講演情報

[28-P-L001-04]麻痺手の使用に向け食事動作を通じ関りに配慮した症例

青森県 熊野 桂也, 島田 志帆 (介護老人保健施設はくじゅ)
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「はじめに」
本症例は、右橋出血による左片麻痺は残存するものの両手動作を獲得できる可能性を有していたが、食事動作時左手の使用が見られず、必要性を提示するも左手を使うことに難色を示していた。そこで、症例の性格や特性に配慮しながら介入した結果、食事動作での左手の使用が可能となった。この関わりを通じ、生活期リハにおいてその人らしく生活を続ける為の動機付けや主体性を高める支援方法について検討した為報告する。
「事例紹介」
症例は60歳代女性、慎重かつ心配性な性格。利き手は右利きである。X年Y月に右橋出血を発症し、左片麻痺を呈する。A病院で保存的治療後、Y+1ヵ月で回復期リハを目的にB病院へ転院。Y+7ヵ月で自宅退院し、その後、外来リハビリで機能訓練や調理訓練を実施して、Y+10ヵ月で当デイケアを利用開始となる。
専業主婦で家庭菜園と料理が趣味。夫と二人暮らしだが、夫の仕事の都合で数日の独居生活もある。
「作業療法評価」
認知機能はHDS-R 30点と問題なし。感覚機能は左右差なく正常である。Brunnstrom stageは上肢・手指・下肢いずれもステージ5である。左上肢の筋力はMMT3であった。また、左上肢の関節可動域は目立つ制限は見られない。起居動作は支持物を用いて自立、歩行は一本杖で自立している。
ADLは入浴時一部介助を要すが、更衣・整容・排泄は自立。
IADLでは買い物は夫と同行、掃除は自立、調理は左手使用し大概の野菜や魚は左手で抑え、切ることができるがイカを捌くことはできていない。他にも盛り付けや皿の持ち運びで時間を要していた。食事動作では左手の使用は見られず、実際に左手で皿を把持しても、掴み損ねたり、食事の間持続して保持することが困難であった。
本人は「左腕を使えるようにしたい」「調理は好きだから続けたい」と話された。
「介入の基本方針」
若年で発症後間もなく、左手は食事動作が可能な機能が残存している。今後、調理の複雑な動作にも繋がるように食事動作から左手の使用を提案し同意された。本人慎重な性格や関係構築の初期であることを踏まえ、機能向上に合わせできる動作から実生活に反映させていく。
「作業療法実施計画」
実施期間は5ヵ月、週2回一回40分の頻度とした。目標は食事全体を通じてご飯茶碗や小皿を左手で掴み損ねず把持できることとした。訓練では左上肢の過緊張を避けつつ茶碗の把持の反復訓練や左手での茶碗保持訓練など行っていく。
「介入経過」
介入初期
茶碗を把持・保持することは不安定ながらも訓練内で実施可能となり、「自宅でも取り組んでみてほしい」と伝えたが、反応が曖昧で実生活での実施には繋がらなかった。
介入中期
左手の使用状況について尋ねたところ「右手に慣れており、左手はスムーズでなく億劫」「やる前からできないと思ってしまう」と話された。そこで、実際の食事場面での困り事を聴取した。すると、「茶碗が熱くて緊張する」と訴えがあり、熱くない部分を持つ方法を指導した。また「持とうとすると力む」との訴えに対しては、視覚的な誘発を抑える為にタオルを活用したリーチ動作・把持訓練を追加した。さらに「長く持つと疲れる」との訴えには、疲れる前に中止し回復後に再実施するよう指導した。症例は訓練を見られながらでは緊張する様子もあった為、自主訓練を多く取り入れ、遠方から見守る関わりとした。そして、改めて自宅でも「毎食でなく行えそうな時に左手を使用する」よう声掛けを続けた。
介入後期
「毎日昼に持つようにしている」と自発的に報告があり、右手で茶碗を支えつつ、左手で掬い把持する動作が可能となっていた。
全量のご飯では食べきるまで持続困難な為、半量から開始するよう指導し、徐々に全量を盛った茶碗でも保持が可能となった。また、左手の使用頻度の増加に伴う筋緊張亢進に対して自主ストレッチを指導し、継続されるようになった。その後「どうすればもっと伸ばせるか」「左手も必要だね」と発言された。
「結果」
MMTは3と変化ないが毎食左手を使用し食べ終わるまでの保持が可能となった。さらに味噌汁以外の皿については過剰な筋緊張亢進が抑制され、右手を添え左手で掴み損ねることなく円滑に把持が可能となった。改善に伴い調理では左手で抑えられる野菜が増え、行えなかったイカを捌く料理も作れるようになった。
「考察」
本症例は若年であり、今後の実生活で調理動作を含め両手動作の機会が増えることを想定し左手の積極的な使用を提案した。しかし、機能制限と心配性な性格が相まって左手に使用に消極的であった。また、すでに右手の動作で定着している食事動作において、必要性の認識に乏しい左手の使用を促すことにも難渋した。まずは、症例の心理的負担や失敗体験を最小限に抑える為、安心して挑戦できる環境を設定し、皿の把持方法の工夫や具体的かつ柔軟な指示のもとできる動作から少しずつ実践した。これらの支援が、症例の自己決定感を高め主体的な行動変容や左手を使用する必要性の認識向上につながった。
そして、その変化は食事動作のみならず本人が望む調理動作にも波及した。これは、食事動作の中でできるようになった実感が動機づけとなり、調理という生活行為に繋がったと考えられる。
このように我々リハビリ専門職は生活期リハビリにおいてできる可能性のある生活動作を見逃さずに実生活に活かす働きかけを行うことが重要であり、その働きかけは、対象者の生活をより豊かな生活に変える為のきっかけづくりに成り得ることを常に意識して関わっていくべきだと考える。