講演情報
[28-P-LGFEZ-06]運動性失語症のある利用者の思いを引き出す支援
広島県 ○藤江 未幸, 北木 弥生, 佐伯 奏美 (介護老人保健施設はまな荘)
【はじめに】
介護老人保健施設は、「利用者の尊厳を守り、安全に配慮しながら、生活機能の維持・向上をめざす」ことを理念とし、個々の生活を支える支援が行われている。利用者の状態や背景は多様であり、それぞれに応じた関わりや支援が求められる。中でも、言語機能を伴う利用者への支援は、意思疎通の難しさから日常生活の中でも特に配慮が必要である。運動性失語症は、理解力が保たれていても言葉がうまく出せず、思いや意思を伝えることが困難である。そのため、利用者はもどかしさや孤独感を抱きやすく、支援する職員側にも葛藤が生じやすい。
本報告では、脳梗塞の後遺症により運動性失語症のある利用者に対し、思いの表出を支えるために工夫したコミュニケーション支援の実践を紹介する。
【事例紹介】
A氏は、70歳代の女性。2年前に左脳梗塞を発症し、後遺症として右片麻痺および運動性失語症がみられ、1年前から当施設を繰り返し利用している。理解力は保たれていたが、自発的な発語は「これ」「あれ」などの指示語や、「うん」などの短い単語に限られていた。質問には頷きや首振りで答え、言葉での表出が難しく、意思伝達が十分にできず悲しさが表情に現れる場面もあった。
A氏は、元々社交的な性格で、人との関わりを好んでいた。しかし、日常のコミュニケーションでは、伝えようとする意欲があるものの、職員側が意図を汲み取れず、A氏が首を横に振って諦める様子が見られた。職員間では、A氏の思いを汲み取れずもどかしさを感じる声があった。また、A氏はベッド上で過ごす時間が長く、他者との交流もほとんどなかった。家族も、言葉の出にくさは理解しつつ、本人の思いが十分に伝わらないことを心配していた。
こうした状況をふまえ、A氏の思いを少しでも引き出せるような方法を見直し、コミュニケーション支援に取り組むこととした。
【実施・結果】
まず、A氏とのコミュニケーション方法について多職種で検討を行った。クローズドクエスチョンの活用やジェスチャーの導入を試みた。しかし、クローズドクエスチョンは職員側の問いかけに偏りやすく、A氏が自分の思いを語る機会が限られるという課題があった。そのため、発語そのものを促す支援の必要性があがった。
そこで、A氏に発語練習を提案したところ同意が得られ、職員と1対1で安心できる環境を調整し練習を開始した。練習には、日常生活でよく使う言葉を選び、イラストカードにした。イラストカードは、「お茶」「お風呂」「カーテン」などの9語を使用した。初期は言葉がでにくかったが、毎日繰り返すことで徐々に発語が明瞭になった。
この関わりを通して、A氏が職員や他利用者に話かける場面が増えた。レクリエーションでは歌を口ずさみ、ベッドで過ごす時間が減少するなど、交流の広がりと行動や表情の変化がみられた。また、「装具を見られるのが恥ずかしい」「こんな体になって情けない」など、本音を伝える場面もあった。伝わらないことがあっても、諦めずに伝えようとする姿勢が見られた。A氏は、「みんなと話ができてうれしい」と笑顔で語った。家族とも情報共有を行い、自宅でもイラストカードを使った練習が継続された。娘からは、「母のためにここまでしてくれて本当に嬉しい」と感謝の言葉が聞かれた。
【考察】
本事例を通して、運動性失語症のある利用者に対しては、安心できる環境の中で繰り返し発語練習を行うことが、自己表現の意欲向上につながる可能性があることがわかった。最初はなかなか言葉にならず、伝えたい思いがうまく表現できない様子に戸惑いやもどかしさを感じたが、日々根気強く関わることで、少しずつ表情や発語に変化が見られるようになった。特に、本人の生活に関わる言葉を用いたことで、日常場面での発語につながり、周囲との交流も増えていった。うまく伝わらない場面があっても、職員が粘り強く耳を傾けることで、本人も諦めずに伝えようとする気持ちを持ち続けてくれたように感じる。職員側の関わり方が変わることで、利用者の意欲や行動に変化が見られることを実感した。また、家族との情報共有を通じて、施設と自宅の両面から継続的な支援を行うことが、本人の安心感や自信の回復につながったと考える。「自分のために時間を取ってくれている」と本人が感じられるような関わりが、意欲の向上につながったと感じている。
さらに、言葉による表現だけでなく表情や仕草など、言葉にならない思いを読み取る力も重要である。職員一人ひとりが丁寧に対応していくことが、より良い支援につながると考える。今後も、利用者の「伝えたい」という思いを尊重し、たとえ時間がかかっても諦めずに向き合い続けることが、信頼関係を築き、その人らしい生活を支える支援へとつながると考える。
