講演情報
[28-O-T002-06]「生産性向上2.0」への取り組みAIによる睡眠データ解析を活用した科学的介護の実践
富山県 ○下林 翔, 中山 萌花, 瀬川 麻由美, 多賀 誠一, 家城 裕子, 亀井 哲也 (介護老人保健施設みどり苑)
1.背景
当苑では2016年より介護ロボットの導入を開始した。2022年には富山県の介護ロボット伴走支援事業に参加し、見守り機器を活用した訪室ルールの整備や業務標準化を推進したことで、転倒予防・職員の負担軽減・ケアの質向上につながった。こうした一連の取り組みを当苑では「生産性向上1.0」と定義し、次のステップとして、AIによるデータ活用を介護に反映する「生産性向上2.0」に取り組んでいる。
2025年1月に、当苑ではコニカミノルタ社の見守りセンサー「HitomeQ(ヒトメク)ケアサポートシステム」(以下HitomeQ)を100床全床に導入した。HitomeQには記録データをAIが解析し、行動パターンや状態を可視化する「ケアルーペ」機能が備っており、精度の高いケアの提供に寄与している。
コニカミノルタ社の先行研究では「夜間睡眠状態とBPSD発症には関連がある」とされており、当苑でもこの仮説に基づき、HitomeQの「ケアルーペ」機能を用いて睡眠解析データを取得し、認知症ケアにおける質向上の可能性を検証した。
2.目的
認知症高齢者における夜間の睡眠パターンとBPSD(行動・心理症状)との関連を検証し、生活リズム調整やケア方針の見直しにAIデータをどのように活用できるかを考察する。
3.方法
認知症専門棟の入所者で、BPSD(特に低活発性)が顕著な利用者2名を対象とし、2025年1月のHitomeQ導入以降に取得された夜間の睡眠データを分析した。
AIによる入眠・起床時刻、夜間覚醒回数などの指標から各利用者の生活リズムを把握。AIデータは職員間で共有し、訪室タイミングの調整、日中活動量の見直しを行った。BPSD測定調査を定期的に行い、ケア方針に関するアセスメントを実施した。
4.結果
対象とした2名の利用者において、AIによる夜間の睡眠データとBPSDQ25スコアの経時的推移を分析した結果、以下のような傾向が確認された。
利用者Aは、HitomeQ導入当初より睡眠データには夜間の離床や短時間の覚醒が散発的に記録されており、日中は傾眠や反応の低下が目立つなど低活発性のBPSDが継続して観察された。BPSDQ25スコアは2025年1月の14点からケア方針の見直しにより一時的に12点まで改善したが、その後は昼夜逆転による不穏傾向が顕著になり、7月には18点に増加した。AIデータとスコアには一定の関連が見られた。
利用者Bは、当初は比較的安定した生活リズムを維持していたが、2025年6月頃より下肢筋力の低下によりADLが低下し、車イス中心の生活となった。睡眠データではこの時期以降、夜間の覚醒状態に変化が見られ、昼夜逆転の傾向が強まった。同時期より日中の傾眠や反応の低下など低活発性BPSDが顕在化し、BPSDQ25スコアは1月の7点から6月に18点、7月には21点まで上昇し、夜間睡眠の乱れとスコア悪化の関連が見られており、ケア方針の見直しに取り組んでいる(7月現在)。
2名ともに、生活リズムの乱れと低活発性BPSDとの間に一定の関連が見られ、AIによる睡眠データの可視化により、生活サイクルの変化と行動変容を客観的に把握することが可能となった。また、こうした情報を職員間で共有することで、ケア方針の見直しや訪室・支援タイミングの調整に活用され、チーム全体での共通理解と連携の強化が図られた。
5.考察
本事例から、「夜間睡眠状態とBPSD発症には関連がある」という仮説を実証することができた。特に、夜間の覚醒や睡眠時間が可視化されることで、日中のBPSDとの関連が把握しやすくなり、早期介入や支援方針の調整が可能となった。
またAIデータの活用により、これまで主観的だったBPSDの把握や評価を定量的に行うことができ、ケアの標準化や方針の明確化に繋がった。これは、単なる業務効率化にとどまらず、科学的介護実践の基盤形成につながると考える。
一方で、AIによる睡眠データ解析を現場で効果的に活用するためには、一部の担当者だけでなく、全職員がデータの意味を理解し、日常ケアに応用できる体制づくりが必要である。実際、導入初期には「データの意味が分からない」「どう活用すればよいか分からない」といった声もあり、全職員への継続的な教育支援と、誰もが自然にデータを扱える体制づくりが不可欠である。
6.展望
当苑の「生産性向上2.0」の取り組みはまだ初期段階であるが、AIによる睡眠データ分析を行うことで、夜間睡眠状態とBPSD発症の関連性を確認することができた。今後は検証事例を増やし、利用者の生活情報やLIFEデータ等との連携を強化し、より質の高いアウトカム評価の実現を目指す。
また、職員の情報リテラシー向上に向けた教育プログラムの充実と、ケアプラン作成にあたりAIデータを活用する業務プロセスの整備を進め、組織全体でのDX推進を図る必要がある。
