講演情報

[28-O-R006-01]老健が取り組む持続可能な作業としてのプロギング実践―自己効力感と地域共生を育む多面的アプローチ―

山口県 上谷 昌次 (医療法人松永会老人保健施設アイユウ)
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【背景と目的】
介護老人保健施設(老健)は,在宅復帰支援の中核的役割に加え,地域に根ざした施設として共生社会の構築に寄与することが期待されている.当施設では,SDGsの理念や介護予防の重要性を踏まえ,身体的・心理的・社会的健康の支援と地域とのつながりを包括的に促進する手段として,ゴミ拾いとジョギングを組み合わせた「プロギング(Plogging)」を実施した.
プロギングはスウェーデン発祥の持続可能なフィットネスであり,身体活動と環境保全という二重の効果に加え,参加者が「役割ある存在」として地域社会に関われることから,自己有用感や自己効力感の向上も期待できる.
また,教育現場においてもプロギングが有効なアクティブラーニングの手法として注目されており,若年層における身体的・社会的・環境的な意識の向上が報告されている(Martinez-Mirambellら,2023).こうした知見は,世代を問わずプロギングがもたらす多面的効果の共通性を示唆しており,この取り組みにおける実感とも整合する.
【理論的背景と効果】
Bandura(1977)の社会的認知理論では,自己効力感が行動の発生や持続の重要な要因とされており,成田ら(1995)の研究でも年齢や状況に関係なく健康行動との関連性が示されている.また,地域で生活する健康高齢者の介護予防行動には,地域とのつながりや内的動機も影響することが深堀らの報告からわかる.実践においても,参加者からは「自分にもできる」「声を掛けられて嬉しい」「また参加したい」といった声が多く聞かれ,自己有用感や自己効力感の高まりが観察された.
さらに,伊藤(2019)は高齢者のボランティア活動における参加動機が活動満足感や生活満足度に寄与することを示し,山崎ら(2021)も余暇活動の頻度・種類と精神的健康や自己有用感の関連を報告している.これらの知見と照らし合わせ,プロギングは日常的かつ無理のない形で地域貢献と自己肯定感の向上を促進する実践といえる.
なお,身体機能面においてもPocoviら(2024)のRCTでは,ウォーキングを基盤とした個別的介入が腰痛再発予防に有効であることが報告されており,プロギングにおいても身体的エビデンスは裏づけられていると考える.
【まとめ・展望】
この作業は,地域包括支援センターや自治体との連携のもと,職員・地域住民など多世代の参加が得られ,地域の関係性が自然に深まる作業となった.また,単発のイベントにとどまらず,持続的な地域活動として定着してきている.下関市吉田地区においては,吉田まちづくり協議会が主催するプロギングイベントが開催され,地域の史跡を巡りながら清掃活動を行うという,文化・健康・環境美化が融合した形での実践となった.このような広がりは,老健が地域における健康・共生のハブとなる可能性を示唆するものであると考える.プロギングは,高齢者の身体的健康,精神的活力,そして地域との社会的結びつきを一体的に促進する「多面的地域活動」として有効である.老健が地域と共に健康と共生の文化を育むための実践モデルとして,今後さらなる普及と継続的展開に取り組んでいきたい.
【参考文献】
1)成田健一他(1995)特性的自己効力感尺度の検討.教育心理学研究,43,306-314.
2)Bandura, A.(1977)Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change.Psychological Review,84(2),191-215.
3)深堀敦子他(2009)地域で生活する健康高齢者の介護予防行動に影響を及ぼす要因の検討.日本看護科学会誌,29,1,15-24.
4)伊藤順子(2019)高齢者のボランティア活動参加動機と満足感、活動から得た利益および生活満足度との関係.高齢者のケアと行動科学,24,42-52.
5)山崎幸子他(2021)高齢者における余暇活動の種類・頻度と精神的健康、自己有用感の関連.文京学院大学人間学部研究紀要,22,23-32.
6)N C Pocovi, et al.(2024)Effectiveness and cost-effectiveness of an individualised, progressive walking and education intervention for the prevention of low back pain recurrence in Australia (WalkBack): a randomised controlled trial,The Lancet,404:134-144.
7)Martinez-Mirambell, C., Boned-Gomez, S.,Urrea-Solano, M., & Baena-Morales, S.(2023).Step by Step towards a Greener Future: The Role of Plogging in Educating Tomorrow’s Citizens. Sustainability, 15(18), 13558.https://doi.org/10.3390/su151813558
8)一般社団法人プロギングジャパン. https://plogging.jp/
【COI開示】
本発表に関して,開示すべき利益相反はない.