講演情報

[28-O-O005-02]転倒に関する全体調査と個別原因分析併用の重要性居室での複数回転倒再発防止への取り組み

広島県 小川 はるな, 中村 聡 (介護老人保健施設とやま)
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【はじめに】
高齢者施設において転倒は頻発する事故の一つであり、身体機能や日常生活動作能力だけでなく、生活の質を著しく損なう要因となっている。今年度当施設リハビリテーション科(以下、リハ科)では転倒予防対策の強化に取り組むことになった。それにあたり、昨年度の転倒状況について調査を行ったところ、転倒者が事故により外部医療機関の受診が必要になったケースが4件発生し、そのうち3件が転倒を繰り返していた事例であった。その再発を防ぐため対策を講じ、一定の効果を得ることができた。一方で、対策したにも関わらず再発に至った事例も経験し、転倒再発予防の難しさも痛感することとなった。我々が現在も試行錯誤を重ねているこの取り組みについて考察をまじえ報告する。
【転倒の定義】
河野らの「自分の意志に関係なく地面またはより低い場所に足底以外が接触することで、ベッドからの転落も含まれる」とした。
【当施設における転倒発生状況と調査結果】
<期間>2024年4月1日~2025年3月31日<対象>期間内に入所中の全入所者142名から転倒に関する報告書が提出された47名<方法>発生時間帯、場所について単純集計し、それらの傾向を算出した。<結果>総転倒件数133件、転倒実人数47名であった。発生時間帯に明らかな傾向は認めなかった。発生場所は居室89件、食堂20件、廊下11件、トイレ7件、その他4件で居室の割合が68%と突出していた。また、転倒した47名のうち半数以上の25名が複数回転倒を経験しており、133件の総転倒件数のうち85%に上る113件を複数回転倒者が占めていた。さらに、転倒事故で外部医療機関の受診が必要になった4名のうち3名が複数回転倒者であった。
【取り組みの目的】
調査結果から居室での転倒の再発防止に焦点化した。
【内容】
居室での転倒者3名(2025年4月まで)を対象に、発生後リハ科でカンファレンス(以下、CF)を開き、居室環境の見直しを行った。変更が必要と考えられた設定についてユニット介護スタッフと協議の上、多職種の同意が得られた場合写真と注意点を記載した環境設定シートを居室に掲示した。
【結果】
2名はその後居室内での再転倒は発生せず、1名は居室内にて再転倒が発生した。
【考察】
成功事例において再転倒を防ぐことができた要因は、(1)全体調査により転倒状況の傾向を掴むことができた。(2)リハ科内のCFにて個別の要因分析を行うことで、多職種に対し具体的な再発予防策を提案することができた。(3)環境設定シートの活用により多職種間で統一した対応ができた。以上3点が大きく影響したと考えられる。(1)について:調査により、転倒事故で外部医療機関の受診が必要になった4名のうち3名で複数回転倒していることがわかった。転倒回数が多い入所者は把握しているつもりであったが、改めて調査することで重大な事故は複数回転倒者で起きやすく、居室で多いという傾向を掴むことができた。そうすることで重大な事故に繋がる前に、早急な対応が必要な転倒者を優先してピックアップできたと考える。(2)について:昨年度までは転倒に特化したCFは行っておらず、療法士個人の裁量や数名の療法士・介護士での話し合いにとどまっていた。そのため、転倒要因の分析も曖昧だったことがあり、発生要因の共通認識に乏しかった。解良は、転倒要因は多数あり、それらが複合的に関連しあって転倒に至るため、発生状況に関する分析が重要であることを述べている。成功事例の2名は車椅子のブレーキ忘れ、ポータブルトイレへの移乗動作で転倒していると分析でき、それを多職種間で共通認識できた。転倒要因の分析に重点を置くことで再発予防策も明確にすることができた。(3)について:居室に環境設定シートを掲示することで、統一した対応ができた。当施設では介護士の勤務時間帯が5パターンあり、確実な情報共有に課題があった。檜山は情報共有の過程で生じた誤伝達を改善するには情報取得のしやすさ、わかりやすさを考慮する必要があると述べている。今回、掲示した環境設定シートでは写真を活用するなど、どの職員が見てもわかりやすい表現を心掛けた。それによりその場で情報取得ができ、情報共有がスムーズにできたと考える。一方で、再転倒した1名はCFでも原因が明確にならず、曖昧な仮説に基づいて予防策を立案した。その結果、この予防策では防げない形で再転倒が発生した。原因分析の際には夜間の様子など、他職種とも原因をともに検討する必要があると考えられた。
【今後の展望と課題】
今後はリハ科だけでなく多職種と共にCFを行い、分析の質を高めていきたい。また、まだ検討事例数が少なく分析の過程が定まらないこともあるため、引き続き検討事例を増やすことで対応の幅を拡げていきたい。一方で、心理的要素や認知症によるBPSDなど環境以外の要因が強く影響する転倒について、防ぎきれない可能性があることにも配慮し、発生時の受傷軽減に対する協議をしていく必要がある。
【まとめ】
介護施設における複数回転倒予防には全体調査と原因分析の併用が重要である。また、個別の原因分析は特定の職種のみでなく、多職種で行うことでより効果的な予防策の立案ができる。