講演情報

[28-P-L001-06]リハビリを妨げる『痛み』誤認へのアプローチ

兵庫県 村上 麻理子, 今津 麻衣, 松本 佳奈, 高田 惠美子, 東田 真弓, 真鍋 友花 (西脇市立老人保健施設しばざくら荘)
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【はじめに】
入所時から表情が硬く、身体活動や意欲低下を認め、動作時痛増強による恐怖心や不安から歩行訓練の実施が難しい症例を経験した。活動による疼痛増強を懸念し恐怖心に繋がっていることが普段の関わりから予測されたため、施設生活を穏やかに過ごしながら在宅復帰へ繋げられるよう、慢性疼痛に対してのアプローチに切り替えた。その結果、破局的思考やQOLの改善を認めたため、報告する。
【症例紹介】
80歳代女性、独居。誘因なく疼痛増強しX年Y月Z日に第2腰椎圧迫骨折、第2/3腰椎すべり症と診断され入院。既往に左変形性膝関節症を呈す。リハビリ目的でY+3ヶ月後に当施設へ入所。
【経過】
初期評価(Y+3ヶ月)では下肢筋力は股関節屈曲MMT3、その他MMT4。移乗や排泄動作は軽介助。荷重時に左膝周囲の疼痛増強あり、歩行訓練は平行棒を2~3歩前進するのがやっとの状態。「後が痛くなったら困る」「前の病院で歩行器で歩きよって痛くなったから怖い」等の発言があり、疼痛に対する恐怖心により活動性や意欲低下を認めた。
【再評価(Y+6ヶ月)】
左膝関節自体の腫脹や熱感がないにもかかわらず、約3ヶ月も疼痛が持続していることから慢性疼痛としてのアプローチが必要ではないかと考えた。質問紙評価では、破局的思考(pain Catastrophizing Scale:PCS 36/52)、恐怖回避思考(Tampa Scale for Kinesiophobia:TSK-J 43/68)が強く、不安や抑うつ(Hospital Anxiety and Depression Scale:HADS 不安6/21、抑うつ8/21)は抑うつ疑い。また、高齢者QOL(改訂版PGCモラールスケール:3/11)が低い傾向であった。下肢筋力は股関節屈曲MMT2、左足関節背屈MMT3と、活動性低下による筋力低下が考えられた。日常生活は施設内車椅子移動や排泄動作自立も、歩行は荷重時の左大腿遠位部~膝にかけての疼痛増強により平行棒内5歩前進できる程度で歩行訓練は進まなかった。
【問題点】
“運動すると痛みがひどくなる”という誤った認識による恐怖心や不安から活動を過剰に回避し、活動性や意欲低下を引き起こしている。
【取り組み】
痛みと身体所見には直接的な因果関係はなく、安静(不活動)は痛みを難治化させる要因となることを本症例が理解するよう促し、動くと痛みが悪化するという誤認を是正する必要があった。「歩いて腫れたらどうしよ」との発言が多く聞かれたため、両膝周径を測定し左膝が腫れていないことを説明した。腫れを感じるようであれば周径を測定し悪化がないか確認することを提案すると納得された。その後も「痛くなるのは怖い」等の発言は聞かれていたため、その際は可動域や筋力訓練の効果や目的を説明し、膝の腫脹なく経過していることも伝えた。頷きながら話を聞かれ、次第に他動運動に対しても拒否されることがなくなった。また、具体的な目標を自分自身で定めることにより運動の必要性をさらに理解しやすくなると考え、本症例の想いを傾聴しながら目標設定を行った。長期目標として、ベッド周囲の伝い歩きができ、タンスから着替えを用意できること。中期目標は手押し車歩行でトイレに行けること。短期目標はリハビリで歩行器または手押し車で約20m歩行ができることとした。合わせて、目標達成に向け筋力訓練や歩行訓練等を進めていくことを説明し理解を得た。目標設定を共有したことで平行棒内歩行から歩行器歩行訓練への移行が行え、自分の想いを自ら発言したり、会話中にも笑顔が増えた。徐々に他入所者と会話される機会も増え、リハビリに対して拒否されることもなくなった。
【最終評価(Y+9ヶ月)】
下肢筋力は股関節屈曲がMMT2から3へ向上したがその他は著変なく、下肢筋力低下は残存。歩行時の左大腿遠位部~膝にかけて突っ張るような痛みは変わらずあったが、両膝ともに腫脹や熱感を認めず歩行訓練が継続でき、約30mの歩行器歩行が軽介助~見守りで可能となった。質問紙評価では恐怖回避思考(TSK-J 41/68)は強いがやや軽減。不安や抑うつ(HADS 不安7/21、抑うつ7/21)は不安抑うつなし。破局的思考(PCS 29/52)は改善を認め、その中でも『痛みについて考えないようにすることはできないと思う』『どれほど痛むかということばかり考えてしまう』という反芻思考のサブスケールにおいて特に改善がみられた。また、高齢者QOL(改訂版PGCモラールスケール:5/11)がわずかに向上した。
【考察】
器質的変化を認めず疼痛が持続していたため質問紙票を用いて再評価を実施し、慢性疼痛としての関わりを行った。本症例は運動すると痛みがひどくなるという思い込みによる恐怖心が強く、不安や恐怖から活動を過剰に回避してしまい、活動性や意欲低下を引き起こし、廃用性の筋力低下にも繋がっていた。“身体を動かす=痛い”という誤った認識を修正しながら、自分の想いを表出できるような声掛けや傾聴を心掛け、疼痛に対する不安の訴えがあれば運動効果の説明や労いを行った。このような関わりを継続したことで、痛みに関連するストレスや不安の増大が緩和でき、破局的思考や恐怖回避思考を改善できたのではないかと考える。それにより筋力訓練や歩行訓練が継続でき、下肢筋力向上や歩行器歩行の介助量軽減を認め、離床時間や他入所者との関わりが増えたことでQOL向上にも繋げられたのではないかと考える。
【おわりに】
その後短期間の在宅復帰が決定し、見守り下で玄関の段差昇降と、歩行器歩行での寝室からトイレまでの往復が必要となった。歩行時の疼痛は変わらずあったものの、段差昇降訓練の追加を行ったが消極的な発言は聞かれず、訓練が継続できた。短期間の在宅復帰を終え「良かった」と話され、QOLが向上し笑顔が増えたことは私自身の励みにも繋がった。本症例以外にも長く痛みの訴えが聞かれる入所者もおられるため、慢性疼痛としての関わりも意識しながらその人がその人らしく穏やかに過ごせるような関わりを継続していきたい。