今後は生成AIを活用し、ケアプラン作成や記録業務の効率化にも取り組むことで、「生産性向上2.0」を深化させ、科学的介護の実現とさらなるケアの質向上を目指していきたい。
当苑では2016年より介護ロボットの導入を開始した。2022年には富山県の介護ロボット伴走支援事業に参加し、見守り機器を活用した訪室ルールの整備や業務標準化を推進したことで、転倒予防・職員の負担軽減・ケアの質向上につながった。こうした一連の取り組みを当苑では「生産性向上1.0」と定義し、次のステップとして、AIによるデータ活用を介護に反映する「生産性向上2.0」に取り組んでいる。
2025年1月に、当苑ではコニカミノルタ社の見守りセンサー「HitomeQ(ヒトメク)ケアサポートシステム」(以下HitomeQ)を100床全床に導入した。HitomeQには記録データをAIが解析し、行動パターンや状態を可視化する「ケアルーペ」機能が備っており、精度の高いケアの提供に寄与している。
コニカミノルタ社の先行研究では「夜間睡眠状態とBPSD発症には関連がある」とされており、当苑でもこの仮説に基づき、HitomeQの「ケアルーペ」機能を用いて睡眠解析データを取得し、認知症ケアにおける質向上の可能性を検証した。
2.目的
認知症高齢者における夜間の睡眠パターンとBPSD(行動・心理症状)との関連を検証し、生活リズム調整やケア方針の見直しにAIデータをどのように活用できるかを考察する。
3.方法
認知症専門棟の入所者で、BPSD(特に低活発性)が顕著な利用者2名を対象とし、2025年1月のHitomeQ導入以降に取得された夜間の睡眠データを分析した。
AIによる入眠・起床時刻、夜間覚醒回数などの指標から各利用者の生活リズムを把握。AIデータは職員間で共有し、訪室タイミングの調整、日中活動量の見直しを行った。BPSD測定調査を定期的に行い、ケア方針に関するアセスメントを実施した。
4.結果
対象とした2名の利用者において、AIによる夜間の睡眠データとBPSDQ25スコアの経時的推移を分析した結果、以下のような傾向が確認された。
利用者Aは、HitomeQ導入当初より睡眠データには夜間の離床や短時間の覚醒が散発的に記録されており、日中は傾眠や反応の低下が目立つなど低活発性のBPSDが継続して観察された。BPSDQ25スコアは2025年1月の14点からケア方針の見直しにより一時的に12点まで改善したが、その後は昼夜逆転による不穏傾向が顕著になり、7月には18点に増加した。AIデータとスコアには一定の関連が見られた。
利用者Bは、当初は比較的安定した生活リズムを維持していたが、2025年6月頃より下肢筋力の低下によりADLが低下し、車イス中心の生活となった。睡眠データではこの時期以降、夜間の覚醒状態に変化が見られ、昼夜逆転の傾向が強まった。同時期より日中の傾眠や反応の低下など低活発性BPSDが顕在化し、BPSDQ25スコアは1月の7点から6月に18点、7月には21点まで上昇し、夜間睡眠の乱れとスコア悪化の関連が見られており、ケア方針の見直しに取り組んでいる(7月現在)。
2名ともに、生活リズムの乱れと低活発性BPSDとの間に一定の関連が見られ、AIによる睡眠データの可視化により、生活サイクルの変化と行動変容を客観的に把握することが可能となった。また、こうした情報を職員間で共有することで、ケア方針の見直しや訪室・支援タイミングの調整に活用され、チーム全体での共通理解と連携の強化が図られた。
5.考察
本事例から、「夜間睡眠状態とBPSD発症には関連がある」という仮説を実証することができた。特に、夜間の覚醒や睡眠時間が可視化されることで、日中のBPSDとの関連が把握しやすくなり、早期介入や支援方針の調整が可能となった。
またAIデータの活用により、これまで主観的だったBPSDの把握や評価を定量的に行うことができ、ケアの標準化や方針の明確化に繋がった。これは、単なる業務効率化にとどまらず、科学的介護実践の基盤形成につながると考える。
一方で、AIによる睡眠データ解析を現場で効果的に活用するためには、一部の担当者だけでなく、全職員がデータの意味を理解し、日常ケアに応用できる体制づくりが必要である。実際、導入初期には「データの意味が分からない」「どう活用すればよいか分からない」といった声もあり、全職員への継続的な教育支援と、誰もが自然にデータを扱える体制づくりが不可欠である。
6.展望
当苑の「生産性向上2.0」の取り組みはまだ初期段階であるが、AIによる睡眠データ分析を行うことで、夜間睡眠状態とBPSD発症の関連性を確認することができた。今後は検証事例を増やし、利用者の生活情報やLIFEデータ等との連携を強化し、より質の高いアウトカム評価の実現を目指す。
また、職員の情報リテラシー向上に向けた教育プログラムの充実と、ケアプラン作成にあたりAIデータを活用する業務プロセスの整備を進め、組織全体でのDX推進を図る必要がある。
今後は生成AIを活用し、ケアプラン作成や記録業務の効率化にも取り組むことで、「生産性向上2.0」を深化させ、科学的介護の実現とさらなるケアの質向上を目指していきたい。
