講演情報

[28-P-A001-01]「看取り期」から「生活期」への転換~「その日を待つ人ではなく、今日を生きる人へ」~

沖縄県 潮平 園子, 川上 朋美 (介護老人保健施設はまゆう)
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施設紹介
当施設は、沖縄県の南部、豊見城市にあり、東シナ海や慶良間諸島を望む自然豊かな環境にあります。1階のホール外には園庭が広がり、穏やかに過ごせる環境が整っています。
「はまゆう」は医療法人おもと会が運営する70床の介護老人保健施設であり、同法人の病院をはじめとする医療・福祉施設と密接に連携し、地域包括ケアの一翼を担っています。当施設は病院・老健・特養が同一建物内に合築された日本初の複合施設で、医療・介護・福祉の多機能な支援体制を活かしたケアを提供しています。

はじめに
令和6年度に、介護・医療・障害福祉のトリプル改定が行われ、老健施設の役割が再確認されました。看取り加算やACP体制の整備が進み、「本人の尊厳ある最期を支えるケア」が重視されています。
高齢者は体調急変から看取りへ移行することもありますが、なかには回復の可能性をもつ方もいます。
本事例は、誤嚥性肺炎後に看取り目的で当施設へ入所した101歳女性が、食支援と環境調整、多職種ケアにより活力を取り戻し、看取りから生活支援へと方向が変化した経過を通じ、柔軟なケア判断と「生きる力」に寄り添う事の重要性について再認識できたので報告します。

事例紹介
入所時の状態
101歳 女性 要介護4 6年前に有料老人ホームへ入居され、誤嚥性肺炎で入院となり当施設へ看取り目的で入所(2024年10月22日)ACP実施済(蘇生、延命治療を望まず、経口摂取中心希望)排泄全介助 常時オムツ。入浴、ストレッチャーにて全介助。食事は全介助で対応。病院の指示によりリクライニング車椅子15度・右側臥位にて摂取。摂取量は0-3割。体重(36.7kg) BMI(14.7)傾眠著明、発語少なく反応鈍い。左下腿に褥瘡あり、エアマット使用。肺雑あり、湿性咳嗽、自己喀痰困難、吸引必要。

各部署の関わりとケア内容
【看護】
■SPO2測定・呼吸観察、吸引対応
■右側臥位で呼吸安楽促進
■苦痛時は介入最小限にとどめ安楽優先
■皮膚脆弱(スライディングシート使用)
■栄養状態の確認、3ヶ月ごとの血液検査
【介護】
■毎食時に離床し、景色の良い場所で食事支援
■体幹や顎の角度など食事姿勢を調整
■手添え介助で徐々に自力摂取を促す
■自助皿や自助具などを活用、拒否時は時間をおいて促す
■他利用者との交流を意識し、コミュニケーション機会を創出
【栄養】
■栄養補助食品・形態や嗜好配慮
■摂取量状況に応じて提供カロリーを調整
■定期的な栄養モニタリングの実施
【リハビリ(PT・ST)】
■STによる摂食嚥下評価と食事介助指導
■PTによる体位調整、排痰促進のためのポジショニングと覚醒促進支援
【支援相談員】
■家族とのACP共有、経過報告
■方針の変化に応じた説明と調整
【施設ケアマネジャー】
■ACPに基づいたケアプラン作成
■多職種連携による方針変更(看取り⇒生活支援)

経過と変化のまとめ
【10月】入所時
■状態:spo2(86~93%)呼吸状態不安定。肺雑音あり、エアー入り弱い。覚醒困難、苦痛表情あり。内服不可、経口摂取困難(拒否やムセあり)
■ケア内容:吸引実施、右側臥位にてspo2改善。時間をおいて介助する事で数口の摂取がみられる。
■変化:一時的に覚醒し、開眼することもあるが継続困難。摂取不安定。
【11月~12月】状態低下
■状態:摂取量さらに低下。食渣の吸引あり。嚥下リスク高まる。
■ケア内容:主食中止。副食ハーフ食へ変更(760Kcal⇒360Kcal)言語聴覚士より嚥下評価受け一口量やタイミングを工夫。
■変化:夕食時に自発的に茶碗を持つ姿みられる。食事への関心が一部回復。
【1月】食意欲の兆し
■状態:「ご飯が食べたい」と訴えるなど食意欲が一時的に向上。自力摂取も見られる。ミキサー粥拒否、アチビーを好む傾向。
■ケア内容:好みに合わせた食事提供へ変更。痰の増加に注意しつつ、摂取状況を観察。
■変化:1月下旬より主食(アチビー90g)を安定して摂取。摂取量徐々に増加。
【2月~3月】回復期
■状態:食事は自力摂取で全量摂取可能に。副食好みはあるが概ね良好。水分摂取は拒否。
■ケア内容:自力摂取できるよう姿勢調整、食器のセッティングを実施。水分は声かけ促しで対応。栄養補助食品の促し。
■変化:経口摂取安定し、吸引の回数も減少。日中の活動量や覚醒時間も改善傾向。
【4月~現在】安定・回復維持期
■状態:体重増加 体重(40.0kg) BMI(16.0)、血液検査結果良好。褥瘡なし、吸引不要。
■ケア内容:好みや食意欲に合わせた食事支援継続。
■変化:発語、会話が増え、過去の生活についても語るなど精神・認知面で大きく改善。生活意欲の回復が明確にみられている。

考察
本事例は看取り期とされた101歳の入所者が食事支援や日常的な関わり、環境の工夫を通じて活力を取り戻し、生活支援へのケアの方向性が転換されたものである。超高齢であっても、人は関わり方や環境次第で回復の可能性を持つことが示された。特に食事量の増加や生活の質の向上は、姿勢調整や離床の促し、こまめな声かけといった日々の小さな支援が積み重なった結果であり、これらの変化にいち早く気づき対応できたのは、多職種が連携して入所者を見守り続けてきたからである。また、看取り期というケア方針にとらわれず、目の前の状態を柔軟に評価し、見直す視点を持てたことが本人の潜在的な回復力を引き出すことに繋がった。本事例を通して看取りケアにおいても「命の長さ」ではなく「暮らしの質」に焦点にあてた支援が重要であることが改めて認識された。今後も超高齢であっても、その人らしい生活を大切にし、チームで連携したケアを提供していきたい。

課題・まとめ
状態改善は職員の支援の成果であり、非常に喜ばしいが、看取り目的での入所であったため、元気になったことで「次の生活の場」の調整という新たな課題が生じている。ご家族にとっては、安堵と同時に戸惑いもあり、今後はご本人の状態に応じた継続的な生活環境の調整が必要である。