講演情報

[28-O-R007-01]老健発!保険外見守りサービスの立ち上げ

栃木県 星野 泰世 (介護老人保健施設やすらぎの里八州苑)
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【はじめに】
 高齢者の単身世帯は年々増加しており、2020年時点で65歳以上の単身世帯は全世帯の約20%を占めるに至っている。介護老人保健施設(以下、老健)は、在宅復帰支援を主たる役割とするが、近年は「独居であること」が退所後の大きな障壁となる事例が目立つようになってきた。身体機能や認知機能が改善し、必要なサービスを整えれば在宅生活は可能と判断されるケースであっても、家族が「一人では心配だ」と強く不安を訴えることから、退所を断念せざるを得ない状況がある。家族からは「毎日何らかの形で安否確認があれば」という声も多く聞かれるが、現行の介護保険制度ではサービス内容や提供回数に制限があるため、安否確認のみを目的とした連日支援は制度上想定されておらず、対応が難しいのが実情である。今後、さらに単身高齢者の割合が増加していくと見込まれる中、老健が地域における在宅復帰支援拠点としてその機能を維持していくためには、制度の隙間を補完する新たな支援の枠組みが不可欠であると考えた。当法人では、こうした課題に対応すべく、介護保険外での見守りサービスを立ち上げ、実運用を開始した。その結果、従来であれば在宅復帰が困難と判断された利用者が、家族の理解と本人の意向を両立するかたちで無事在宅生活を再開できた事例が複数認められた。本報告では、サービス設計の工夫と具体的事例を提示し、保険外支援の可能性と今後の展望について考察する。

【方法】
 サービス導入に際しては、訪問主体の選定、提供時間の管理、契約手続き、緊急時対応、人員配置との整合性など、法的・実務的観点から多角的に検討を行った。全事業所の管理者と協議を重ねた結果、訪問介護事業所のヘルパーが、保険サービス提供の前後に保険外サービスとして安否確認を行う体制を構築した。サービスは利用者ごとの自費契約に基づき提供し、内容には訪問時の体温測定・体調観察・状況記録、異常時の家族またはケアマネージャーへの連絡などを明記した。訪問介護サービスとの時間的な明確な区分を徹底し、また保険外対応時には記録を別に取り、法令上の人員配置基準を下回らないようヘルパーステーション管理者が勤務調整を行った。さらに、連絡がつかない場合の対応フローも別途整備し、想定されるリスクに備えた。

【結果】
(事例1)
 81歳、男性。要介護1。脳梗塞後遺症による右不全片麻痺を認めており、左膝関節骨折を契機にサービス付き高齢者住宅に入居されていた。本人が在宅復帰を強く希望し当施設に入所した。入所後のリハビリテーションにてADLは自立レベルまで回復しだが、遠方に住む家族が「独居生活への不安」から反対を示した。そこで、介護保険での訪問介護に加えサービスが入らない日には「保険外の見守りサービス」を提案。「毎日何らかの形で安否確認ができるなら」と在宅復帰に至った。現在も単身で在宅生活を継続している。
(事例2)
 76歳、男性。要介護1。間質性肺炎を基礎疾患として有している中、誤嚥性肺炎を発症。偶然訪問したケアマネージャーが動けなくなっているところを発見し救急要請。医療機関に入院した。自宅退院困難のため当施設に入所後に、ADLは自立レベルまで改善した。通所サービスの利用で在宅復帰可能と思われたが、同居の次男より「連日の勤務で実質独居状態であり、今回のようなことがあると心配」と在宅復帰に後ろ向きであった。そこで、通所サービスを利用しない日に「保険外の見守りサービス」導入を提案。家族も了承し無事在宅復帰。現在も在宅生活を継続している。

【考察】
 厚生労働省は、「地域包括ケアシステムの深化・推進に向けては、介護保険サービスに加えて、保険外サービスの活用が不可欠である」という提言をしており、保険外サービスの普及を促進する立場である。しかしながら自施設の近隣においてはそのようなサービスはほぼ存在せず、在宅復帰の限界を引き上げるべく今回の取り組みを開始した。実際の成功事例を経て、新規サービスをゼロベースから立ち上げた意義を実証することができたと考えている。今回報告した2事例は、本人が強い在宅生活を望んでいたためそれが達成された際は非常に喜ばれ、ケアワーカーの一人として大きな達成感を得ることができた。
 一方で、サービスの提供開始後に感じた課題も存在した。具体的には、緊急連絡先に連絡がつかず対応に迷う場面があったことである。幸いに、「施錠された状態で安否確認ができなかった」程度の報告であり、トラブルへ発展したケースは現時点までにない。しかしながら、実際の体調不良時などに対応が遅れる可能性があり、連絡がつかない場合の対応を事前に協議していくことが重要と感じた。また今回の事例のように、老健入所を経由することで自法人と家族の間に信頼関係の構築ができているか、を事前に評価することが最も肝要である。今回のような見守りサービスは、保険外であるがゆえに法的枠組みが曖昧であり、緊急時の対応や苦情発生時の責任の所在などの点で明確に規定されているわけではない。そのため、一度クレームに発展すると対応に苦慮することが予想されるからである。そのため、サービス提供にあたっては「自法人と利用する本人・家族と信頼関係が構築されているか」を判断して提案することが重要である。そのうえで、契約内容をいかに明文化し、家族とどの程度の合意を形成できるかが、安全かつ継続的な運用の鍵であると感じた。
 このように課題は残されているものの、本サービスが無ければ在宅復帰を果たせなかった利用者がいることも実証され、介護保険外の柔軟なサービス提供はますます重要になると予想される。老健が制度の枠を越えて地域で果たせる役割を再定義し、法人全体での取り組みに発展させていきたい。