講演情報
[28-O-J005-03]アイスキャンディ生活から妻の手料理をもう一度~ご本人の思いを形に変えて~
京都府 ○小泉 真也 (医療法人啓信会 介護老人保健施設ひしの里)
はじめに
食べることは人生における楽しみのひとつであり、食を通してコミュニケーションの場となる。今回妻と2人暮らしの生活環境の中、妻が作った食事は食べず、アイスや嗜好品を主食とされていた方が入所された。ご本人の意向を尊重しながら、多職種連携のもと食事や生活環境の見直しに取り組んだ。生活リズムの乱れや偏食の改善をすることができ、妻の手料理を「美味しい」と食べられるようになった事例を報告する。
事例紹介
85歳 男性 要介護3 認知症高齢者の生活自立度3a
80歳頃から徐々に認知機能の低下がみられ、83歳の時に左舌癌にて舌左下1/3切除、手術後の味覚障害もなく、発語も問題なく経過。術後の流動食からあまり口に合わず、食事量が低下していた。自宅でも妻が準備した食事には手を付けず、1日24本のアイスとスナックパンが主食であった。また寝たい時に寝て、起きたい時に起きる生活をされており、昼夜逆転ぎみであった。介助者の妻が手術・入院のためリハビリ目的で入所される。
経過
妻の入院治療は理解され、「家がいいけど仕方ない。」と言われていた。妻からは、「できれば同じ食事を食べて欲しいけど諦めています。夜中に起きだしてアイスを食べるので気になって眠れません。今後一緒に暮らすのはしんどい」と言われた。偏食に加えて、生活リズムが乱れたことで落ち着いた生活ができていなかった。在宅復帰の課題を1.昼夜逆転による生活リズムの乱れ 2.偏食とし、安心した生活を送るためには、この2点の改善が必要である。
環境調整について、自宅では伝え歩きで移動されていたが、施設ではフロアが広く伝い歩きができないため車いすを使用した。操作が不慣れであり初めての施設生活のためセンサー対応を行った。夜も寝たい時に横になるが数分おきに起きられ、車いすで廊下を散歩され自由気ままに行動されていたが、動いたら鳴るセンサー音が気になり、どうにかして欲しいと言われる。
居室内がストレスなく移動できるよう、居室内のレイアウトを変更した。伝え歩きができるよう導線にテーブルを設置。ベッドの足元にセンサーを設置していたが、安全を確認した上でセンサーを除去した。居室内を自由に動けるようになり、ストレスが緩和されたのか笑顔が見られる場面が多くなった。
他の利用者とも少しずつ交流を図られ、ちぎり絵などにも取り組まれるようになり、日中の活動量が増え昼夜逆転も改善されていった。
偏食について入所当初は、食事時間の声掛けで食堂に来ても、食事には手をつけず居室に戻られていた。まずは栄養面を考えて、栄養補助食品を提供するが食べてもらえなかった。仕方なくアイスを提供すると、ニコニコと食べられ、「もう一本食べたいな」と催促される。夜間も詰所まで来られアイスをご機嫌で食べられていた。冷たいものを好まれると考え、主食は凍らせ他の食事は冷たくして提供したが、主食と汁物は温かい方が良かったようである。味の濃い物を好まれるため温かいご飯の上に佃煮を提供してみた。佃煮の乗った部分のご飯は食べられ、追加で佃煮を提供する事によって、数口ずつご飯を口にされるようになった。副食は刻みのためメニューの紹介をすると、味を確かめるように数口ずつ口に運ばれるようになった。栄養補助食品を凍らせるとアイスと食感が似ているのか、美味しいと食べられた。これをきっかけに施設食を数口食べられるようになったが、摂取を促し過ぎると全く食べずに、ゴミ箱に捨てられることもあった。
施設での食事に慣れてもらうよう、好きなだけ食べていた間食を徐々に減らし、アイスの提供は補助的にし、昼間1本、夜間でも1本とした。冷蔵庫にアイスはありませんと貼り紙をすることによって理解されていった。徐々に摂取量が増え、安定した食事量と比例するようにアイスは求められなくなったが、大好きなスナックパンはお楽しみとして週2回提供した。
