講演情報
[28-P-LGFEZ-03]面談により歌う喜びを取り戻したパーキンソン病の事例
山口県 ○岩崎 絵美, 井手 真奈未 (老人保健施設はくあい)
【はじめに】
防府市におけるC型とは、事業対象者と要支援者を対象に、疾病等で生活機能が低下した高齢者が、動機づけ面談でリハビリ職と利用者が毎週、日々を振り返り話し合う事で、利用者が自身の可能性に気づき、元の生活を取り戻すための暮らしを知り、意欲的に自分で自分を管理できることを支援するサービスである。1)今回、歌うことに自信を無くした女性に面談を実施した。強い葛藤を抱えていた本人が、なぜ行動変容に至ったのか考察を交えて報告する。
【事例紹介】
70代女性。要支援2。障害高齢者の自立度はJ2、認知症高齢者の日常生活自立度は自立。17年前にPDと診断される。内服自己管理。ON・OFFがあり、OFF時の頻度が増えている。声量の低下により電話や会話場面で伝わりにくいことが増え、更に甲状腺腫手術の後遺症により高い声が出なくなった。家族でカラオケするほど歌が好きだったが、下手と言われ歌えなくなってしまった。現在は元夫と同居中。口喧嘩が多く、元夫の言葉にストレスを感じる事が多かった。
【方法】
12回の通所プログラム(週1回2時間程度)を行う。C型では対象者の意欲や能力を向上させ、セルフマネジメントを可能するために、セルフマネジメントシート用いた動機づけ面談を中心にサービスを提供した。
【経過】
初回評価時の発話明瞭度は2.5。声質の異常(気息性嗄声)、抑揚の単調さ、声量の低下がみられた。最長発声持続時間は15秒。元夫から言葉が聞こえないと言われることが増え、更に65歳で行った甲状腺腫手術の後遺症により声域が狭まり、好きだった歌を人前で歌えなくなった。しかしそれでも歌いたい、大きな声を出したいと希望もあり、発声練習、歌唱などの練習を提案した。1週間後振り返りを行うと「何を歌えばいいか考えるだけで終わった。歌から離れて考えないようにしたら楽になった。」と記載され、提案した課題は実施していなかった。介入~5週目目まで「下手で夫に馬鹿にされる。歌はダメだ。」という記載や発言が多かった。歌が辛いなら1度歌から離れて、言葉をはっきり話す練習をしてみるのはどうかと提案した。しかし6週目には再度歌はダメだと記入されており、本人にとって歌とは何かと質問した。「歌は楽しいもの。そういえば従妹がカラオケに誘ってくれた。下手でも皆楽しく歌うって。」と笑顔で話された。7週目から本人は初めて課題の発声練習を開始し、「近所のカラオケしている音に合わせて歌ってみた。」、「電話で友人との会話もしやすくなった。」と前向きな発言もみられた。8週目には練習回数も増え「滑らかに声が出る」と記載され始め、最長発声持続時間は19秒、発話明瞭度1.5と改善がみられた。そこで歌に対する抵抗感が和らいだと判断し、C型参加者で3曲ほど歌わないかと誘うとすぐに了承し、童謡、歌謡曲を歌うことができた。その日の記載は「最後に歌で終わるのもいいね」であった。それからは「歌が楽しくなってきた。」「気が付いたら草抜きの途中で歌を口ずさんでいた」など前向きな記載が増えていった。終了間近に本人は「最初はどうにでもなれと思っていた。私は考え方が変わった。こんなに話しを聞いてくれて私のために言ってくれている。夫に対しても私のためを思ってくれていると思うようになった。」と話すようになっていた。終了間際には元夫とは良好な関係になり、最近は歌う事に協力的な様子である。
【結果】
発話明瞭度は1.5、最長発声持続時間は20秒となり、環境音に影響されることもあるがほぼ聞き返しなく会話が可能となった。最終週のマネジメントシートには「友人と楽しく話した、タクシーの運転手と話が盛り上がった」と記載されていた。今後については歌が行えるサロンに意欲を示し、住民主体の通いの場にも参加予定である。元夫に対しては一緒に誕生日を祝うなど、共に過ごす時間に喜びを感じるようになった。
【考察】
1~5週目面談時、本人は歌おうと行動するも「夫から馬鹿にされる」などの発言が多く、「歌いたい、でも下手だから歌いたくない。」という葛藤を抱いていた。言語聴覚士の介入後、練習方法を提案するも必要な行動を選べない状況が続き、歌の事を考えなければ楽という状態に陥った。それでも「やらないと」と継続の意思があり、内的動機を引き出すために「(本人にとって)歌とは何か」と質問した。ここで「下手でも楽しく歌えればいい」と答えたことから、初めて変化への可能性に気付くための支援が行えたのではないかと推測する。この出来事が行動変容につながり、本人は7週目から発声練習を開始、練習量も増えていった。マネジメントシートには前向きな記載が増え、更に面談で振り返ることで、意欲の維持、強化に務めた。結果、発声機能、発話明瞭度も改善、集団での歌唱でも楽しく歌えたという成功体験を積み重ね、自己効力感を高めることができた。そして、歌については家事をしながら歌うといった気分転換になり、更に上手くなるため練習を続けると意欲的であった。また本人の行動変容は、夫と誕生日を一緒に祝うといった家庭内の役割、友人との交流という参加にもつながった。行動変容に至るまで6週という時間を要したが、「歌いたいけど下手だから歌いたくない」という葛藤に苦しんだ本人にとって、必要な事は改善への情報提供のみではなかった。日々を振り返り、話し合うことで変わりたいという思いを自ら引き出す事であったと考察する。
《引用文献》
1)辻哲夫・飯島勝矢・服部真治.地域で取り組む高齢者のフレイル予防,中央法規出版株式会社,2021,p.74.
