講演情報
[28-P-AH02-01]自分で決めて続けよう Let’s Walking Time
奈良県 ○安藤 采奈1, 鼓 太志1, 出田 めぐみ2, 鼓 美紀2 (1.介護老人保健施設 てんとう虫, 2.大和大学白鳳短期大学部)
【はじめに】
当施設の通所リハビリテーション(以下.通所リハ)は、「主体的になることで生きている実感を取り戻すこと」を支援の目的にあげている。その1つが通所リハでの過ごし方を自由に決めることである。利用者は、利用開始時からレクリエーションやカラオケ、足湯などの活動を体験しながら、自分の過ごし方を模索する。リハビリも担当者と相談しながら目標に合ったメニューを選ぶ。開始から1ヶ月間くらい経つと、行いたい活動が決まる。数か月経つとほとんどの利用者が、その日の体調や他の利用者の様子(活動の混雑具合など)を見ながら、その日の過ごし方を決め、リラックスして過ごせるようになる。
一方で、帰宅前には大方の活動を終え、時間を持て余し、デイルームに座って過ごす利用者が多くなっていた。この時間を有効活用し、楽しめる時間にしたいと考え、約30分間の集団歩行訓練(以下. Walking Time)を理学/作業療法士(以下.リハ職員)から提案した。数か月間は、選ばれる活動なるような試みを重ねた。その結果、Walking Timeが活動の1つとして定着し、今では利用者にとって大切な時間となったので紹介する。
【Walking Timeの概要と楽しむための試み】
(1)環境の設定
当施設はデイルームを出て廊下を一周できる作りで、その廊下に沿ってトイレ・浴室・リハビリ室が配置されている。廊下の幅は27cm、1周が約50mであったため、目安(50m)となる部分のカーペットを目立つ色(赤色)に張り替えた。廊下を可能な限り広く使うために、Walking Time中は廊下のソファやゴミ箱を移動させた。また、利用者同士がすれ違うことが無いように一方通行で歩くようにした。
(2)活動定着に向けた取り組み
1)BGMの工夫
やや早歩きのリズムになるようにBPM(Beats Per Minute)120前後の曲で、どこかで耳にしたことがある有名な洋楽をBGMとした。洋楽を選曲したのは、利用者の知っている曲にすると曲に注意が向きすぎ、歩行が疎かになり、転倒リスクが上がる可能性を考慮したためである。
2)目標設定と歩行距離の記録
主体的な活動にするため利用者一人ずつに生活目標を設定してもらった。それに見合った歩行距離の目標を決め、目標と毎回の歩行距離を記入する自分用の冊子を作成した。日々の記録は利用者が書き込めるよう工夫した。まず、スタート地点に職員が立ち、利用者に手に通せる大きさの輪を1周に1本ずつ手渡す。利用者は終了後、手に入れた輪の数を数え、距離に換算し記録する。自分で記録することで積み重ねを視覚化でき、意欲が出る。目標が達成できると特製の缶バッチやキーホルダーをプレゼントした。また、利用者全体の前で表彰式を行うことで特別感と価値を生み出した。
「大勢での歩行が不安」「コツコツ取り組みたい」などの相談があり、施設でのすべての歩行を加算できることにした。リハ職員と一緒にする歩行訓練も距離に加算できるようにしたことで、歩行が不安定であっても無理なく参加できるようになった。
3)イベントの開催
期間限定のイベントとして、観光名所までの仮想旅行を設定した。施設からの経路を貼り出し、参加者全員の歩行距離を合計し、どこまで到達したか、地図上に明示した。期間内に到着できた場合は、目的地のご当地お菓子をおやつとして提供した。
(3)リスク管理
大勢が歩くことのリスクに転倒事故があげられる。リスクを減らすためにリハ職員が利用者の身体的・認知的な能力を評価し、安全な歩行手段や介助方法などを介護職員と相談・共有した。例えば、歩行に不安がある場合には、『見守りの有無や介助方法を指導する』、『歩行人数が減るタイミングで声掛けする』などの対応を行った。