時折「妻は大丈夫かな」と聞かれ、大丈夫であることを伝え、一緒にご飯を食べたいと言われていましたよと伝えていた。
結果
在宅と同じように居室内を歩ける環境に変更し、また気にせず自由に動けるようにした事で、日中の覚醒時間が増え生活リズムも整ってきた。食事もほぼ全量摂取できるようになった。またアイスを求められる事もなくなり、施設提供のおやつで満足されるようになった。この状況より、在宅をためらっていた妻が「その状態なら」と在宅復帰を決断された。自宅では同じ食卓を囲み、妻の手料理に舌鼓を打つことが出来、アイスを求めることはなかった。夜間も眠られ、妻もゆっくり休まれたようである。
考察
生活リズムや偏食を改善することは、習慣化されているほど難しいことであるが、在宅生活を継続するためには重要な課題と考えられる。しかし夜間の睡眠や食事のみに焦点を当てるのではなく、まずはご本人の意向を重視し、尊重することが大事である。状態に応じた環境調整により自由に動けることで、他者との交流もでき、職員との関係も深まり笑顔が見られるようになったと考える。
施設の食事も試行錯誤であったが、これまでの嗜好品を突然中止するのではなく、楽しみは残しながら、これまでの食習慣を大切に、ご本人のペースに合わせたことで少しずつではあるが食べられるようになったと考える。ご本人にあった居室環境、無理に促さない食事、妻への思いそして帰りたい気持ちが重なり、生活リズムや偏食の改善ができ在宅復帰へと繋がったと考える。
まとめ
「自宅に帰りたい、妻と暮らしたい」という思いを形にし、在宅復帰に繋げる支援が出来きたことは、職員としても至高の喜びとなった。夫婦で支え合って楽しく老後を過ごす上で、同じ食卓を囲んで会話しながら食事を楽しむことはとても大事なことである。今後もご本人の意向を尊重し、変化に応じた対応・検討の積み重ねを行い、在宅に向けチームで支援していきたい。
食べることは人生における楽しみのひとつであり、食を通してコミュニケーションの場となる。今回妻と2人暮らしの生活環境の中、妻が作った食事は食べず、アイスや嗜好品を主食とされていた方が入所された。ご本人の意向を尊重しながら、多職種連携のもと食事や生活環境の見直しに取り組んだ。生活リズムの乱れや偏食の改善をすることができ、妻の手料理を「美味しい」と食べられるようになった事例を報告する。
事例紹介
85歳 男性 要介護3 認知症高齢者の生活自立度3a
80歳頃から徐々に認知機能の低下がみられ、83歳の時に左舌癌にて舌左下1/3切除、手術後の味覚障害もなく、発語も問題なく経過。術後の流動食からあまり口に合わず、食事量が低下していた。自宅でも妻が準備した食事には手を付けず、1日24本のアイスとスナックパンが主食であった。また寝たい時に寝て、起きたい時に起きる生活をされており、昼夜逆転ぎみであった。介助者の妻が手術・入院のためリハビリ目的で入所される。
経過
妻の入院治療は理解され、「家がいいけど仕方ない。」と言われていた。妻からは、「できれば同じ食事を食べて欲しいけど諦めています。夜中に起きだしてアイスを食べるので気になって眠れません。今後一緒に暮らすのはしんどい」と言われた。偏食に加えて、生活リズムが乱れたことで落ち着いた生活ができていなかった。在宅復帰の課題を1.昼夜逆転による生活リズムの乱れ 2.偏食とし、安心した生活を送るためには、この2点の改善が必要である。
環境調整について、自宅では伝え歩きで移動されていたが、施設ではフロアが広く伝い歩きができないため車いすを使用した。操作が不慣れであり初めての施設生活のためセンサー対応を行った。夜も寝たい時に横になるが数分おきに起きられ、車いすで廊下を散歩され自由気ままに行動されていたが、動いたら鳴るセンサー音が気になり、どうにかして欲しいと言われる。
