講演情報
[28-O-T002-03]ICT活用で高まる介護の質HitomeQによる転倒予防と効率化
熊本県 ○竹村 周記, 山田 和彦, 立津 梨恵, 中村 千恵子, 出永 寿美, 森口 美琴 (介護老人保健施設リバーサイド御薬園)
1.はじめに
当施設は定員80名の超強化型介護老人保健施設であり、利用者のQOL向上と安全確保、職員の負担軽減を継続的に目指している。近年、ICT導入が進む中、当施設では見守り支援システム「HitomeQ」を全居室に導入した。本発表では、転倒予防、業務の効率化、職場環境改善、利用者満足度の向上といった多面的な成果と課題、今後の展望について報告する。
2.システム概要と運用体制
HitomeQは、天井のセンサーが利用者の行動をリアルタイムで検知し、異常時にスマートフォンへ映像と通知を送るシステムである。これにより不要な訪室を減らしながら、迅速で適切なケアが実現し、転倒時の録画映像をもとに原因分析と再発防止策の立案が可能となった。ナースコール・トイレコールとの連動、AIによる睡眠分析、職員間通話のスマートフォン・インカムによる一元化も実施した。ICT担当者を現場経験者から選出し、看護・介護・リハビリの多職種で構成された推進チーム、システムエンジニアの雇用による即時対応など、現場主導の運用改善に努めた。
3.導入前の課題と勤務体制
勤務体制は看護職9名、介護職31名(うち外国人5名)、介護助手7名、リハビリ職5名で構成し、夜勤は看護職1名・介護職3名体制であった。導入前はBPSDのある利用者の安全確保のため、廊下にベッドを出して見守る必要があり、利用者のプライバシーが損なわれるとともに、職員も常に移動・見守りを強いられ、落ち着いた介助が困難だった。また、職員間連絡は固定電話頼みで、連絡効率にも課題があった。
4.検証方法
導入前後の比較として、ICT担当者による現場観察・分析、職員アンケート、タイムスタディアプリによる業務分析を実施した。加えて、転倒発生件数や連絡効率化の記録など、多面的な評価を行った。
5.導入効果と現時点の課題
(1)運用面の変化
導入初期はシステム変更による混乱もみられたが、推進チームの主導により、早期に運用が安定した。スマートフォンに慣れた職員は習熟が早く、受け入れも良好だった。一方で、一部の職員はデジタル機器への苦手意識を抱えており、継続的な教育体制の強化が今後の課題である。
(2)夜間対応とプライバシー確保
夜間に廊下へベッドを出す必要がなくなり、職員は落ち着いて介助できるようになった。結果として職員の心理的負担軽減と利用者のプライバシー確保の両面で効果があった。AIによる睡眠分析の結果、十分な睡眠がとれていると思われていた利用者が実際にはそうでなかったことが判明し、看護職と医師の連携による薬剤調整が行われ、睡眠の質の改善につながった。HitomeQの通知音は職員に負担だったが、施設全体は静かになり、利用者の睡眠環境が改善した。
(3)職員アンケート結果(回収率92.9%)
「業務負担が軽くなった」が84.6%、「不要な訪室が減った」が86.7%と、多くの職員が負担軽減を実感した。HitomeQのデータ分析によって、夜間のライブ映像使用率は全国平均約25%に対し、当施設では43%と高く、一方で訪室率は8%と低水準に抑えられていた。これは、HitomeQの特徴である「見て駆けつける」という運用が効果的に機能し、職員が映像を確認したうえで訪室の必要性を的確に判断できていることを示している。
(4)直接介護時間と夜勤の負担軽減
タイムスタディでは、日中の直接介護時間の割合が3か月間で50.5%から53.3%へと増加し、より多くの時間を直接ケアに充てられるようになった。夜間の訪室時間も270分から173分に短縮され、夜勤者の仮眠確保にもつながった。
(5)転倒予防と原因分析
