講演情報
[28-O-O005-05]23施設による医療安全連携シートの効果検証と影響分析自己・他者評価による重大事象の抑制と安全体制の改善
埼玉県 ○岩崎 太郎, 白崎 哲生 (介護老人保健施設 三郷ケアセンター)
【研究目的】
2021年度介護保険制度改定により義務化された「安全対策担当者」の役割明確化に対応するため、医療機関で用いられている「医療安全地域連携シート」1)を参考に、介護施設向け自己点検表(3大項目・14中項目・67小項目、4段階評価)を開発した。自己評価と他者評価により安全管理体制の成熟度と課題を可視化し、施設間での学び合いを通じて、安全体制の成熟度を高めることを目指した。さらに体制整備がインシデントおよびアクシデント発生件数に与える影響を分析し、安全管理体制構築に資する知見の獲得を目指した。
【研究方法・期間】
本研究は、上尾中央医科グループに所属する介護施設23施設を対象に、2022年から2024年にかけて実施したものである。評価には、自己点検表を用いた年2回の自己評価および、他施設職員による年1回の他者評価を組み合わせた。各項目は4段階(1=未実施、4=十分に実施)で評価され、判断基準を明示したガイドラインに基づき、評価の客観性および一貫性の確保を図った。他者評価は現地訪問を含む相互評価方式により実施され、実地確認後に再度自己評価を行うことで、外部視点を取り入れた自己評価の再考を可能とした。加えて、他者評価の実施には安全委員会への出席を含む点が本手法の特徴である。
各年度の自己評価スコアについては、平均値および標準偏差を算出し、分布および変動の分析を通じて、点検表の活用実態ならびに安全管理体制の改善状況を多角的に把握した。併せて、2020年度より導入されたインシデント・アクシデント報告システムのデータを用い、点検表導入前期(2020~2022年)と導入後期(2023~2024年)における報告件数の推移を分析した。報告事象は6段階の深刻度に分類されており、件数の増減に加えて効果の大きさを検討するため、標本サイズの差を補正可能な効果量指標であるHedges'gを用いた統計的分析を行った。
【倫理的配慮】
すべてのデータは匿名化処理を徹底し、上尾中央医科グループ最高決定会議の倫理審査を受けて承認を得た上で実施した。開示すべき利益相反(COI)は存在しない。
【結果】
自己点検表の評価スコアは、2022年度の2.5±0.4から2024年度の3.0±0.3へと着実に上昇し、運用の成熟が確認された。2024年度には全体平均が3.0±0.3に達した。とくに「安全対策担当者および委員会の組織状況」は2.7から3.1へ、「安全対策の具体的な取り組み状況」は2.2から2.9へと改善が認められた。また、「インシデント・アクシデント分析」項目は一貫して高評価を維持し、3.3±0.4に達した。
インシデント・アクシデント報告件数の推移においては、軽微事象(レベル0および1)が全体で1%増加(Hedges' g=0.25)した一方で、軽度影響事象(レベル2)は4%減少(g=-0.41)、中等度以上の重大事象(レベル3以上)は17%減少(g=-0.41)し、深刻度の高い事象の抑制が示唆された。施設別ではインシデントの報告件数は23施設中14施設(60.9%)で増加が認められた。一方、アクシデント(レベル2)については約70%の施設(16施設)で減少傾向が確認され、さらに重大アクシデント(レベル3以上)に関しては23施設中15施設(65.2%)で発生件数の減少が認められた。施設間で報告件数の変動幅に差異はあったものの、全体として安全管理体制の改善傾向が示された。
【考察】
自己評価スコアの上昇および標準偏差の縮小は、安全管理体制の全体的な底上げと運用の均質化を示すものである。とりわけ、「委員会の組織体制」や「インシデント分析」における顕著な改善は、石川2)が指摘するように、情報共有およびリーダーシップの存在が安全対策の推進において重要な要因であるという知見と合致する。また、相互評価の導入により、評価は単なる自己点検の枠を超え、外部視点を取り入れた内省的な検討の機会となり、施設間における学習的風土の醸成にも資する結果となったと考えられる。
また、重大事象減少という効果は、継続的な点検と評価体制がリスクの早期発見と未然防止に寄与した可能性を示す。これは、評価体制が形骸化せず、実効性あるマネジメントサイクルとして機能した結果といえる。ただし、全施設で均一な効果があったわけではなく、報告件数に変化の少ない施設も存在した。これは運用体制の差異が影響している可能性がある。重大事象の抑制には一定の効果があったが、インシデント報告促進には施設間差が大きく、一律の効果とは言い難い。今後は、施設特性に応じた分析と評価を踏まえた上で、好事例の水平展開を図ることが重要である。
【結論】
本研究は、医療安全地域連携シートの枠組みを応用した自己点検表および相互評価体制の導入が、介護施設における安全管理体制の質的向上に資する実践的手法である可能性を示唆したものである。自己評価スコアの着実な上昇および重大事象の減少は、当該評価体制がリスクマネジメントの強化および安全文化の醸成に寄与した結果と解される。また、相互評価を通じた外部視点の導入および施設間における学習的連携は、各施設の安全対策に対する客観性と信頼性を高め、継続的改善の契機となった。これらの成果は、介護施設における安全管理の標準化と制度化に向けた基盤的知見を提供するものである。今後は、継続的な実践と検証を通じて、安全文化の定着と制度の発展的運用を促進することが求められる。なお、「医療安全地域連携シート」は本来、医療機関間における安全情報の共有と評価を目的としたものであるが、本研究における成果は、介護施設間における地域連携の深化にも資する応用可能性を有することが示唆された。
【引用文献】
1)厚生労働省(2019)「医療安全地域連携シート活用実践ガイド」
