講演情報

[28-O-J005-01]嚥下造影がひらく老健の食支援:肺炎予防とQOL向上

富山県 坪田 聡, 道下 佳代 (アルカディア雨晴)
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【はじめに】当施設では、多くの入所者が嚥下障害を抱え、以前は月約4名が肺炎を発症していた。また、リハビリテーション(以下「リハ」と略)が奏功しても確証が持てず、食形態をアップすることに慎重にならざるを得ないこともあった。そこで、嚥下障害への対応を改善するため、(1)経口維持会議の見直し、(2)ポジショニング会議の立ち上げ、(3)嚥下造影の導入を段階的に実施した。これらの総合的な取り組みの結果、肺炎の発症者を月平均0.5名まで減らせた。また、食形態や食事提供量のアップを、自信を持って行えるようになった。今回は嚥下造影に焦点を当て、その手順、得られた所見、そして食形態や摂食ケア・リハに与えた影響について報告する。
【対象】嚥下障害の確認や食形態の変更を検討するために、令和7年1月~5月に嚥下造影を行った当施設入所者52名(女性48名、男性4名)を対象とした。嚥下機能低下の主な原因は認知症が最も多く、脳血管疾患や全身癌、感染症による廃用症候群、加齢など複数の要因が見られた。
【嚥下造影の方法】(1)経口維持会議などでの意見を参考に、言語聴覚士が嚥下造影の対象者を抽出し医師が決定。(2)老健併設のクリニックのレントゲン室で、医師・言語聴覚士・診療放射線技師・管理栄養士・看護師の立ち会いのもと、言語聴覚士が中心となり嚥下造影を実施。(3)嚥下が容易な食品から検査を開始し、X線透視装置で嚥下状態を確認しながら誤嚥のリスクが高い食品へ進めた。同時に透視の動画を録画した。(4)嚥下造影に引き続き、胸部正面単純レントゲン写真を撮影。(5)医師と言語聴覚士が嚥下造影の録画を再評価。(6)検査結果に基づいて、食形態や食事量、食事姿勢、食後の姿勢保持時間などを現場のスタッフと共有。
【結果】嚥下造影の所要時間は7分33秒~21分44秒(平均10分4秒)、録画の再評価時間は7分11秒~25分3秒(平均11分54秒)であった。嚥下造影の所見では、誤嚥あり31名、誤嚥リスクあり3名、誤嚥時のムセなし21名。嚥下反射の遅れあり36名(うち前回検査より改善3名)。咽頭残留あり39名、食道通過障害あり35名(うち前回検査より悪化3名、改善2名)。嚥下造影後の胸部単純レントゲン写真では、誤嚥の疑い2名、咽頭での造影剤の残留22名、食道での造影剤の滞留22名、胸水貯留・食道裂孔ヘルニア・腸管鏡面像(ニボー)・大腸ガス過多が各1名であった。食事内容や姿勢の指示変更では、食形態アップ3名、同ダウン4名。提供量増量1名、同減量7名、補助食開始・嗜好品開始各1名。介助方法の変更6名。とろみ付け開始1名、同強化18名。食事の最後に水分摂取を5名で開始。食事姿勢の変更11名、食後の座位保持開始12名、普段のポジショニング強化11名であった。
【考察】嚥下造影の導入は、当施設の入所者の誤嚥性肺炎の予防と、個々の嚥下能力に合わせた適切な食事提供に大きく貢献したと考える。以下の3点について考察する。
1. 嚥下状態の「見える化」によるケアの質の向上:嚥下造影によって、これまで推測でしかなかった入所者の嚥下状態が、具体的な映像として「見える化」された意義は非常に大きい。(1)誤嚥の実態把握と早期介入:72%の入所者に誤嚥が確認され、そのうちムセを伴わない不顕性誤嚥を67%に認め、嚥下造影がなければ見過ごされていた可能性が高い。嚥下造影によって、どの段階でどのような性状のものが誤嚥しているのかが明確になることで、肺炎発症前の早期介入が可能となり、結果的に肺炎発症数を大幅に減少させるた。(2)根拠に基づいた食形態・介助方法の調整:嚥下造影の結果は、食形態のアップ・ダウン、提供量の調整、介助方法の変更、とろみ付けの開始・強化、食事姿勢の変更、食後の座位保持時間の調整など、多岐にわたるケア内容の変更に直結した。これにより曖昧な判断ではなく、科学的根拠に基づいた個別ケアが実践できた。特に、嚥下リハが奏功しているにもかかわらず、確証が持てずに食形態アップに踏み切れないというジレンマを解消できたことは、入所者の生活の質(以下「QOL」と略)の向上に大きく寄与した。(3)多職種連携の強化:嚥下造影は、医師、言語聴覚士、診療放射線技師、管理栄養士、看護師が協働で行うことで成り立っている。そして、検査結果は、それぞれの専門職が自身の知識・経験と照らし合わせながら、共通認識を持ってケアプランを検討する上で非常に有効なツールとなった。これにより、より包括的で一貫性のある嚥下ケアを提供できるようになり、多職種連携がより一層強化された。
2. リハの効果検証と質の向上:嚥下造影は単なる現状評価だけでなく、嚥下リハの効果を客観的に評価するツールとしても有効であった。前回の検査結果と比較することで、継続的なリハの効果が確認できること、またその逆も然りであることを示している。これにより、リハスタッフは、提供しているリハが適切であるか、改善が見られるのかを具体的に把握でき、より効果的な訓練プログラムの立案や見直しが可能になった。
3. 入所者のQOL向上への貢献:誤嚥性肺炎のリスクが低減され、安全に経口摂取を継続できることは、入所者のQOLを大きく向上させる。また、嚥下造影によって食形態がアップしたり嗜好品を開始できた例では、食の楽しみを取り戻し、精神的な満足度を高めることにつながった。これは、単に栄養状態を維持するだけでなく、QOLを向上させる上で非常に重要な側面である。
【まとめ】嚥下造影は、誤嚥性肺炎の予防という安全確保だけでなく、根拠に基づいた個別ケアの実現、多職種連携の強化、そして入所者の豊かな食生活とQOL向上への貢献など多角的なメリットをもたらした。今後も、この検査を効果的に活用し、入所者一人ひとりに最適な嚥下ケアを提供できるよう、さらに取り組んでいきたい。