講演情報
[28-O-P106-06]DX化により再認識された”人”の力
栃木県 ○島田 淳也 (介護老人保健施設やすらぎの里八州苑)
【はじめに】
老健施設を含めた高齢者施設のDX化は年々進んでおり、デジタル・ICT機器を利用していない施設はむしろ少数となってきている。今回自施設においても、DX化を促進すべく利用者の見守り支援システムとスマートフォンアプリを用いたインカムの導入を行った。見守り支援システムにおいては、超強化型老健としての特色を阻害せずに安全性を高める必要があった。老健においては、利用者の能動的な移動が身体機能向上に不可欠であり、そのような環境を整えることはしばしば安全確保とトレードオフの関係になる。そのため、両者のバランスを考慮したデバイスの選定が必要であり導入前の入念なシミュレーションを行った。また、当法人では事業所間におけるタスクシェアを推進しており、他部署のスタッフが隙間時間で老健業務の一部を担ったり、逆に老健スタッフが他部署へヘルプに行くこともしばしばである。そのため、物理的な距離に阻害されることなくリアルタイムに現場の状況を相互が把握できる必要があった。インカムをこれらの課題を解決可能なデバイスであると認識していたため、Wi-Fi環境の再整備を行う都合上同時に導入を行った。今回の自施設におけるDX化の取り組みについて考察とともに報告する。
【方法】
まず自施設において、どのような見守り支援システムが適切なのか検討を行った。必要な機能として以下の点を挙げた。
1) さまざまなADLの利用者に対して、任意のタイミングでスタッフに警告が可能であること
2) アクシデント発生時に、事後検証や家族説明に対応可能な録画・録音機能を有していること
3) 設置後に運用の変更や機能の追加など、一定の拡張性が担保されていること
これらの条件を、すべてあるいは部分的に満たすシステムを複数選定し、デモ機を導入。現場に使用感のヒアリングを実施の上、最終的にコストとのバランスを考慮しシステムファイブ社の「すいすいケア」が選出された。
次いで、「すいすいケア」が検知した利用者の動きがスマートフォンに通知される仕様であったことから、スマートフォンアプリ形式のインカム導入に決定した。こちらについても複数のアプリケーションを試験導入し、現場のヒアリングを実施。最もほかのアラートと競合が無く安定して運用可能な「Buddycom」(サイエンスアーツ社)を採用した。
最後に現場に必要なノートPCおよびスマートフォンを配備し実施に至った。
【結果】
導入直後に発生した問題として、すいすいケアのカメラとセンサー、Buddycomを起動しているスマートフォンがすべて2.4gHz帯の無線LANにアクセスすることで通信障害が発生してしまったことが挙げられる。最終的に業者と相談し、5gHz帯にアクセスするカメラに変更することとなった。
すいすいケアはセンサーを「利用者がベッドから足を下したとき」「ベッドから歩き出したとき」「居室から出たとき」など任意に設定が可能であることがメリットであるが、多床室の場合、センサーの位置によっては別の利用者を感知してしまったりすることがあり、センサーの向きや角度の調整に配慮が必要であると判明した。また、居室移動があった場合は当然センサーの位置を再度設定する必要がある。カメラによる、転倒などのアクシデントがあった場合の事後精査などの明らかなメリットはあったが、現時点では明らかな業務量の削減には至っていない。一方で、センサーをどこに設置すべきか、という個別のアセスメントをするためのデバイスとしては一定の効果があった。また、システム導入後に何度か停電が発生し、停電後は機器が設定されたアクセスポイントへの接続がリセットされてしまうため都度業者を呼ぶ必要性があることもわかった。
Buddycomにおいては、当初の目標であった物理的に離れた事業所とのやり取りは十分に達成され、明らかに内線の使用回数が減り業務効率が向上した。しかしながら、アプリとの相性と思われるイヤホンマイクの動作不良が散見されている。
【考察】
システム導入後に、インカムにおいては比較的速やかに業務効率の改善が得られた一方で、見守り支援システムに関しては目に見えた効果は得られなかった。インカムは機器操作がシンプルであるため導入から運用まで比較的速やかであったのに対し、見守り支援システムはその運用に熟練を要することが一因と考えた。
「すいすいケア」は、上述した通り任意のタイミングでアラートをかけることが可能であるがゆえにセンサーの配置などに配慮する必要があり、センサーの特性をしっかりと現場職員が把握する必要があることが課題である。その一方で、利用者のADL向上に伴いセンサーの位置を変更可能であるという圧倒的なメリットも有しており、利用者の状態が日々変化するわれわれ老健施設においては相性の良いデバイスではないかとも思われる。既存のデバイスの多くは、利用者がベッド上に長時間いることを前提に設計されているものが多く、整形術後や脳卒中の回復期、認知症や内科疾患後の廃用などさまざまな背景を有する老健利用者に対しては、明らかに不向きであると思われるものも少なくない。「すいすいケア」を最大限活用するためには、個別の利用者に対してどの程度の身体機能・認知機能を有しているのか、どのようなタイミングでアラートをかけるべきなのか、など十分なアセスメントが必要である。それが達成できれば、個々に最適な配置を行うことが可能となり、非常に有用なデバイスとなると思われた。そのため、職員全体でどのような運用が最適なのか、都度検討していく必要があると強く感じた。
今回の一連の取り組みを通じて、DX化は設備を配置すればすぐに効率化が図れるものではなく、運用する側の能力も求められるものであることを痛感した。ケアを提供するのはモノではなく人であることを認識しながら日々の業務に邁進していきたい。