防府市におけるC型とは、事業対象者と要支援者を対象に、疾病等で生活機能が低下した高齢者が、動機づけ面談でリハビリ職と利用者が毎週、日々を振り返り話し合う事で、利用者が自身の可能性に気づき、元の生活を取り戻すための暮らしを知り、意欲的に自分で自分を管理できることを支援するサービスである。1)今回、歌うことに自信を無くした女性に面談を実施した。強い葛藤を抱えていた本人が、なぜ行動変容に至ったのか考察を交えて報告する。
【事例紹介】
70代女性。要支援2。障害高齢者の自立度はJ2、認知症高齢者の日常生活自立度は自立。17年前にPDと診断される。内服自己管理。ON・OFFがあり、OFF時の頻度が増えている。声量の低下により電話や会話場面で伝わりにくいことが増え、更に甲状腺腫手術の後遺症により高い声が出なくなった。家族でカラオケするほど歌が好きだったが、下手と言われ歌えなくなってしまった。現在は元夫と同居中。口喧嘩が多く、元夫の言葉にストレスを感じる事が多かった。
【方法】
12回の通所プログラム(週1回2時間程度)を行う。C型では対象者の意欲や能力を向上させ、セルフマネジメントを可能するために、セルフマネジメントシート用いた動機づけ面談を中心にサービスを提供した。
【経過】
初回評価時の発話明瞭度は2.5。声質の異常(気息性嗄声)、抑揚の単調さ、声量の低下がみられた。最長発声持続時間は15秒。元夫から言葉が聞こえないと言われることが増え、更に65歳で行った甲状腺腫手術の後遺症により声域が狭まり、好きだった歌を人前で歌えなくなった。しかしそれでも歌いたい、大きな声を出したいと希望もあり、発声練習、歌唱などの練習を提案した。1週間後振り返りを行うと「何を歌えばいいか考えるだけで終わった。歌から離れて考えないようにしたら楽になった。」と記載され、提案した課題は実施していなかった。介入~5週目目まで「下手で夫に馬鹿にされる。歌はダメだ。」という記載や発言が多かった。歌が辛いなら1度歌から離れて、言葉をはっきり話す練習をしてみるのはどうかと提案した。しかし6週目には再度歌はダメだと記入されており、本人にとって歌とは何かと質問した。「歌は楽しいもの。そういえば従妹がカラオケに誘ってくれた。下手でも皆楽しく歌うって。」と笑顔で話された。7週目から本人は初めて課題の発声練習を開始し、「近所のカラオケしている音に合わせて歌ってみた。」、「電話で友人との会話もしやすくなった。」と前向きな発言もみられた。8週目には練習回数も増え「滑らかに声が出る」と記載され始め、最長発声持続時間は19秒、発話明瞭度1.5と改善がみられた。そこで歌に対する抵抗感が和らいだと判断し、C型参加者で3曲ほど歌わないかと誘うとすぐに了承し、童謡、歌謡曲を歌うことができた。その日の記載は「最後に歌で終わるのもいいね」であった。それからは「歌が楽しくなってきた。」「気が付いたら草抜きの途中で歌を口ずさんでいた」など前向きな記載が増えていった。終了間近に本人は「最初はどうにでもなれと思っていた。私は考え方が変わった。こんなに話しを聞いてくれて私のために言ってくれている。夫に対しても私のためを思ってくれていると思うようになった。」と話すようになっていた。終了間際には元夫とは良好な関係になり、最近は歌う事に協力的な様子である。
【結果】
発話明瞭度は1.5、最長発声持続時間は20秒となり、環境音に影響されることもあるがほぼ聞き返しなく会話が可能となった。最終週のマネジメントシートには「友人と楽しく話した、タクシーの運転手と話が盛り上がった」と記載されていた。今後については歌が行えるサロンに意欲を示し、住民主体の通いの場にも参加予定である。元夫に対しては一緒に誕生日を祝うなど、共に過ごす時間に喜びを感じるようになった。
【考察】
1~5週目面談時、本人は歌おうと行動するも「夫から馬鹿にされる」などの発言が多く、「歌いたい、でも下手だから歌いたくない。」という葛藤を抱いていた。言語聴覚士の介入後、練習方法を提案するも必要な行動を選べない状況が続き、歌の事を考えなければ楽という状態に陥った。それでも「やらないと」と継続の意思があり、内的動機を引き出すために「(本人にとって)歌とは何か」と質問した。ここで「下手でも楽しく歌えればいい」と答えたことから、初めて変化への可能性に気付くための支援が行えたのではないかと推測する。この出来事が行動変容につながり、本人は7週目から発声練習を開始、練習量も増えていった。マネジメントシートには前向きな記載が増え、更に面談で振り返ることで、意欲の維持、強化に務めた。結果、発声機能、発話明瞭度も改善、集団での歌唱でも楽しく歌えたという成功体験を積み重ね、自己効力感を高めることができた。そして、歌については家事をしながら歌うといった気分転換になり、更に上手くなるため練習を続けると意欲的であった。また本人の行動変容は、夫と誕生日を一緒に祝うといった家庭内の役割、友人との交流という参加にもつながった。行動変容に至るまで6週という時間を要したが、「歌いたいけど下手だから歌いたくない」という葛藤に苦しんだ本人にとって、必要な事は改善への情報提供のみではなかった。日々を振り返り、話し合うことで変わりたいという思いを自ら引き出す事であったと考察する。
《引用文献》
1)辻哲夫・飯島勝矢・服部真治.地域で取り組む高齢者のフレイル予防,中央法規出版株式会社,2021,p.74.
