講演情報
[28-O-T002-04]生成AIと挑む、勤務表作成のイノベーション「AI」と「ヒト」が切り拓く、介護現場の新たな未来
北海道 ○長 純平, 森 大河, 伊藤 竜至 (社会福祉法人 光寿会 介護老人保健施設 ケアステーションアンダンテ)
【はじめに】
介護現場の人材不足は慢性的課題となっている。2025年・2040年問題を背景に生産年齢人口は2020年の7,509万人から2040年には6,213万人へと減少する見通しであり、介護施設における業務効率化やICT活用は急務である。当施設では生産性向上委員会の一環として介護職員へヒアリングを実施した。その結果、勤務表作成に多くの時間が割かれ、本来注力すべきケアや管理業務に支障を来している実態が判明した。この課題に対し、厚労省の「介護現場における生産性向上ガイドライン」に基づき、生成AIを活用した勤務表作成に取り組んだ。本稿ではその具体的なプロセスと成果を報告する。
【仮説】
(1) 勤務希望や条件、法令順守など複雑な要素を短時間で調整できる点で、生成AIは人的作業の補完として有効と考える。
(2) 介護施設のICT活用は業務時間短縮の効果が他施設でも報告されており、当施設でも同様の成果が得られる可能性が高い。
(3) 属人化の是正により、担当者不在時でもプロンプトを活用すれば、他職員による作成が可能になると考える。
【勤務表作成における一般的な課題】
(1)労働基準法を遵守する
(2)公平性や職員同士の相性に考慮した希望休への対応
(3)職員の安全面・健康面への配慮
(4)急な勤務変更や人材不足への対応
【取り組み内容(PDCA)】
当初は有料ソフトの導入も検討したが、設定の固定化や柔軟性の不足から、当施設のように勤務希望が多様な現場には適さないと判断した。そこで、より現場に即した対応が可能な生成AIの導入に踏み切った。
【Plan】まず、勤務条件や制約ルール、希望休などを洗い出し、AIが理解できるように自然言語でプロンプトを作成。介護部門と連携しながら、現場の実態に合うルールを整理した。
【Do】生成AIに勤務表の初期案を出力させ、現場職員と共に精度を検証。勤務間隔や希望反映、法令遵守などを確認し、不備があればプロンプトを修正して改善を重ねた。
【Check】複数回の出力と確認を行い、施設の勤務ルールへの適合性を検証。調整ルールや表現方法を工夫し、安定して現場に適した勤務表を作成できる状態に近づけた。
【Act】実際に勤務表を現場運用し、一部は人の手で微調整を加えながら実用性を確認。属人化の緩和や再現性のある仕組み作りに繋がり、AIと人との協働体制の可能性を見出すことができた。
【結果】
本取り組みにより、勤務表作成に要する平均作業時間は従来の約30時間から17時間へと大幅に短縮され、作成にかかる日数も6日から3日へと半減した。作業負担度についても、主観的評価で最大5点だったものが3点まで軽減され、業務の心理的・身体的な負担が可視的に緩和された。
生成AIを活用した勤務表作成においては、施設特有の勤務ルールや希望条件を正確に反映するため、当施設独自のプロンプトを構築したことが大きな鍵となった。当初は曖昧な表現や言葉の抜け漏れによって出力にばらつきが見られたが、試行錯誤を重ねて内容を整えたことで、生成AIによる初期案の精度が明らかに向上した。
また、これまで特定の職員に集中していた勤務表作成業務を、誰でも一定水準の勤務表を生成できる。今回の取り組みは暗黙知であった属人化の是正という観点で非常に意義深い成果となった。
しかし、今回の生成AIを活用する中で、人情的な配慮や公平性など、生成AIでは対応しきれない施設課題に関しては、最終的に人の手による修正が必要であるという結果も明らかとなった。
【考察】
本取り組みは、単なる勤務表作成の効率化にとどまらない。生成AIの導入にあたり、施設が抱える根本的な課題や現場の複雑な実情を丁寧に拾い上げ、それらを反映した独自のプロンプトを一から構築した。これは、特定の職員にしかわからなかった“経験的な知識”を可視化し、AIが理解できる形に整理する挑戦でもあり、人と技術が協力して業務知識を再構築するプロセスであった。試行錯誤の末に完成したプロンプトは、精度と応用性を兼ね備えたツールとなり、業務負担の軽減に加え、人材定着や組織の持続的な運営にも貢献し得る成果を生んだ。今後、生成AIやICTの進歩はますます加速することが予想される。そうした中で重要なのは、技術に頼るだけでなく、それをどう活用するかという人としての姿勢や考え方である。生成AIに全てを任せるのではなく、人間にしか持ち得ない「直感」「対話」「思いやり」「意志」といった価値観との組み合わせが必要である。介護という“人にしかできない営み”の本質を大切にしながら、AIと共によりよい現場づくりを目指していく。それが、真の意味での人とテクノロジーの共存であると考える。
【今後の課題】
「共に学び、成長し、人間を支えるパートナーへと進化させる」という生成AIの方向性は、介護現場にも有効である。勤務表作成や記録業務、リスク管理などの分野においてAIを活用することで、職員はより本質的なケアに注力できるようになる。また、業務の属人化が軽減され、標準化と継続的改善の体制構築にもつながる。AIを道具としてではなく、現場と共に成長する存在と捉え、インフラ整備・教育・制度設計を並行して進めることが、今後の持続可能な介護の鍵となる。
【参考文献】