老健施設を含めた高齢者施設のDX化は年々進んでおり、デジタル・ICT機器を利用していない施設はむしろ少数となってきている。今回自施設においても、DX化を促進すべく利用者の見守り支援システムとスマートフォンアプリを用いたインカムの導入を行った。見守り支援システムにおいては、超強化型老健としての特色を阻害せずに安全性を高める必要があった。老健においては、利用者の能動的な移動が身体機能向上に不可欠であり、そのような環境を整えることはしばしば安全確保とトレードオフの関係になる。そのため、両者のバランスを考慮したデバイスの選定が必要であり導入前の入念なシミュレーションを行った。また、当法人では事業所間におけるタスクシェアを推進しており、他部署のスタッフが隙間時間で老健業務の一部を担ったり、逆に老健スタッフが他部署へヘルプに行くこともしばしばである。そのため、物理的な距離に阻害されることなくリアルタイムに現場の状況を相互が把握できる必要があった。インカムをこれらの課題を解決可能なデバイスであると認識していたため、Wi-Fi環境の再整備を行う都合上同時に導入を行った。今回の自施設におけるDX化の取り組みについて考察とともに報告する。
【方法】
まず自施設において、どのような見守り支援システムが適切なのか検討を行った。必要な機能として以下の点を挙げた。
1) さまざまなADLの利用者に対して、任意のタイミングでスタッフに警告が可能であること
2) アクシデント発生時に、事後検証や家族説明に対応可能な録画・録音機能を有していること
3) 設置後に運用の変更や機能の追加など、一定の拡張性が担保されていること
これらの条件を、すべてあるいは部分的に満たすシステムを複数選定し、デモ機を導入。現場に使用感のヒアリングを実施の上、最終的にコストとのバランスを考慮しシステムファイブ社の「すいすいケア」が選出された。
次いで、「すいすいケア」が検知した利用者の動きがスマートフォンに通知される仕様であったことから、スマートフォンアプリ形式のインカム導入に決定した。こちらについても複数のアプリケーションを試験導入し、現場のヒアリングを実施。最もほかのアラートと競合が無く安定して運用可能な「Buddycom」(サイエンスアーツ社)を採用した。
最後に現場に必要なノートPCおよびスマートフォンを配備し実施に至った。
【結果】
導入直後に発生した問題として、すいすいケアのカメラとセンサー、Buddycomを起動しているスマートフォンがすべて2.4gHz帯の無線LANにアクセスすることで通信障害が発生してしまったことが挙げられる。最終的に業者と相談し、5gHz帯にアクセスするカメラに変更することとなった。
すいすいケアはセンサーを「利用者がベッドから足を下したとき」「ベッドから歩き出したとき」「居室から出たとき」など任意に設定が可能であることがメリットであるが、多床室の場合、センサーの位置によっては別の利用者を感知してしまったりすることがあり、センサーの向きや角度の調整に配慮が必要であると判明した。また、居室移動があった場合は当然センサーの位置を再度設定する必要がある。カメラによる、転倒などのアクシデントがあった場合の事後精査などの明らかなメリットはあったが、現時点では明らかな業務量の削減には至っていない。一方で、センサーをどこに設置すべきか、という個別のアセスメントをするためのデバイスとしては一定の効果があった。また、システム導入後に何度か停電が発生し、停電後は機器が設定されたアクセスポイントへの接続がリセットされてしまうため都度業者を呼ぶ必要性があることもわかった。
Buddycomにおいては、当初の目標であった物理的に離れた事業所とのやり取りは十分に達成され、明らかに内線の使用回数が減り業務効率が向上した。しかしながら、アプリとの相性と思われるイヤホンマイクの動作不良が散見されている。
【考察】
システム導入後に、インカムにおいては比較的速やかに業務効率の改善が得られた一方で、見守り支援システムに関しては目に見えた効果は得られなかった。インカムは機器操作がシンプルであるため導入から運用まで比較的速やかであったのに対し、見守り支援システムはその運用に熟練を要することが一因と考えた。
「すいすいケア」は、上述した通り任意のタイミングでアラートをかけることが可能であるがゆえにセンサーの配置などに配慮する必要があり、センサーの特性をしっかりと現場職員が把握する必要があることが課題である。その一方で、利用者のADL向上に伴いセンサーの位置を変更可能であるという圧倒的なメリットも有しており、利用者の状態が日々変化するわれわれ老健施設においては相性の良いデバイスではないかとも思われる。既存のデバイスの多くは、利用者がベッド上に長時間いることを前提に設計されているものが多く、整形術後や脳卒中の回復期、認知症や内科疾患後の廃用などさまざまな背景を有する老健利用者に対しては、明らかに不向きであると思われるものも少なくない。「すいすいケア」を最大限活用するためには、個別の利用者に対してどの程度の身体機能・認知機能を有しているのか、どのようなタイミングでアラートをかけるべきなのか、など十分なアセスメントが必要である。それが達成できれば、個々に最適な配置を行うことが可能となり、非常に有用なデバイスとなると思われた。そのため、職員全体でどのような運用が最適なのか、都度検討していく必要があると強く感じた。
今回の一連の取り組みを通じて、DX化は設備を配置すればすぐに効率化が図れるものではなく、運用する側の能力も求められるものであることを痛感した。ケアを提供するのはモノではなく人であることを認識しながら日々の業務に邁進していきたい。