夜間の転倒件数は月平均1.5件から1.2件に減少し、転倒時には自動記録された映像を活用し、発生状況を詳細に把握することで、具体的な原因分析と再発防止策の立案がより実践的に行えるようになった。また、ベッド上で立ち上がろうとする様子を検知し、転落事故が発生する前に布団へ切り替えるなどのヒヤリ・ハットの発見も増えた。さらに、家族への状況説明がしやすくなったとの意見もあった。
(6)職員間連絡の効率化と職場環境改善
HitomeQの通話機能により、職員間連絡の効率が向上した。「連絡が楽になった」「相手を探さなくてよい」との声が多く、外線対応のためにスマートフォンの内線化も検討中である。有給休暇の取得日数は前年同時期の平均2.4日から2.6日へ微増した。大幅な変化ではないが、ICT導入による業務の効率化が職場環境の改善につながった可能性が示唆される。
(7)利用者満足度
利用者からは「アラームが鳴らなくなって静かになった」との声があり、昼夜ともに生活環境の向上がみられた。生産性向上推進体制加算の調査票では、生活・認知機能尺度およびQOLの項目に変化はなかったものの、経営面では加算1の要件を満たし、算定開始による経営面の効果も得られた。
6.課題解決に向けた展望
(1)現場主導の改善体制の継続
システムエンジニアとICT担当者がより一層連携して、現場の声を反映した運用の改善、トラブルへの迅速な対応を継続する。
(2)データ活用の高度化
HitomeQのデータを活かした転倒予防の強化、タイムスタディアプリによる自動的な加算算定書類の出力、データをグラフや表で直感的に把握できるダッシュボード画面の作成を計画中。
(3)教育支援へのAI活用
文章生成AI(ChatGPTなど)を活用し、指導内容の均質化と教育負担の軽減を図る。これらによって、現場主導の運用とデータ活用の高度化を図り、他施設との成果共有も視野に入れながら、業務の効率化とケアの質の向上をさらに目指す。
7.まとめ
HitomeQ導入により、業務負担の軽減、直接介護時間の増加、転倒予防精度の向上など、職員・利用者双方に有益な効果が得られた。今後もICTと多職種連携を活用し、質の高いケアと生産性の向上の両立を目指す。
当施設は定員80名の超強化型介護老人保健施設であり、利用者のQOL向上と安全確保、職員の負担軽減を継続的に目指している。近年、ICT導入が進む中、当施設では見守り支援システム「HitomeQ」を全居室に導入した。本発表では、転倒予防、業務の効率化、職場環境改善、利用者満足度の向上といった多面的な成果と課題、今後の展望について報告する。
2.システム概要と運用体制
HitomeQは、天井のセンサーが利用者の行動をリアルタイムで検知し、異常時にスマートフォンへ映像と通知を送るシステムである。これにより不要な訪室を減らしながら、迅速で適切なケアが実現し、転倒時の録画映像をもとに原因分析と再発防止策の立案が可能となった。ナースコール・トイレコールとの連動、AIによる睡眠分析、職員間通話のスマートフォン・インカムによる一元化も実施した。ICT担当者を現場経験者から選出し、看護・介護・リハビリの多職種で構成された推進チーム、システムエンジニアの雇用による即時対応など、現場主導の運用改善に努めた。
3.導入前の課題と勤務体制
勤務体制は看護職9名、介護職31名(うち外国人5名)、介護助手7名、リハビリ職5名で構成し、夜勤は看護職1名・介護職3名体制であった。導入前はBPSDのある利用者の安全確保のため、廊下にベッドを出して見守る必要があり、利用者のプライバシーが損なわれるとともに、職員も常に移動・見守りを強いられ、落ち着いた介助が困難だった。また、職員間連絡は固定電話頼みで、連絡効率にも課題があった。
4.検証方法
導入前後の比較として、ICT担当者による現場観察・分析、職員アンケート、タイムスタディアプリによる業務分析を実施した。加えて、転倒発生件数や連絡効率化の記録など、多面的な評価を行った。
5.導入効果と現時点の課題
(1)運用面の変化
