講演情報

[28-O-H004-06]ICTを活用し尿路感染症数の減少につなげた取り組み

京都府 森田 寛章, 木村 憲司, 城下 幸市, 園城 直樹, 吉岡 まりか, 加納 美奈子 (介護老人保健施設しずはうす)
PDFダウンロードPDFダウンロード
ICTを活用し尿路感染症発症数の減少につなげた取り組み

はじめに
 当施設は、1フロアあたり50床、全体で100床規模の従来型の超強化型老健施設である。利用者内訳としては要介護度1から5の利用者で構成されており、日常的にさまざまな身体的・認知的課題に対応するケアが求められている。
 その中でも尿路感染症(以下、UTI:Urinary Tract Infection)は、高齢者施設において特に頻発する感染症のひとつである。「2023年度介護老人保健施設及び介護医療院におけるサービスの提供実態等に関する調査研究事業」によると、72.9%の老健施設において尿路感染症の発症が認められているとのデータがある。UTI発症はその後の合併症や入院リスクを惹起する要因にもなることから、その予防が重要であるといえる。
 しかし当施設では2023年度においてUTIの発症者数が例年より増加し、対策の必要性が浮き彫りとなった。本発表では、その課題に対して私たちがどのような取り組みを行い、結果として前年度から78%の発症者数減少という成果を得たのか、その取り組みを報告する。

【背景と課題の明確化】
 UTI発症の原因として一般的には、衛生管理の不徹底、水分摂取量の不足などが考えられる。
 当施設でのUTI発症者はそのほとんどが終日パット交換を要する全介助の利用者であり、UTI既往がある方も少なくなかった。これらの利用者は、排泄において自己申告が困難であり排尿タイミングが読みづらいこと、水分摂取においても自発的な摂取が十分に望めず、元々潜在的なUTI発症リスクが高いといった特徴を備えた方々であった。
 そこで、同様の特徴を有する特定利用者をUTI発症リスク者と定め、リスク者の排尿・水分摂取状況をスタッフ間で明示的に共有し、予防を図る取り組みとして実施することにした。

【実施した方法】
(1)排尿量・水分摂取量の記録
 リスク者に対しては排尿量と水分摂取量を記録する「記録表」を導入し、当該状況を他職種間で共有するようにした。「記録表」は一次的には紙媒体を用いて記録するものであり、二次的に電子データ化して保存利用することとした。この記録を基にトイレ誘導時の排泄の声かけや日中の飲水を促す声かけに反映させ、これらの支援を強化した。
(2) ICT機器「眠りスキャン」の活用 
 リスク者の衛生管理において特に懸念されたのが夜間の排泄管理であった。排泄後の適切なタイミングにおいて適時のパット交換を行うことができれば発症リスクを抑えることができる。しかし比較的人員が充実する日中においてはトイレ誘導を行いパット交換を行なうことも可能であるが、人員が少なくなる夜間においては困難であった。
 そこで夜間の排泄管理を向上させるため当施設で導入されていた「眠りスキャン(ベッドセンサー型見守り機器)」を活用した。これは利用者の睡眠深度や覚醒回数をリアルタイムで検知するものである。当該データを利用することで就寝中の各利用者において排尿排便が起こったことを推測し、一定の根拠を持って個別の睡眠状態に基づいた適時の排泄ケアを行うことが可能となる。

【結果と考察】
 前記一連の取り組みにより、当施設における2024年度UTIの発症者数は前年に比べ78%減少した。特に以下の点がその要因と考えられる。

(1)リスクが明確になり、ケアの優先順位が可視化できたこと。
 アナログな記録用紙という媒体を介在させることで誰がUTIリスク者であるのか、職員間での認識を形成することが容易になり端的にリスクが可視化されることとなった。そしてリスク者の存在を多職種間で認識共有することで、水分摂取量の少ない利用者に対して多職種からの重層的な摂取の声かけ促しが行われるなど、日々の声かけ促しが自然と強化され、リスク者への優先的なケアへとつながった。

(2)ICT機器のデータを根拠にケアを個別化できたこと。
 利用者Aはこの時間に排尿排便が出る傾向にある、といったデータはこれまで各職員において経験則的に蓄積されるものであった。しかし「眠りスキャン」から得られた睡眠データを基に分析を行い、利用者毎の傾向に沿った頻度・タイミングに変更していくことで、経験則だけに頼らない適時の排泄管理を行なうことが可能となった。これは同時に職員の経験則を補強するものとしても機能するものであり、いわゆる定時交換と呼ばれる頻度・時刻が一律で行われていた夜間のパット交換業務が、個別的なケアの要素を取り入れた業務へと変化していった。これは定時交換を根本的に廃止したものではなく、定時交換の修正として行われるものであった。そのためUTIリスク者のパット交換の頻度だけがいたずらに増加したといったことはなく、場合よってはパット交換の頻度減少にもつながり、その意味で効果的な業務改善としても機能した。
 当施設では引き続きICT機器の活用を図りながらケアの発展改善を目指していく。