講演情報

[28-O-H001-04]個別ケアで失禁へのアプローチ~雪だるま症候群防止~

京都府 上條 有世 (社会福祉法人堀川健康会介護老人保健施設じゅんぷう)
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【はじめに】
当施設では排泄援助に際して「ご利用者の意思の尊重やプライバシー厳守・排泄自律に向けたケアを行う」という理念に基づき、個別ケアを実践している。
しかし、排泄委員会が中心となり排泄ケアの現状把握を行った所、全ご利用者の約30%の方に「尿漏れ防止の為に不適切な吸収量の尿取りパット(以下「パット」と表記)の使用や、重ね当てをしている」状況が分かった。「寝具や衣類交換の業務を増やしたくない」という職員主体の考えからパットを重ね当てする、いわゆる雪だるま症候群が起きていた。
この現状脱却に向け、パットの不適切な使用を改善する取り組みを行ったが、否定的な職員もいた。そこで、職員の様々な思いも汲みながら、ご利用者主体の排泄援助について実践した内容を報告する。

【方法】
当施設の排泄ケアは、ご利用者個々に排泄チャートを評価し、随時誘導又はトイレへの時間誘導を決定している。又、オムツを使用している全ご利用者の約9割の方がご自身でオムツを上げ下げし易いようにリハビリパンツを着用し、パットを併用している。
取り組み以前のパットは吸収量から600ccと300cc、この2つのパットと併用して吸収量を増す事ができる400ccの計3種類を使用していた。
職員は尿漏れを意識するあまり、日中においても安易に600ccを使用する傾向があり、更に夜間の排尿量が多い方には600ccに加えて、400ccを重ね当てする事が日常化していた。これではオムツの機能が活かせない上に、不快感に繋がってしまう事から、以下3点に取り組み、排泄ケアの改善を目指した。
1.パットの正しい使い方や当て方等の技術を習熟する。
オムツメーカーによる勉強会を開催。学びを排泄委員会から発信し、職員へ技術の伝達・習熟を図った。パット内の尿の流れ方を確認し、パット全体に均等に流れていたら適切、流れ方が偏り、吸収スペースに余裕がある場合は不適切な使い方だと学んだ。
実際に尿漏れが生じたケースを検証すると、尿の吸収に偏りがあると判明した。体位や不適切な当て方等、漏れてしまった原因を推測し、尿の流れ方から当て方を考えた。尿量が多く漏れてしまった場合はトイレへの誘導時間やパット交換の間隔を検証し変更を行った。
400ccは吸収量を増す用途の他、スキントラブル防止対策として、折り方を工夫し臀部・仙骨等を濡らさない当て方も習得し実践した。
2.腹圧性・切迫性尿失禁が疑われるご利用者には、パットが容易にサイズアップしないよう、骨盤底筋体操を促す。
毎日のリハビリとしてセラピストと連携し、骨盤底筋体操に多職種で取り組んだ。安易な考えで物品に頼らず、失禁予防に着目し働きかけた。
3.適切なパットを使用する為、個別排泄ケアを定期的に評価する。
排泄委員と担当職員が、全ご利用者のパットについて1回/月又はADLの変化に応じて意見交換を実施。排泄頻度やパターン・尿量、誘導や交換のタイミング、夜間は睡眠状況等を考慮して総合的に排泄ケアを検討した。
更にパットの種類が適切である根拠を明確化し、責任者へ報告した上で最終決定する仕組みとした。

【結果】
上記取り組み実施にて、不適切な吸収量のパット使用や重ね当てを減らす事ができ、ご利用者の排泄量や睡眠状況に応じたパットを使えるようになった。
(不適切な重ね当てをしていたご利用者数)
見直し前 2024年12月:ご利用者98名中34名
見直し後 2025年 4月:ご利用者98名中10名  (29%減少)
尚、重ね当て減少による寝具の汚染も懸念したが、そのケースは増加していない。
(防水シーツの使用者数)
見直し前 2024年12月:ご利用者98名中9名
見直し後 2025年 4月:ご利用者98名中8名
又、ご利用者主体の排泄援助についても考えが深まり、リハビリパンツから布パンツに移行できた例を紹介する。
A様 女性 89歳 ご自宅で転倒、腰椎圧迫骨折にて入院。2024年2月当施設入所時、ご本人が失禁への不安感からリハビリパンツを着用されていた。職員間では「不安があるなら着用はやむなし」と考えていた。しかし、徐々に職員に変化が見られ、「A様の失禁への不安感とオムツの不快感を払拭し、布パンツで過ごして頂きたい」と考えるようになった。職員から布パンツへの変更を提案すると「汚すかもしれないが、蒸れないのは良い」と仰った為、失禁の不安感払拭に向け骨盤底筋体操を実施した。その結果、布パンツへ移行できた上、失禁しない自信も獲得され、現在も失禁なく過ごされている。

【考察】
取り組み当初、適切なパットの使用検討は職員からの異論も聞かれ苦戦した。寝具や衣類を汚さない為にもパットの変更は不必要との意見もあった。ただ、その思いは理解できるが、それではご利用者主体のケアは実現できない。排泄委員としてご利用者の不快感を軽減したいとの思いを強く持ち、「汚さない為」という視点から重ね当てしない方針を再度明確にした。適切なパットを検討する事はご利用者のケアを深く考える事に繋がると根気強く伝え続けた結果、雪だるま症候群解消が前進した。

【おわりに】
尿汚染による寝具や衣類交換を避けたい為に、オムツを重ね当てしがちであった。当初取り組みに否定的であった職員も、ご利用者主体の排泄援助が実践できればパットを重ね当てする必要がないと理解できた事で、自ら適切なパットを選択できるようになった。
パットの当て方を学び、排泄委員を中心に適切なパットの使用を繰り返し呼び掛けた事で、パットの特徴を活かしつつ、効果的に活用できる職員も増えた。
排泄ケアを前向きに検討できるようになり、職員から雪だるま症候群を安易に提案する声はなくなった。様々な職員の思いも汲みつつ、ご利用者主体の排泄援助を考える事を伝え続けたい。
排泄は誰もが最期まで人知れず行いたいと願う事。こうした排泄ケアの理念のもと、これからも多職種で連携し、ご利用者1人1人に寄り添った個別排泄ケアを検討していく。