講演情報

[28-O-D007-07]認知症利用者の口腔ケアにおける支援の変化プロセスレコードを活用して

京都府 木村 悠紀, 中村 悟, 安井 明日香, 小倉 千明, 川上 絵梨香 (介護老人保健施設 おおやけの里)
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【はじめに】高齢化が急速に進む中、認知症を抱える高齢者の人数も増加している。口腔ケアは、誤嚥性肺炎の予防や全身の健康管理において大きな役割があり、健康維持や生活の質(QOL)の向上のために重要である。しかし、認知症の進行に伴い、利用者は口腔ケアに対して拒否的・混乱的な反応を示しやすく、職員が対応に困難を感じる場面が多い。特に新人職員は知識や経験が乏しく、日々の業務の中で不安を抱えながら支援しているのが現状である。当施設でも認知症利用者の増加に伴い、認知症ケアに不安を感じる職員への支援、特に新人職員がその不安を感じやすい傾向にあり課題となっている。そこで、新人職員の不安軽減とケアの質向上のために、「プロセスレコード」を活用する取り組みを始めた。プロセスレコードを用いることで、職員が自らの支援を振り返り、利用者への関わり方や工夫を言語化・可視化し、自己理解を深められることが期待される。本研究では、「認知症利用者への口腔ケア支援において、プロセスレコードの活用が新人職員の不安を軽減し、ケアの質向上につながる」という仮説のもと、その有効性を検証することを目的とした。
【背景】当施設における認知症高齢者の日常生活自立度は、3aが54名、3bが14名、4が7名となっている。口腔ケアの重要性は認識されているが、認知症による拒否や混乱のため、支援が困難になるケースが見受けられる。職員構成は、介護福祉士資格保持者が84名(勤務年数1~2年27名、3~9年26名、10年以上31名)に加え、認知症介護指導者が7名、認知症介護実践リーダー研修修了者が10名在籍しているものの、その専門性を活かしきれていない現状がある。介護職員の多くは経験年数が浅く3年未満51名、特に新人職員の不安感や支援の困難さが課題となっている。こうした課題は、職員間の技術や経験の差、教育支援体制の不足が課題の背景となっている。実施した職員アンケート(無作為抽出)では、認知症利用者への口腔ケアに「困っている」と回答した職員が半数を占め、具体的には、「入れ歯の着脱拒否」「水分によるむせ込み」「意思疎通の困難」「義歯の紛失」などが挙げられた。また、過去の支援経験でも「うがいができず誤嚥の危険があった」「介入への強い拒否」などが報告されており、日々のケアにおいて職員が葛藤を抱えていることが明らかとなった。さらに、口腔ケア支援において職員が留意すべき点としては、「事前の同意取得」「非言語的コミュニケーション」「本人のペースを尊重した対応」などが挙げられ、これらの工夫が支援の質向上に繋がる可能性が考えられる。
【方法】新人職員の不安および支援技術の変化を明らかにすることを目的に、複数のフロアより新人職員を各2名選定した。口腔ケアを行う利用者の対象は、支援が困難とされる認知症利用者とした。今後、対象職員には口腔ケアの支援実施後3時間以内にプロセスレコードを記入してもらい、支援の流れ、気づき、不安に感じた点等を記録してもらう予定である。記録内容はフロア管理者が確認し、支援を困難に感じた場面や戸惑いの要因を把握する。また必要に応じて半構造化インタビューを実施し、不安の背景を具体的に把握することを目指す。さらに職員アンケートを実施し、1認知症利用者との関わりに対する不安の有無、2不安の程度(5段階評価)、3不安を強く感じる支援場面(例:口腔ケア・排泄介助等)について調査し、職員が抱える心理的負担の実態を把握する予定である。
【結果(予想される効果)】プロセスレコードを用いた振り返りによって、新人職員は自身の支援の過程を客観的に見直し、利用者の行動や反応に対する理解を深めることが可能となる。また、フロア管理者や先輩職員とプロセスレコード共有することで、職員への教育の力が高まる。結果として、職場全体で新人職員をサポートできる体制が整う。さらに、アンケート調査を通じて職員が感じる不安や戸惑いを明らかにし、ニーズに応じた研修や支援策の立案・実施を行うことで、職員が安心して支援に取り組める環境づくりとなることが期待される。
【考察】本研究では、プロセスレコードの活用が新人職員の不安を軽減する効果をもつ可能性について、仮説をたて検討した。これまでの分析や記録を通じて、職員は自身の支援の流れを客観的に振り返り、利用者への理解を深める機会を得て、支援に対する心理的な不安が緩和される傾向が見られた。特に、認知症利用者の支援において戸惑いや緊張を抱えがちな新人職員にとって、記録と振り返りのプロセスは、対応の工夫や自己肯定感の向上に繋がる有効な手段となり得る。今後は、こうした実践的な学習支援を継続的に運用するとともに、他の支援や職員層への展開を図ることで、支援技術の定着だけでなく、職場全体への指導力の向上にもつながると考えられる。
【結論】本研究では、認知症の利用者への口腔ケアにおいて、新人職員の不安を減らし、ケアの質を高めることを目的に、プロセスレコードの活用を試みた。支援後の振り返りを行うことで、新人職員は自身の対応を見直し、技術や判断力を向上させることができる。その結果、心理的な負担が軽くなり、安心して日々の支援に取り組める環境づくりにもつながると考えられる。今後は、こうした取り組みの効果を継続的に確認しながら、教育的な支援方法や働きやすい職場環境をより良くしていくことが重要な課題である。