2) 石川雅彦(2019)「医療安全における医療機関の連携による評価に関する研究」厚労科研 総括研究報告書
2021年度介護保険制度改定により義務化された「安全対策担当者」の役割明確化に対応するため、医療機関で用いられている「医療安全地域連携シート」1)を参考に、介護施設向け自己点検表(3大項目・14中項目・67小項目、4段階評価)を開発した。自己評価と他者評価により安全管理体制の成熟度と課題を可視化し、施設間での学び合いを通じて、安全体制の成熟度を高めることを目指した。さらに体制整備がインシデントおよびアクシデント発生件数に与える影響を分析し、安全管理体制構築に資する知見の獲得を目指した。
【研究方法・期間】
本研究は、上尾中央医科グループに所属する介護施設23施設を対象に、2022年から2024年にかけて実施したものである。評価には、自己点検表を用いた年2回の自己評価および、他施設職員による年1回の他者評価を組み合わせた。各項目は4段階(1=未実施、4=十分に実施)で評価され、判断基準を明示したガイドラインに基づき、評価の客観性および一貫性の確保を図った。他者評価は現地訪問を含む相互評価方式により実施され、実地確認後に再度自己評価を行うことで、外部視点を取り入れた自己評価の再考を可能とした。加えて、他者評価の実施には安全委員会への出席を含む点が本手法の特徴である。
各年度の自己評価スコアについては、平均値および標準偏差を算出し、分布および変動の分析を通じて、点検表の活用実態ならびに安全管理体制の改善状況を多角的に把握した。併せて、2020年度より導入されたインシデント・アクシデント報告システムのデータを用い、点検表導入前期(2020~2022年)と導入後期(2023~2024年)における報告件数の推移を分析した。報告事象は6段階の深刻度に分類されており、件数の増減に加えて効果の大きさを検討するため、標本サイズの差を補正可能な効果量指標であるHedges'gを用いた統計的分析を行った。
【倫理的配慮】
すべてのデータは匿名化処理を徹底し、上尾中央医科グループ最高決定会議の倫理審査を受けて承認を得た上で実施した。開示すべき利益相反(COI)は存在しない。
【結果】
自己点検表の評価スコアは、2022年度の2.5±0.4から2024年度の3.0±0.3へと着実に上昇し、運用の成熟が確認された。2024年度には全体平均が3.0±0.3に達した。とくに「安全対策担当者および委員会の組織状況」は2.7から3.1へ、「安全対策の具体的な取り組み状況」は2.2から2.9へと改善が認められた。また、「インシデント・アクシデント分析」項目は一貫して高評価を維持し、3.3±0.4に達した。
インシデント・アクシデント報告件数の推移においては、軽微事象(レベル0および1)が全体で1%増加(Hedges' g=0.25)した一方で、軽度影響事象(レベル2)は4%減少(g=-0.41)、中等度以上の重大事象(レベル3以上)は17%減少(g=-0.41)し、深刻度の高い事象の抑制が示唆された。施設別ではインシデントの報告件数は23施設中14施設(60.9%)で増加が認められた。一方、アクシデント(レベル2)については約70%の施設(16施設)で減少傾向が確認され、さらに重大アクシデント(レベル3以上)に関しては23施設中15施設(65.2%)で発生件数の減少が認められた。施設間で報告件数の変動幅に差異はあったものの、全体として安全管理体制の改善傾向が示された。
【考察】
自己評価スコアの上昇および標準偏差の縮小は、安全管理体制の全体的な底上げと運用の均質化を示すものである。とりわけ、「委員会の組織体制」や「インシデント分析」における顕著な改善は、石川2)が指摘するように、情報共有およびリーダーシップの存在が安全対策の推進において重要な要因であるという知見と合致する。また、相互評価の導入により、評価は単なる自己点検の枠を超え、外部視点を取り入れた内省的な検討の機会となり、施設間における学習的風土の醸成にも資する結果となったと考えられる。
また、重大事象減少という効果は、継続的な点検と評価体制がリスクの早期発見と未然防止に寄与した可能性を示す。これは、評価体制が形骸化せず、実効性あるマネジメントサイクルとして機能した結果といえる。ただし、全施設で均一な効果があったわけではなく、報告件数に変化の少ない施設も存在した。これは運用体制の差異が影響している可能性がある。重大事象の抑制には一定の効果があったが、インシデント報告促進には施設間差が大きく、一律の効果とは言い難い。今後は、施設特性に応じた分析と評価を踏まえた上で、好事例の水平展開を図ることが重要である。
【結論】
本研究は、医療安全地域連携シートの枠組みを応用した自己点検表および相互評価体制の導入が、介護施設における安全管理体制の質的向上に資する実践的手法である可能性を示唆したものである。自己評価スコアの着実な上昇および重大事象の減少は、当該評価体制がリスクマネジメントの強化および安全文化の醸成に寄与した結果と解される。また、相互評価を通じた外部視点の導入および施設間における学習的連携は、各施設の安全対策に対する客観性と信頼性を高め、継続的改善の契機となった。これらの成果は、介護施設における安全管理の標準化と制度化に向けた基盤的知見を提供するものである。今後は、継続的な実践と検証を通じて、安全文化の定着と制度の発展的運用を促進することが求められる。なお、「医療安全地域連携シート」は本来、医療機関間における安全情報の共有と評価を目的としたものであるが、本研究における成果は、介護施設間における地域連携の深化にも資する応用可能性を有することが示唆された。
【引用文献】
1)厚生労働省(2019)「医療安全地域連携シート活用実践ガイド」
2) 石川雅彦(2019)「医療安全における医療機関の連携による評価に関する研究」厚労科研 総括研究報告書