田島健 「介護サービス 生産性向上ガイド 介護現場の悩みを解消するケア効率化の手法」2024
厚生労働省「介護人材確保に向けた取り組み」2023
介護現場の人材不足は慢性的課題となっている。2025年・2040年問題を背景に生産年齢人口は2020年の7,509万人から2040年には6,213万人へと減少する見通しであり、介護施設における業務効率化やICT活用は急務である。当施設では生産性向上委員会の一環として介護職員へヒアリングを実施した。その結果、勤務表作成に多くの時間が割かれ、本来注力すべきケアや管理業務に支障を来している実態が判明した。この課題に対し、厚労省の「介護現場における生産性向上ガイドライン」に基づき、生成AIを活用した勤務表作成に取り組んだ。本稿ではその具体的なプロセスと成果を報告する。
【仮説】
(1) 勤務希望や条件、法令順守など複雑な要素を短時間で調整できる点で、生成AIは人的作業の補完として有効と考える。
(2) 介護施設のICT活用は業務時間短縮の効果が他施設でも報告されており、当施設でも同様の成果が得られる可能性が高い。
(3) 属人化の是正により、担当者不在時でもプロンプトを活用すれば、他職員による作成が可能になると考える。
【勤務表作成における一般的な課題】
(1)労働基準法を遵守する
(2)公平性や職員同士の相性に考慮した希望休への対応
(3)職員の安全面・健康面への配慮
(4)急な勤務変更や人材不足への対応
【取り組み内容(PDCA)】
当初は有料ソフトの導入も検討したが、設定の固定化や柔軟性の不足から、当施設のように勤務希望が多様な現場には適さないと判断した。そこで、より現場に即した対応が可能な生成AIの導入に踏み切った。
【Plan】まず、勤務条件や制約ルール、希望休などを洗い出し、AIが理解できるように自然言語でプロンプトを作成。介護部門と連携しながら、現場の実態に合うルールを整理した。
【Do】生成AIに勤務表の初期案を出力させ、現場職員と共に精度を検証。勤務間隔や希望反映、法令遵守などを確認し、不備があればプロンプトを修正して改善を重ねた。
【Check】複数回の出力と確認を行い、施設の勤務ルールへの適合性を検証。調整ルールや表現方法を工夫し、安定して現場に適した勤務表を作成できる状態に近づけた。
【Act】実際に勤務表を現場運用し、一部は人の手で微調整を加えながら実用性を確認。属人化の緩和や再現性のある仕組み作りに繋がり、AIと人との協働体制の可能性を見出すことができた。
【結果】
本取り組みにより、勤務表作成に要する平均作業時間は従来の約30時間から17時間へと大幅に短縮され、作成にかかる日数も6日から3日へと半減した。作業負担度についても、主観的評価で最大5点だったものが3点まで軽減され、業務の心理的・身体的な負担が可視的に緩和された。
生成AIを活用した勤務表作成においては、施設特有の勤務ルールや希望条件を正確に反映するため、当施設独自のプロンプトを構築したことが大きな鍵となった。当初は曖昧な表現や言葉の抜け漏れによって出力にばらつきが見られたが、試行錯誤を重ねて内容を整えたことで、生成AIによる初期案の精度が明らかに向上した。
また、これまで特定の職員に集中していた勤務表作成業務を、誰でも一定水準の勤務表を生成できる。今回の取り組みは暗黙知であった属人化の是正という観点で非常に意義深い成果となった。
しかし、今回の生成AIを活用する中で、人情的な配慮や公平性など、生成AIでは対応しきれない施設課題に関しては、最終的に人の手による修正が必要であるという結果も明らかとなった。
【考察】
本取り組みは、単なる勤務表作成の効率化にとどまらない。生成AIの導入にあたり、施設が抱える根本的な課題や現場の複雑な実情を丁寧に拾い上げ、それらを反映した独自のプロンプトを一から構築した。これは、特定の職員にしかわからなかった“経験的な知識”を可視化し、AIが理解できる形に整理する挑戦でもあり、人と技術が協力して業務知識を再構築するプロセスであった。試行錯誤の末に完成したプロンプトは、精度と応用性を兼ね備えたツールとなり、業務負担の軽減に加え、人材定着や組織の持続的な運営にも貢献し得る成果を生んだ。今後、生成AIやICTの進歩はますます加速することが予想される。そうした中で重要なのは、技術に頼るだけでなく、それをどう活用するかという人としての姿勢や考え方である。生成AIに全てを任せるのではなく、人間にしか持ち得ない「直感」「対話」「思いやり」「意志」といった価値観との組み合わせが必要である。介護という“人にしかできない営み”の本質を大切にしながら、AIと共によりよい現場づくりを目指していく。それが、真の意味での人とテクノロジーの共存であると考える。
【今後の課題】
「共に学び、成長し、人間を支えるパートナーへと進化させる」という生成AIの方向性は、介護現場にも有効である。勤務表作成や記録業務、リスク管理などの分野においてAIを活用することで、職員はより本質的なケアに注力できるようになる。また、業務の属人化が軽減され、標準化と継続的改善の体制構築にもつながる。AIを道具としてではなく、現場と共に成長する存在と捉え、インフラ整備・教育・制度設計を並行して進めることが、今後の持続可能な介護の鍵となる。
【参考文献】
田島健 「介護サービス 生産性向上ガイド 介護現場の悩みを解消するケア効率化の手法」2024
厚生労働省「介護人材確保に向けた取り組み」2023
