講演情報
[28-P-A001-05]音楽を通じたコミュニティ形成と意味ある場所の創出
静岡県 ○中山 裕規 (介護老人保健施設 平安の森)
はじめに
介護老人保健施設では、身体機能の維持や安全確保が優先される一方で、生活の質(QOL)や「その人らしい暮らし」を支援する取り組みは後回しにされやすいという課題がある。施設での生活は画一的になりやすく、利用者がどのように日々を楽しみ、生きがいを感じながら過ごしているのかという視点は軽視されがちである。筆者は日常業務の中で、「利用者は本当に自然に生活できているのか」「日々の中に楽しみにできる何かが存在しているのか」という疑問を抱き、音楽という活動に着目した。音楽は、言語や認知機能の状態に左右されにくく、誰もが感覚的・情緒的に受け止められる共通の体験を提供できる媒体である。加えて、過去の記憶や感情を呼び起こす力があることから、認知症高齢者においても情緒の安定や行動・心理症状(BPSD)の緩和につながることが報告されている(高田・岩永,2007)。音楽を媒介とする活動は、単なる娯楽に留まらず、利用者同士の交流を生み出し、関係性を構築する場にもなる。作業療法における「意味ある場所」の創出という視点からも意義があり、施設生活の質向上に向けた重要な介入と考えた。本研究では、音楽活動が入所者の関係性や生活に与える影響、その中で小さなコミュニティが形成される過程を明らかにすることを目的とした。
目的
音楽活動を通じた利用者間の交流や関係性の変化に注目し、小さなコミュニティが形成され、「意味ある場所」が創出されていく過程を明らかにすることを目的とした。
方法
介護老人保健施設に入所している15名の高齢者(平均年齢87±17歳、要介護度2.4、HDS-R21±6点)を対象とした。2025年2月から6月までの4か月間、週2回・各30分の音楽活動を実施した。活動では昭和歌謡や童謡など利用者にとって馴染みのある楽曲4~5曲を選び、歌詞カードを用いながら参加型で進行した。活動中は表情や発話、参加姿勢、利用者同士の交流状況、活動中および前後の役割行動、小さな変化などを観察し、職員が詳細に記録した。活動外での交流や行動の変化についても併せて観察した。記録データは質的に分析し、音楽活動が利用者の関係性や生活に与える影響について検討した。
結果
活動を継続する中で、以下のような変化が確認された。1)音楽や活動に関する話題が利用者同士の間で自然に生まれた。2)活動のない日にも「次はいつ?」といった楽しみにする発言が見られた。3)活動の場が「みんなで集まり楽しむ場」として認識され、活動外での交流も活発になった。4)歌詞カードの準備や声かけなど、小さな役割を自発的に担う利用者が現れた。5)活動開始前に自然と集合する姿が定着した。6)活動を軸とした生活リズムの安定が見られる利用者もいた。7) 歌詞やメロディーが過去の記憶を呼び起こし、自身の思い出話を語る場面も増えた。8)活動外でも「〇〇さんと一緒に歌った」と話題に出すなど、関係性の継続が確認できた。これらの変化は、利用者同士の関係性の構築、自信や役割意識の回復、小さなコミュニティの形成につながったと考えられる。
考察
音楽活動は、共通の体験を生み出すことで利用者同士の関係性を育むとともに、「誰かと関わることの安心感」「人と共にいる心地よさ」を提供していた。活動の場が「安心して関われる場所」として認識されることで、作業療法における「意味ある場所」が創出されていたことが確認できた。音楽は情緒安定やBPSD緩和といった心理的効果だけでなく、生活リズムや役割行動にも好影響を及ぼしていた。とくに、音楽が過去の経験や記憶を呼び起こすことで利用者同士の会話が弾み、相手を「知っている人」として認識するきっかけになったことは、コミュニティ形成における重要な要素であると考える。また、活動を重ねる中で自発的に役割を担う姿や、活動自体を楽しみにする発言が増加したことから、音楽活動は「自分も参加できる」「役に立てる」という感覚、すなわち自己効力感を支える介入であったといえる。これらの結果は、高田・岩永(2007)の報告と一致し、音楽活動が認知症高齢者にも有効な心理・社会的介入となることが示唆された。
今後の課題
本研究では観察記録に基づく分析が中心であったが、今後は関係図や活動参加意欲のスケール、QOL評価尺度などを用いた客観的かつ多面的な評価手法の導入が課題である。また、多職種連携による支援体制を整え、音楽活動を日常生活の一部として根づかせることも重要である。活動を「また参加したい」「仲間と関わりたい」という気持ちにつなげ、利用者自身が希望を持ち続けられるよう支援を継続する必要がある。さらに、活動で得られる達成感や充実感が新たな意欲を生み、次の作業へとつながるような関わりを重ねていくことが重要である。こうした作業の積み重ねが利用者の人生に意味や希望を見い出すきっかけとなり、新たな作業を生み出すきっかけとしていきたい。
結論
音楽活動は認知症高齢者にも情緒の安定やBPSD緩和、自己効力感の向上、生活リズムの安定、コミュニティ形成など多面的な効果を示した。共通の体験を通じた小さなコミュニティが「意味ある場所」として機能していたことが確認され、音楽活動は作業療法的介入として有効であり補完代替医療としての可能性も示唆された。今後は体系的な評価と多職種連携のもと、音楽活動を施設生活に自然に根づく支援として定着させることが求められる。
引用
老健における音楽療法に関する研究第18報 ~個別音楽療法で意思疎通が図れた脳幹出血後遺症の1例~日本補完代替医療学会誌 第11巻 第1号2014年3月:49:
補完代替医療としての音楽療法が認知症に及ぼす効果
介護老人保健施設では、身体機能の維持や安全確保が優先される一方で、生活の質(QOL)や「その人らしい暮らし」を支援する取り組みは後回しにされやすいという課題がある。施設での生活は画一的になりやすく、利用者がどのように日々を楽しみ、生きがいを感じながら過ごしているのかという視点は軽視されがちである。筆者は日常業務の中で、「利用者は本当に自然に生活できているのか」「日々の中に楽しみにできる何かが存在しているのか」という疑問を抱き、音楽という活動に着目した。音楽は、言語や認知機能の状態に左右されにくく、誰もが感覚的・情緒的に受け止められる共通の体験を提供できる媒体である。加えて、過去の記憶や感情を呼び起こす力があることから、認知症高齢者においても情緒の安定や行動・心理症状(BPSD)の緩和につながることが報告されている(高田・岩永,2007)。音楽を媒介とする活動は、単なる娯楽に留まらず、利用者同士の交流を生み出し、関係性を構築する場にもなる。作業療法における「意味ある場所」の創出という視点からも意義があり、施設生活の質向上に向けた重要な介入と考えた。本研究では、音楽活動が入所者の関係性や生活に与える影響、その中で小さなコミュニティが形成される過程を明らかにすることを目的とした。
目的
音楽活動を通じた利用者間の交流や関係性の変化に注目し、小さなコミュニティが形成され、「意味ある場所」が創出されていく過程を明らかにすることを目的とした。
方法
介護老人保健施設に入所している15名の高齢者(平均年齢87±17歳、要介護度2.4、HDS-R21±6点)を対象とした。2025年2月から6月までの4か月間、週2回・各30分の音楽活動を実施した。活動では昭和歌謡や童謡など利用者にとって馴染みのある楽曲4~5曲を選び、歌詞カードを用いながら参加型で進行した。活動中は表情や発話、参加姿勢、利用者同士の交流状況、活動中および前後の役割行動、小さな変化などを観察し、職員が詳細に記録した。活動外での交流や行動の変化についても併せて観察した。記録データは質的に分析し、音楽活動が利用者の関係性や生活に与える影響について検討した。
結果
活動を継続する中で、以下のような変化が確認された。1)音楽や活動に関する話題が利用者同士の間で自然に生まれた。2)活動のない日にも「次はいつ?」といった楽しみにする発言が見られた。3)活動の場が「みんなで集まり楽しむ場」として認識され、活動外での交流も活発になった。4)歌詞カードの準備や声かけなど、小さな役割を自発的に担う利用者が現れた。5)活動開始前に自然と集合する姿が定着した。6)活動を軸とした生活リズムの安定が見られる利用者もいた。7) 歌詞やメロディーが過去の記憶を呼び起こし、自身の思い出話を語る場面も増えた。8)活動外でも「〇〇さんと一緒に歌った」と話題に出すなど、関係性の継続が確認できた。これらの変化は、利用者同士の関係性の構築、自信や役割意識の回復、小さなコミュニティの形成につながったと考えられる。
考察
音楽活動は、共通の体験を生み出すことで利用者同士の関係性を育むとともに、「誰かと関わることの安心感」「人と共にいる心地よさ」を提供していた。活動の場が「安心して関われる場所」として認識されることで、作業療法における「意味ある場所」が創出されていたことが確認できた。音楽は情緒安定やBPSD緩和といった心理的効果だけでなく、生活リズムや役割行動にも好影響を及ぼしていた。とくに、音楽が過去の経験や記憶を呼び起こすことで利用者同士の会話が弾み、相手を「知っている人」として認識するきっかけになったことは、コミュニティ形成における重要な要素であると考える。また、活動を重ねる中で自発的に役割を担う姿や、活動自体を楽しみにする発言が増加したことから、音楽活動は「自分も参加できる」「役に立てる」という感覚、すなわち自己効力感を支える介入であったといえる。これらの結果は、高田・岩永(2007)の報告と一致し、音楽活動が認知症高齢者にも有効な心理・社会的介入となることが示唆された。
今後の課題
本研究では観察記録に基づく分析が中心であったが、今後は関係図や活動参加意欲のスケール、QOL評価尺度などを用いた客観的かつ多面的な評価手法の導入が課題である。また、多職種連携による支援体制を整え、音楽活動を日常生活の一部として根づかせることも重要である。活動を「また参加したい」「仲間と関わりたい」という気持ちにつなげ、利用者自身が希望を持ち続けられるよう支援を継続する必要がある。さらに、活動で得られる達成感や充実感が新たな意欲を生み、次の作業へとつながるような関わりを重ねていくことが重要である。こうした作業の積み重ねが利用者の人生に意味や希望を見い出すきっかけとなり、新たな作業を生み出すきっかけとしていきたい。
結論
音楽活動は認知症高齢者にも情緒の安定やBPSD緩和、自己効力感の向上、生活リズムの安定、コミュニティ形成など多面的な効果を示した。共通の体験を通じた小さなコミュニティが「意味ある場所」として機能していたことが確認され、音楽活動は作業療法的介入として有効であり補完代替医療としての可能性も示唆された。今後は体系的な評価と多職種連携のもと、音楽活動を施設生活に自然に根づく支援として定着させることが求められる。
引用
老健における音楽療法に関する研究第18報 ~個別音楽療法で意思疎通が図れた脳幹出血後遺症の1例~日本補完代替医療学会誌 第11巻 第1号2014年3月:49:
補完代替医療としての音楽療法が認知症に及ぼす効果