居室内がストレスなく移動できるよう、居室内のレイアウトを変更した。伝え歩きができるよう導線にテーブルを設置。ベッドの足元にセンサーを設置していたが、安全を確認した上でセンサーを除去した。居室内を自由に動けるようになり、ストレスが緩和されたのか笑顔が見られる場面が多くなった。
他の利用者とも少しずつ交流を図られ、ちぎり絵などにも取り組まれるようになり、日中の活動量が増え昼夜逆転も改善されていった。
偏食について入所当初は、食事時間の声掛けで食堂に来ても、食事には手をつけず居室に戻られていた。まずは栄養面を考えて、栄養補助食品を提供するが食べてもらえなかった。仕方なくアイスを提供すると、ニコニコと食べられ、「もう一本食べたいな」と催促される。夜間も詰所まで来られアイスをご機嫌で食べられていた。冷たいものを好まれると考え、主食は凍らせ他の食事は冷たくして提供したが、主食と汁物は温かい方が良かったようである。味の濃い物を好まれるため温かいご飯の上に佃煮を提供してみた。佃煮の乗った部分のご飯は食べられ、追加で佃煮を提供する事によって、数口ずつご飯を口にされるようになった。副食は刻みのためメニューの紹介をすると、味を確かめるように数口ずつ口に運ばれるようになった。栄養補助食品を凍らせるとアイスと食感が似ているのか、美味しいと食べられた。これをきっかけに施設食を数口食べられるようになったが、摂取を促し過ぎると全く食べずに、ゴミ箱に捨てられることもあった。
施設での食事に慣れてもらうよう、好きなだけ食べていた間食を徐々に減らし、アイスの提供は補助的にし、昼間1本、夜間でも1本とした。冷蔵庫にアイスはありませんと貼り紙をすることによって理解されていった。徐々に摂取量が増え、安定した食事量と比例するようにアイスは求められなくなったが、大好きなスナックパンはお楽しみとして週2回提供した。
時折「妻は大丈夫かな」と聞かれ、大丈夫であることを伝え、一緒にご飯を食べたいと言われていましたよと伝えていた。
結果
在宅と同じように居室内を歩ける環境に変更し、また気にせず自由に動けるようにした事で、日中の覚醒時間が増え生活リズムも整ってきた。食事もほぼ全量摂取できるようになった。またアイスを求められる事もなくなり、施設提供のおやつで満足されるようになった。この状況より、在宅をためらっていた妻が「その状態なら」と在宅復帰を決断された。自宅では同じ食卓を囲み、妻の手料理に舌鼓を打つことが出来、アイスを求めることはなかった。夜間も眠られ、妻もゆっくり休まれたようである。
考察
生活リズムや偏食を改善することは、習慣化されているほど難しいことであるが、在宅生活を継続するためには重要な課題と考えられる。しかし夜間の睡眠や食事のみに焦点を当てるのではなく、まずはご本人の意向を重視し、尊重することが大事である。状態に応じた環境調整により自由に動けることで、他者との交流もでき、職員との関係も深まり笑顔が見られるようになったと考える。
施設の食事も試行錯誤であったが、これまでの嗜好品を突然中止するのではなく、楽しみは残しながら、これまでの食習慣を大切に、ご本人のペースに合わせたことで少しずつではあるが食べられるようになったと考える。ご本人にあった居室環境、無理に促さない食事、妻への思いそして帰りたい気持ちが重なり、生活リズムや偏食の改善ができ在宅復帰へと繋がったと考える。
まとめ
「自宅に帰りたい、妻と暮らしたい」という思いを形にし、在宅復帰に繋げる支援が出来きたことは、職員としても至高の喜びとなった。夫婦で支え合って楽しく老後を過ごす上で、同じ食卓を囲んで会話しながら食事を楽しむことはとても大事なことである。今後もご本人の意向を尊重し、変化に応じた対応・検討の積み重ねを行い、在宅に向けチームで支援していきたい。