【結果】
当初は参加を促す声掛けが必要であったが、1ヶ月も経つと多くの利用者が自らWalkingを開始した。「今日はまだ始まりませんか?」と職員への質問が上がるなど、意欲的な様子がみられた。さらに、顔見知りの利用者に「歩きに行こう」と声を掛け合う、「みんなが歩くなら私も頑張ろう」という声が聞かれるなど、交流の場にもなっている。また、隙間時間に自主トレーニングとして廊下を歩行する利用者もおり、廊下が通路だけでなく、自分が行いたい時に歩行訓練できる場へと変わった。
介助する職員にも変化がみられている。転倒リスクなどから実施に前向きではない意見もあったが、現在では利用者に付き添うことで個別に関わる時間が持て、貴重なコミュニケーションの機会になって嬉しいと発展的な声が出ている。
【考察】
Walking Timeは帰宅までの時間を有効活用する取り組みとして始めたものであったが、現在では利用者の目標達成のための活動として大きな役割を持つようになった。利用者にとって歩行訓練はリハ職員と一緒にするものという意識が強いためか、自主的に廊下を歩く利用者はほぼいなかった。Walking Timeは、どれくらいの距離や時間を歩くのかなど、全て利用者に決定権があることで自由度が高く、参加のハードルが下がる。多くの人の歩く様子を見て「やってみようかな?」という気持ちが生まれる。目標を自分で決めることで「できる」という自信が持てる。そして、「廊下を歩くこと」がやりたい活動の1つになっていった。また、歩いた距離を自分で記録することで「次はもう少し長く歩こう」「今日も前回と同じ距離を歩きたい」と次の目標設定に発展し、達成感につながる。それらが、主体性を引き出し、活動が楽しみになり、時間を問わず歩く利用者が増えたと考える。年を重ねるにつれて日常生活の制限は増えていく。Walking Timeはほんの30分の取り組みであるが、自己決定の幅を広げることで、自分で選択するという主体性を実感できる機会となる。それは、高齢者の「生きる」を支えること、人としての「尊厳を守ること」に繋がると考える。
当施設の通所リハビリテーション(以下.通所リハ)は、「主体的になることで生きている実感を取り戻すこと」を支援の目的にあげている。その1つが通所リハでの過ごし方を自由に決めることである。利用者は、利用開始時からレクリエーションやカラオケ、足湯などの活動を体験しながら、自分の過ごし方を模索する。リハビリも担当者と相談しながら目標に合ったメニューを選ぶ。開始から1ヶ月間くらい経つと、行いたい活動が決まる。数か月経つとほとんどの利用者が、その日の体調や他の利用者の様子(活動の混雑具合など)を見ながら、その日の過ごし方を決め、リラックスして過ごせるようになる。
一方で、帰宅前には大方の活動を終え、時間を持て余し、デイルームに座って過ごす利用者が多くなっていた。この時間を有効活用し、楽しめる時間にしたいと考え、約30分間の集団歩行訓練(以下. Walking Time)を理学/作業療法士(以下.リハ職員)から提案した。数か月間は、選ばれる活動なるような試みを重ねた。その結果、Walking Timeが活動の1つとして定着し、今では利用者にとって大切な時間となったので紹介する。
【Walking Timeの概要と楽しむための試み】
(1)環境の設定
当施設はデイルームを出て廊下を一周できる作りで、その廊下に沿ってトイレ・浴室・リハビリ室が配置されている。廊下の幅は27cm、1周が約50mであったため、目安(50m)となる部分のカーペットを目立つ色(赤色)に張り替えた。廊下を可能な限り広く使うために、Walking Time中は廊下のソファやゴミ箱を移動させた。また、利用者同士がすれ違うことが無いように一方通行で歩くようにした。
(2)活動定着に向けた取り組み
1)BGMの工夫
