講演情報

[28-P-AH02-04]A施設における排便調整の低減に向けた取り組み~日々のレクリエーションに排便体操を取り入れて~

山口県 宗貞 健一, 白石 智子, 美奈 恵, 鈴木 章恵 (社会医療法人松涛会 老人保健施設コスモス)
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【はじめに】
 当施設における1日の浣腸やレシカルボン座薬による排便調整件数は3~10件であり、自然排便は少ない状況であった。三好は「そもそも下剤、浣腸と言うものは化学物質の力で直腸を異常収縮させるという非生理的な排泄方法です。つまり使えば使うほど生理的な排便方法から遠ざかっていくことになります。」と述べている。浣腸やレシカルボン座薬による排便処置が常習化することで生理的な排便方法から遠ざかり、排泄のQOLの低下を招くことになる。便秘ケアのひとつに運動することで腸の蠕動運動の促進があげられるが、このたび耐久力が低下したのに高齢者でも実施可能な排便体操に着目し、実施した結果、複数の事例において効果を認めたため、ここに報告する。
【目的】
 排便体操により、排便調整実施率を低減させることができる
【方法】
1.研究期間
 2024年5月16日~2024年9月30日 そのうち
 排便体操実施前(以下、体操前と略す):2024年5月16日~7月15日
 排便体操実施後(以下、体操後と略す):2024年7月16日~9月30日
2.研究対象
 上記期間内で、飲水量1日平均1000cc、毎食の食事摂取量9~10割かつ日常生活自立度B以上で排便調整を
実施している入所者10名
3.研究方法
 対象者の排便体操前の排便調整の件数を看護介護記録より調査する。毎日午前中に座位プログラムによる排便体操を実施し、その後の排便調整件数を調査する。対象者それぞれの排便調整実施率を算出する。対応のあるT検定により有意確率p値を算出後、有意水準5%もしくは1%に対して有意差があるかどうかを統計学的に処理する。また、排便体操の座位プログラムそれぞれの5項目に対して、排便体操実施後の排便調整実施率への影響度を見るために、回帰分析により有意水準5%もしくは1%に対して有意差があるかどうかを統計学的に処理する。排便体操の座位プログラム内容は、1)腹式呼吸10回 2)「の」の字マッサージ10回 「J」の字マッサージ10回 3)上体を左右に20往復動かす 4)正面を向き背筋を伸ばして体を左右に5往復 5)座位で足上げを左右交互に10回ずつ(足をあげたまま3秒キープする)2)の5項目である。
(用語の定義)
・排便調整実施率(%):研究期間における排便調整件数の割合
【倫理的配慮】
 説明文書を用いて同意書を作成し、同意書に本人またはご家族の署名をいただくことで同意を得る。研究同意書をいただいたことにより研究内容への了承があったものとみなした。また、医学的視点において、排便体操実施可能かどうかを医師にコンサルトする。研究倫理審査は当施設協力医療機関の倫理委員会の承認を得た。
【結果】
 対象者10人の排便調整実施率の前後を対応のあるT検定として有意確率p値を算出すると、0.006<0.01(n=10)であり、有意水準1%において排便体操前後の排便調整実施率で有意差があった。しかし、その中でF氏とG氏については、体操後の排便調整実施率の低減は見られなかった。排便体操5項目それぞれと排便調整実施率の回帰分析の結果、項目1)p=0.013<0.05、項目2)p=0.075>0.05、項目3) p=0.079>0.05、項目4) p=0.572>0.05、項目5) p=0.713>0.05(いずれもn=10)であり、項目1)のみ有意差があった。
【考察】
 排便体操項目の実施率に個人差はあったが、排便体操座位プログラム介入前後の排便調整実施率は有意差を認めたため、排便体操を継続して行うことで、排便調整件数を低減させる一定の効果があったと考える。後閑は「身体運動は腸内容物を移動させることで結腸を刺激して便意を生じさせる。しかし、高齢になると運動量が減り、かつ動作も緩慢になるので、結腸への刺激が減少し、便意が生じにくくなる。」と述べている。体操後の排便調整実施率の低減が認められなかったF氏とG氏の共通要因は、有意差のあった項目1)の腹式呼吸による人為的に腸をゆさぶり刺激することが不十分による排便困難が考えられる。項目2)について有意差はなかったため、今回の「の」の字や「J」の字マッサージの実施率の低さが排便調整実施率の低減につながったとは必ずしも言えない。しかし、マッサージを十分にできなかったことは腸内容物の移動を促進できず、排便調整実施率を低減できなかった一因にはなると考える。項目3)についても有意差はなかったため、上体を左右に動かす運動の実施率の低さが排便調整実施率の低減につながったとは必ずしも言えない。しかし、排便調整に関係する自律神経や体制神経の働きを高めることが不十分により排便を促進することができなかった何らかの影響はあったと考える。その反面、H氏のように全項目の実施率が低い傾向にあっても体操後の排便調整実施率を低減させる結果に至った要因は、項目1)以外に有意差はなかったものの、項目3)から5)までをある程度実施できたことは、自律神経や体制神経の働きを促進し、下腹部の筋力を強化することでいきむ動作もできているため、排便促進につながったと考える。高齢者の便秘の要因には、腸蠕動運動の低下、骨盤底筋群協調運動障害、直腸感覚の低下、運動量の減少、併存疾患、内服薬による影響、食事摂取量の低下などが挙げられるが、今回食事や水分量がほぼ等しい入所者を対象としているため、対象者のデータ件数は10件に限定された。排便体操の有効性をさらに検証するためには、食事、水分量が異なった事例や併存疾患等を視野に入れ、より多くの事例をとってデータの精度を向上させる必要がある。
【結論】
1.排便体操の実施率に個人差はあっても、継続して行うことで排便調整実施率を低減させる一定の効果があった。
2.腹式呼吸を行い、腸をゆさぶることは、排便調整実施率の低減に効果があった。
3.排便体操の有効性をさらに検証するため、より多くの事例をとってデータの精度を向上させる必要がある。