講演情報

[28-O-R006-05]施設でのケアを在宅につなぐ相談員の役割

大分県 三山 莉絵子 (介護老人保健施設大分豊寿苑)
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【はじめに】
今回、症例とキーパーソンの夫は、ともに自宅復帰を強く希望していたが、夫の希望する自立した状態に至ることが困難なケースを担当した。夫の要望に対して共感的理解を示すことで信頼関係を築いて行った結果、介助が必要な状況でも在宅復帰を達成することができた。この結果には施設で行なっているノーリフティングケアを家族・居宅サービスにつなぐことが支援において重要であった。支援相談員の役割の再認識につながったため、以下に報告する。
【症例紹介】
70代女性。60代の時に関節リウマチと診断され、徐々に手のこわばりや疼痛、変形が出現していた。できる家事は行いつつ、訪問介護等を利用しながら夫と二人で生活していた。令和5年、外出先の店内で転倒し急性期病院に搬送。右大腿骨遠位端骨折の診断で入院となる。手術施行し、その後回復期病院に転院。自宅退院を希望していたが、夫は週3回透析に通っているため自宅介護への不安があった。自宅での介助が可能となることを目的として当老健へ入所となった。
【経過】
入所時のADLは、端座位保持は行えていたが、起居、起立、移乗は、股関節、足関節の疼痛により自身での動作は困難な状態であった。初回評価にて介護福祉士、理学療法士がケア方法を検討した。起居はベッドギャッチアップを調整することで自身で端座位までの可能であり、移乗はスライディングボードを使用して見守りから一部介助で行えることを確認した。排泄はトイレへの移乗が困難なため終日オムツを使用した。食事は自助具使用し自立していた。 荷重時に疼痛があるため、まずは安全に移乗し、座位の耐久性を向上することを目的として、段階的に離床時間を拡大するよう介入した。1か月後の夫との面談時に、疼痛の訴えがなく座位時間が延長している状態を説明したが、「まだ歩けるようにならないのか?」と現状に満足していない様子の発言があった。あわせて、急性期・回復期を経て以前の状態に回復しない事への不満や、自宅生活再開時に介助が必要になるかもしれないことに対する不安感が聞かれた。不安感に着目して傾聴することで、背景には前医にて福祉用具を使用しない人力での移乗介助を伝達されていたことが一因であることがわかった。夫の不安に共感しつつ共に解決策を探していく旨を伝え、現時点の症例の能力で疼痛が生じず、かつ夫が可能な介助方法を早期に伝達していく方針に切り替えた。併せて排泄はスライディングボードにて移乗できるよう、ポータブルトイレを使用して行うこととした。夫への現状報告と動作確認、課題の把握を行うため自宅訪問を調整した。夫へ歩行主体の移動はできないこと、そのため福祉用具と介護サービスを利用して生活することを提案した。自宅にて実際に夫へ介護方法を伝達し実践してもらったことで、夫からは「これなら家でもいけそう」と発言があった。その後、老健にて複数回夫への介助方法伝達の機会を設け、自宅生活再開への準備を整えた。本人、夫、居宅での担当ケアマネジャーとの面談を行い、サービス内容を検討した。スライディングボードなどを使用するため、在宅復帰後のケア内容については担当ケアマネジャーと細かく情報共有を行った。結果、訪問入浴と併せ夫の介助での生活が定着することを目的とした訪問リハビリテーションを利用することとなった。居宅サービスのスタッフに対しては直接介助方法を伝達するとともに、動画による情報共有を行った。
【結果】
退所後訪問で確認した結果、訪問入浴の支援を受けつつ、訪問リハにて夫の介助による起居、移乗、排せつが行えるようになっていた。夫からの介助負担は聞かれず、症例からも疼痛の訴えもなく、在宅生活が送れていることを確認した。
【考察】
今回の症例において在宅復帰が可能となったポイントとしては、(1)夫の不安の原因について詳細に確認できたこと、(2)自宅での介助力に応じた施設内でのケアを検討できたこと、(3)施設内でのケアを居宅サービスでも継続できたことの3点があげられる。今回の調整では夫の不安感を明確にしたことで、夫の可能な介助にて生活できる環境作りに焦点をあてることができた。夫は透析を行なっていることもあり、体力に不安を感じていた。その状態で人力でのケア方法を伝達されていたため、「妻が前のように動けるようにならないと帰ることはできない」との考えにつながっていた。当老健は、2020年より「ケアする人、される人双方に負担のかからないケア」であるノーリフティングケアを導入しており、在宅でも負担の少ないケアをより早期より実践するようにしている。この取り組みが夫の不安を軽減する要因になったのではないかと考える。また、居宅サービス調整時においても同様に夫の介助に焦点をあてたため、ノーリフティングケアや福祉用具の使用について理解のあるサービスにつなげることができたと考える。居宅サービスを調整するにあたり、福祉用具の導入に理解を得られずに難航するケースは多い。今回のケースでは、家族の不安を理解するためには共感が重要であり、共感から信頼へと繋がることが重要であることを学んだ。今後も施設ケアと家族、地域をつなぐ役割として、支援相談をより効果的に進めていけるよう取り組んでいきたい。