やや早歩きのリズムになるようにBPM(Beats Per Minute)120前後の曲で、どこかで耳にしたことがある有名な洋楽をBGMとした。洋楽を選曲したのは、利用者の知っている曲にすると曲に注意が向きすぎ、歩行が疎かになり、転倒リスクが上がる可能性を考慮したためである。
2)目標設定と歩行距離の記録
主体的な活動にするため利用者一人ずつに生活目標を設定してもらった。それに見合った歩行距離の目標を決め、目標と毎回の歩行距離を記入する自分用の冊子を作成した。日々の記録は利用者が書き込めるよう工夫した。まず、スタート地点に職員が立ち、利用者に手に通せる大きさの輪を1周に1本ずつ手渡す。利用者は終了後、手に入れた輪の数を数え、距離に換算し記録する。自分で記録することで積み重ねを視覚化でき、意欲が出る。目標が達成できると特製の缶バッチやキーホルダーをプレゼントした。また、利用者全体の前で表彰式を行うことで特別感と価値を生み出した。
「大勢での歩行が不安」「コツコツ取り組みたい」などの相談があり、施設でのすべての歩行を加算できることにした。リハ職員と一緒にする歩行訓練も距離に加算できるようにしたことで、歩行が不安定であっても無理なく参加できるようになった。
3)イベントの開催
期間限定のイベントとして、観光名所までの仮想旅行を設定した。施設からの経路を貼り出し、参加者全員の歩行距離を合計し、どこまで到達したか、地図上に明示した。期間内に到着できた場合は、目的地のご当地お菓子をおやつとして提供した。
(3)リスク管理
大勢が歩くことのリスクに転倒事故があげられる。リスクを減らすためにリハ職員が利用者の身体的・認知的な能力を評価し、安全な歩行手段や介助方法などを介護職員と相談・共有した。例えば、歩行に不安がある場合には、『見守りの有無や介助方法を指導する』、『歩行人数が減るタイミングで声掛けする』などの対応を行った。
【結果】
当初は参加を促す声掛けが必要であったが、1ヶ月も経つと多くの利用者が自らWalkingを開始した。「今日はまだ始まりませんか?」と職員への質問が上がるなど、意欲的な様子がみられた。さらに、顔見知りの利用者に「歩きに行こう」と声を掛け合う、「みんなが歩くなら私も頑張ろう」という声が聞かれるなど、交流の場にもなっている。また、隙間時間に自主トレーニングとして廊下を歩行する利用者もおり、廊下が通路だけでなく、自分が行いたい時に歩行訓練できる場へと変わった。
介助する職員にも変化がみられている。転倒リスクなどから実施に前向きではない意見もあったが、現在では利用者に付き添うことで個別に関わる時間が持て、貴重なコミュニケーションの機会になって嬉しいと発展的な声が出ている。
【考察】
Walking Timeは帰宅までの時間を有効活用する取り組みとして始めたものであったが、現在では利用者の目標達成のための活動として大きな役割を持つようになった。利用者にとって歩行訓練はリハ職員と一緒にするものという意識が強いためか、自主的に廊下を歩く利用者はほぼいなかった。Walking Timeは、どれくらいの距離や時間を歩くのかなど、全て利用者に決定権があることで自由度が高く、参加のハードルが下がる。多くの人の歩く様子を見て「やってみようかな?」という気持ちが生まれる。目標を自分で決めることで「できる」という自信が持てる。そして、「廊下を歩くこと」がやりたい活動の1つになっていった。また、歩いた距離を自分で記録することで「次はもう少し長く歩こう」「今日も前回と同じ距離を歩きたい」と次の目標設定に発展し、達成感につながる。それらが、主体性を引き出し、活動が楽しみになり、時間を問わず歩く利用者が増えたと考える。年を重ねるにつれて日常生活の制限は増えていく。Walking Timeはほんの30分の取り組みであるが、自己決定の幅を広げることで、自分で選択するという主体性を実感できる機会となる。それは、高齢者の「生きる」を支えること、人としての「尊厳を守ること」に繋がると考える。