導入初期はシステム変更による混乱もみられたが、推進チームの主導により、早期に運用が安定した。スマートフォンに慣れた職員は習熟が早く、受け入れも良好だった。一方で、一部の職員はデジタル機器への苦手意識を抱えており、継続的な教育体制の強化が今後の課題である。
(2)夜間対応とプライバシー確保
夜間に廊下へベッドを出す必要がなくなり、職員は落ち着いて介助できるようになった。結果として職員の心理的負担軽減と利用者のプライバシー確保の両面で効果があった。AIによる睡眠分析の結果、十分な睡眠がとれていると思われていた利用者が実際にはそうでなかったことが判明し、看護職と医師の連携による薬剤調整が行われ、睡眠の質の改善につながった。HitomeQの通知音は職員に負担だったが、施設全体は静かになり、利用者の睡眠環境が改善した。
(3)職員アンケート結果(回収率92.9%)
「業務負担が軽くなった」が84.6%、「不要な訪室が減った」が86.7%と、多くの職員が負担軽減を実感した。HitomeQのデータ分析によって、夜間のライブ映像使用率は全国平均約25%に対し、当施設では43%と高く、一方で訪室率は8%と低水準に抑えられていた。これは、HitomeQの特徴である「見て駆けつける」という運用が効果的に機能し、職員が映像を確認したうえで訪室の必要性を的確に判断できていることを示している。
(4)直接介護時間と夜勤の負担軽減
タイムスタディでは、日中の直接介護時間の割合が3か月間で50.5%から53.3%へと増加し、より多くの時間を直接ケアに充てられるようになった。夜間の訪室時間も270分から173分に短縮され、夜勤者の仮眠確保にもつながった。
(5)転倒予防と原因分析
夜間の転倒件数は月平均1.5件から1.2件に減少し、転倒時には自動記録された映像を活用し、発生状況を詳細に把握することで、具体的な原因分析と再発防止策の立案がより実践的に行えるようになった。また、ベッド上で立ち上がろうとする様子を検知し、転落事故が発生する前に布団へ切り替えるなどのヒヤリ・ハットの発見も増えた。さらに、家族への状況説明がしやすくなったとの意見もあった。
(6)職員間連絡の効率化と職場環境改善
HitomeQの通話機能により、職員間連絡の効率が向上した。「連絡が楽になった」「相手を探さなくてよい」との声が多く、外線対応のためにスマートフォンの内線化も検討中である。有給休暇の取得日数は前年同時期の平均2.4日から2.6日へ微増した。大幅な変化ではないが、ICT導入による業務の効率化が職場環境の改善につながった可能性が示唆される。
(7)利用者満足度
利用者からは「アラームが鳴らなくなって静かになった」との声があり、昼夜ともに生活環境の向上がみられた。生産性向上推進体制加算の調査票では、生活・認知機能尺度およびQOLの項目に変化はなかったものの、経営面では加算1の要件を満たし、算定開始による経営面の効果も得られた。
6.課題解決に向けた展望
(1)現場主導の改善体制の継続
システムエンジニアとICT担当者がより一層連携して、現場の声を反映した運用の改善、トラブルへの迅速な対応を継続する。
(2)データ活用の高度化
HitomeQのデータを活かした転倒予防の強化、タイムスタディアプリによる自動的な加算算定書類の出力、データをグラフや表で直感的に把握できるダッシュボード画面の作成を計画中。
(3)教育支援へのAI活用
文章生成AI(ChatGPTなど)を活用し、指導内容の均質化と教育負担の軽減を図る。これらによって、現場主導の運用とデータ活用の高度化を図り、他施設との成果共有も視野に入れながら、業務の効率化とケアの質の向上をさらに目指す。
7.まとめ
HitomeQ導入により、業務負担の軽減、直接介護時間の増加、転倒予防精度の向上など、職員・利用者双方に有益な効果が得られた。今後もICTと多職種連携を活用し、質の高いケアと生産性の向上の両立を目指す。
