する34名の介護と看護職員
(2)B利用者 93歳女性  2020年6月11日入所 入所時HDS-R:6点
障害高齢者自立度B2  認知症高齢者自立度IIIb
既往歴:心不全、弁膜症、高度アルツハイマー型認知症
BPSD (妄想 昼夜逆転 暴言 徘徊)

【経過】
入所前より自宅では昼夜逆転傾向で寝るのは夜中の2時~3時頃、空腹の訴えが強く自宅内の本人が通る箇所にお菓子を置いていた。また、眠剤も飲んだことを忘れてしまい何度も要求されるためご家族は疲労困憊であった。入所にあたり、生活リズムの改善を希望されたが、認知症もあり対応困難となっていた。精神科医師に相談し眠剤の検討も適宜行ったが、入所後も同様に夜間、お菓子や眠剤の要求が続いた。大部屋で他利用者もいる中、自分の要求が通らないと大声を出したり、コールを押し続けた。これらの対応としてお菓子を渡して食べていただくが、食べる量も1,2つで納得しないことがあり。大声を出される際には一度端坐位になって頂き、ベッドの傍で付き添い、話をすることで落ち着き表情が穏やかになった。集団生活においては、他者交流が苦手な面あり。他利用者や職員との交流なく1日を過ごされるという生活の繰り返しであった。

【実施内容】
(1)職員に対し「介護老人保健施設における認知症ケアの実態調査」を2025年5月実施。
(2)S利用者は認知症ケア加算対象者として当施設の取り組みである「認知症リハビリ」を毎日1回、10分程度実施。リハビリ内容は、木工パズルや計算プリント、コミュニケーションといった認知機能面にアプローチするよう個別に時間を設けて関わった。実施した際の様子はその都度記録に残し、職員が情報共有できるようにした。また、毎月1回認知症ケアに特化した有資格者を含む各専門職が集まり、実施内容の確認と見直しが行われた。加えて、3ヶ月ごとにHDS-Rを実施し点数と状態の変化についても確認。生活面では、音楽療法や毎週実施しているカラオケレクやクイズ、レクリエーション等、集団でのリハビリに参加を促し、他利用者と交流のきっかけを作り、関係性の構築へと繋げた。

【結果】
(1)職員への調査結果より、できている(満足)と回答した人が全体の半数以上であった。今回の取り組みに関連するカテゴリー別で見た場合、「安心を高める環境づくり」「生活の継続性への支援」「潜在能力を引き出す支援」の項目で職員自身の満足度が高いという結果が得られた。このことから、職員がPDCAサイクルを回し、情報共有、継続したケアが行えたと考える。更にはよりよいケアを利用者に提供できていることも調査で明らかにすることができた。
(2)S利用者のHDS-Rの点数が2020年は6点だったが2025年は19点と上昇していた。点数変化に伴い、生活面ではお菓子等の要求が無くなりまとまった睡眠がとれるようになった。眠剤の希望は現在も時々あるが、プラセボでも入眠できるようになった。「認知症ケア」を継続して行っていく中で徐々に笑顔も増えた。加えて、消極的だったレクリエーションや他者交流に参加されるようになり顔見知りの利用者や職員も増え信頼関係を築くことができた。

【考察とまとめ】
認知症利用者のBPSDの背景には本人が深いストレスを感じるような原因、例えば急な環境変化は大きなリスクに繋がる。できる限り慣れ親しんだ生活は変化させないことが重要となるが、施設入所は他者との集団生活となり負担になることが予測される。その結果、中にはS利用者のようにBPSDが顕著に出現することもある。だがその他にも原因がないか探り不快の誘引を取り除くことが重要であると田中諭(2014)は述べている。今回の事例において、環境や整備が整っている施設で医療、介護、栄養、リハビリといった多職種が揃い多方面からアプローチを受けることができたことで更にS利用者の潜在能力を引き出し、認知機能の改善に繋がった。S利用者が続けてきた「認知症リハビリ」や日々職員が行っている「認知症ケア」を通して築けた利用者と職員との信頼関係が、HDS-R点数上昇や実態調査において職員の満足度が高かったことに影響を与えたのではないか。更に個人の関わりだけでなくチームケアとして日々、情報共有しながら実践してきたことで「ケアの統一」が可能となり利用者、職員共に優位な結果に繋がったと考える。今後も今回の取り組み結果をプラスに捉え、PDCAサイクルを上手く循環し「集団」と「個別」での「認知症ケア」を軸として施設ケアに生かしていきたい。

引用文献
1)田中諭:認知症高齢者の行動・心理症状(BPSD)に対する支援のあり方:P108:2014.1
参考文献
1)厚生労働省ホームページ