講演情報

[28-P-LGFEZ-02]3Dプリンター導入~運用までの課題解決の取り組み

福岡県 高山 勇真 (介護老人保健施設あやめの里)
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【はじめに】
近年、3Dプリンターの活用が医療・介護現場において広がりを見せており、個別ニーズに応じた福祉用具の迅速な提供が可能となってきている。介護老人保健施設においても、既製品では対応が難しい事例に対し、施設内で創作・修正が可能な3Dプリンターは大きな可能性を持つ。本取り組みでは、3Dプリンター導入時の課題や、既存の福祉用具では対応が困難だった利用者への支援を行った経過、そして将来の展望について報告する。
【取り組み内容と経過】
1.導入検討~導入期
導入前には「費用面」「耐久性」「故障時の対応」「保守点検方法」などへの不安から、導入までに時間を要した。研修会への参加を通じて、詳しい講師から助言を受けることで課題を整理し、対応策を得たことで購入に至った。
2.導入初期
導入後は、3Dプリンターの組み立てや操作に慣れるまで時間を要した。特に、印刷面の高さ調整やデータの変換方法の理解に時間がかかったが、研修会や動画サイトなどを活用しながら知識と技術の習得に努めた。3Dデータをインターネット上からダウンロードして利用できることを学び、ゼロから設計する必要がないことが分かり、運用へのハードルが下がった。
3.運用期
最初はダウンロードした3Dデータを使ってサンプル品を作成し、施設内で展示や紹介を行った。これをきっかけに、利用者やスタッフから「こういうものがほしい」といった相談が寄せられるようになった。実際の生活場面での困りごとをもとに、既存の3Dデータを加工したり、必要に応じて新しくデータを設計したりすることで、道具の作成と提供を行った。
【結果】
1年間で33種類・83個の道具を作成。そのうち24種類はダウンロードしたデータを利用し、9種類は新たに設計・作成したものであった。具体的な製作品を2例紹介する。
1例目:車椅子ブレーキ延長レバー
片麻痺のある利用者が使用する車椅子のブレーキは、左右同時に操作する特殊な構造であり、市販の延長レバーが適合しなかった。そのため、実物のサイズを測定し、参考データを基に円形タイプ・四角形タイプを作成。使用後に「角が当たって痛い」との意見があり、形状を丸く修正し再作成した。利用者の反応を元に改良を重ねることで、使いやすさを追求できた。最終的に自宅でも継続して使用する事が可能になり、「これがあると便利だね。手が届きやすい。」と利用者より言われる。
2例目:介護ベッド柵対応コップホルダー
「ベッドに座ってコップを置きたい」という相談を受け、L字型の介護用ベッド柵に取り付けられるホルダーを作成。市販品では対応できなかったため、柵のサイズを測定し、結束バンドで固定できる形状に設計。安全性のために角は紙やすりで削った。椅子に座って水分摂取できることを想定し、体幹や認知機能が安定している方を対象に説明した。使用者からは「自宅でも使いたい」、スタッフからは「飲みやすくなって満足されている」との声が聞かれた。
【考察】
3Dプリンターの活用は、個別のニーズに応じた道具の作成を可能にし、利用者の生活の質(QOL)の向上に寄与した。導入初期には機器操作やデータ作成への不安もあったが、研修会や動画教材を通じて知識を得ることで、誰でも取り組みやすい環境が整った。特に、既に公開されている3Dデータを活用することで、ゼロから設計する負担を軽減でき、より短時間で作成に取りかかることができた。また、現場からの声を反映して改良を重ねるプロセスは、創造的な支援の実現に繋がった。
【今後の展望】
今後は、実際に使用した利用者へのアンケート調査を行い、QOLの変化や日常生活での効果を数値化して評価する仕組みを検討している。また、現場で困っていることや必要とされる道具のニーズを把握するために、簡単な質問紙を用いた情報収集も計画している。さらに、SNSなどを活用して実践例や設計方法の情報を発信し、他施設・病院からの相談にも応えられる体制を整えていきたいと考えている。