講演情報

[28-O-D007-04]認知症チームケアが利用者と職員にもたらしたもの

広島県 石原 美華, 日當 星七, 村山 美保, 黒岡 梨沙, 野村 俊雄 (介護老人保健施設ピア観音)
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【はじめに】当施設は令和6年度から開始した「認知症チームケア推進加算」を算定すべく、認知症チームを発足させた。認知症による立ち上がりで転倒を繰り返すお客様を対象としそのBPSDの軽減を図ろうと取り組みを開始した。本報告ではその取り組みを行う事で対象の利用者とそこに関わった職員にどのような結果をもたらしたのかを報告する。
【対象者】
 S様 80代男性 要介護度3 自立度 障害B3 認知IV HDS-R 初回1点
【取り組みと経過】入所時より車椅子から立ち上がっての転倒やベッドからの転落を繰り返し都度報告書を作成。3ヶ月あまりで事故発生件数15件と他の利用者と比較しても件数が突出しており、常時目が離せない状況にあった。今回の加算を算定するにあたり介護士、看護師、療法士、ファシリテーターからなる認知症チームケアを立ち上げ、カンファレンスを開催。本人の声をまとめると「難しくなってきたことがいっぱいある」「ダメになってしまった」と悲観的な発言が多いことがわかった。また、立ち上がる理由を分析したところ、トイレや帰宅願望など何かしらの用がある場合に多く表れているのではないかとの結論に至った。取り組みを開始するまでは、急な立ち上がりに対して「危ないから立たないで」「座ってください」など本人の行動そのものを抑制するような言葉かけを多用していた。本人の声に自己否定的な内容がある点から、そういった言葉がけが本人の自尊心を傷つけてしまい、それが本人のストレスの原因になっているのではないかと仮定。介助者自体も度重なる対応がストレスになってもいたため、認知症ケアとして「立ち上がった際の対応を統一する」事を取り組むものとした。立ち上がった際はすぐに抑制せず、まずは「どうしましたか?」と本人の思いを確認する事から始め、自分の意思を上手く表せられない場合は「トイレに行ってみませんか?」など行動を提案してみて、反応を見て「では車いすに座っていきましょう」と自然な流れでの着座を促す習慣をつける事とした。立ち上がる場面は離床中のランダムに発生しており、いつ起こるか分からない状況なので、職種に関係なくその場に居合わせた職員全員が同じ対応を取る事とした。
【結果】 取り組み開始から数カ月経過、統一した対応が徐々に定着する事で急な立ち上がりがなくなる事はなかったものの、はじめに要件を伺って対応することで排せつの希望や帰宅願望が現れるパターンが掴めるようになり、職種に関係なく皆が統一した対応を取る事によってS様の排せつの失敗が取り組み前より軽減し、帰宅願望表出時の対応が適切となったのか徐々にS様の表情が不安なものからおだやかな落ち着いた表情へと変化していった。(HDS-Rも1点から5点に改善)転倒件数は0には至らないものの、件数が月1回以下のペースに減少するなど数字的にみても良好な結果を得られる事となった。その後S様が退所されたためBPSDQの変化についてはデータを得られなかったが、この取り組みを通じて職員の言葉がけの質が変容しS様以外の認知症を持つ利用者に対しての対応も、抑制的なものから相手の思いを汲み取ったうえで対応するようになっていた。以上の結果を踏まえ、一連の取り組みを検証する意味も兼ねての振り返りアンケートを実施し職員の心理にどのような変化があったのか調べる事とした。
【考察】アンケートの集計結果によって、やはり職員の認知症高齢者に対する関わり方そのものに変容があらわれたことが分かった。S様に対しはじめ抑制的な言葉かけをしていたのは「転倒させたくない」「S様にけがを負わせさせたくない」「その後の事務処理が面倒だ」などの心理が働いていた事は容易に理解できるが、関わり方を見直しそれが良好な結果に繋がったという成功経験を通じて職員本位の考えから利用者本位の考えにシフトチェンジすることが出来たのではないかと考察する。『良い言葉かけから良い反応が生まれる』という事実は、結果的に両者のストレスを軽減させることになり、利用者にとってはBPSDの軽減が、職員にとっては仕事に対するモチベーションと仕事の質両方の向上が図れるといった好循環を生み出す要因となったのではないかと思われる。それはひとえに認知症高齢者を「一人の人間」として捉えるといったごく基本的な考え方を職員一人ひとりが理解できたからに他ならない。
【まとめ】今回の認知症チームケア推進加算を算定する中で、「BPSDの軽減」がその目的の一つに上がっているが、算定自体はアウトカム評価ではなく「取り組みに対するプロセス評価」となっている。チームとしてどう取り組んだかの経過で言えば、言葉がけとを中心とした「認知症高齢者に対する関わり方」を統一して実施する事であったが、結果としてそのプロセスが施設全体の介護の質の向上を図る事に繋がった。そして、それはS様への対応といった限定的なものではなく、その他の認知症を持つ利用者に対する関わり方にも同様で、相手の意思を確認したうえで対応するという利用者本位の尊厳保持を目的とした関わり方を自然と身につけることが出来るようになったといえる。認知症のチームケアにおいてカンファレンスでその人の人となりを理解した上で関わるというプロセスは今後も、認知症ケアの基本として定着すべき手法であると思われる。