【おわりに】
本事例を通して、言葉がうまく出せない利用者であっても、「伝えたい」という気持ちは消えていないことを改めて実感した。日々の関わりの中で、職員が諦めずに耳を傾け、思いを引き出そうと工夫を重ねることが、利用者の表情や行動の変化につながることを学んだ。発語に限らず、表情や視線、仕草などの観察を行い、言葉にならない思いに気付ける支援を行うことが、今後ますます求められていく。今後も、利用者一人ひとりの思いに丁寧に寄り添いながら、その人らしい生活を支える支援を続けていきたい。
介護老人保健施設は、「利用者の尊厳を守り、安全に配慮しながら、生活機能の維持・向上をめざす」ことを理念とし、個々の生活を支える支援が行われている。利用者の状態や背景は多様であり、それぞれに応じた関わりや支援が求められる。中でも、言語機能を伴う利用者への支援は、意思疎通の難しさから日常生活の中でも特に配慮が必要である。運動性失語症は、理解力が保たれていても言葉がうまく出せず、思いや意思を伝えることが困難である。そのため、利用者はもどかしさや孤独感を抱きやすく、支援する職員側にも葛藤が生じやすい。
本報告では、脳梗塞の後遺症により運動性失語症のある利用者に対し、思いの表出を支えるために工夫したコミュニケーション支援の実践を紹介する。
【事例紹介】
A氏は、70歳代の女性。2年前に左脳梗塞を発症し、後遺症として右片麻痺および運動性失語症がみられ、1年前から当施設を繰り返し利用している。理解力は保たれていたが、自発的な発語は「これ」「あれ」などの指示語や、「うん」などの短い単語に限られていた。質問には頷きや首振りで答え、言葉での表出が難しく、意思伝達が十分にできず悲しさが表情に現れる場面もあった。
A氏は、元々社交的な性格で、人との関わりを好んでいた。しかし、日常のコミュニケーションでは、伝えようとする意欲があるものの、職員側が意図を汲み取れず、A氏が首を横に振って諦める様子が見られた。職員間では、A氏の思いを汲み取れずもどかしさを感じる声があった。また、A氏はベッド上で過ごす時間が長く、他者との交流もほとんどなかった。家族も、言葉の出にくさは理解しつつ、本人の思いが十分に伝わらないことを心配していた。
こうした状況をふまえ、A氏の思いを少しでも引き出せるような方法を見直し、コミュニケーション支援に取り組むこととした。
【実施・結果】
まず、A氏とのコミュニケーション方法について多職種で検討を行った。クローズドクエスチョンの活用やジェスチャーの導入を試みた。しかし、クローズドクエスチョンは職員側の問いかけに偏りやすく、A氏が自分の思いを語る機会が限られるという課題があった。そのため、発語そのものを促す支援の必要性があがった。
そこで、A氏に発語練習を提案したところ同意が得られ、職員と1対1で安心できる環境を調整し練習を開始した。練習には、日常生活でよく使う言葉を選び、イラストカードにした。イラストカードは、「お茶」「お風呂」「カーテン」などの9語を使用した。初期は言葉がでにくかったが、毎日繰り返すことで徐々に発語が明瞭になった。
この関わりを通して、A氏が職員や他利用者に話かける場面が増えた。レクリエーションでは歌を口ずさみ、ベッドで過ごす時間が減少するなど、交流の広がりと行動や表情の変化がみられた。また、「装具を見られるのが恥ずかしい」「こんな体になって情けない」など、本音を伝える場面もあった。伝わらないことがあっても、諦めずに伝えようとする姿勢が見られた。A氏は、「みんなと話ができてうれしい」と笑顔で語った。家族とも情報共有を行い、自宅でもイラストカードを使った練習が継続された。娘からは、「母のためにここまでしてくれて本当に嬉しい」と感謝の言葉が聞かれた。
【考察】
本事例を通して、運動性失語症のある利用者に対しては、安心できる環境の中で繰り返し発語練習を行うことが、自己表現の意欲向上につながる可能性があることがわかった。最初はなかなか言葉にならず、伝えたい思いがうまく表現できない様子に戸惑いやもどかしさを感じたが、日々根気強く関わることで、少しずつ表情や発語に変化が見られるようになった。特に、本人の生活に関わる言葉を用いたことで、日常場面での発語につながり、周囲との交流も増えていった。うまく伝わらない場面があっても、職員が粘り強く耳を傾けることで、本人も諦めずに伝えようとする気持ちを持ち続けてくれたように感じる。職員側の関わり方が変わることで、利用者の意欲や行動に変化が見られることを実感した。また、家族との情報共有を通じて、施設と自宅の両面から継続的な支援を行うことが、本人の安心感や自信の回復につながったと考える。「自分のために時間を取ってくれている」と本人が感じられるような関わりが、意欲の向上につながったと感じている。
さらに、言葉による表現だけでなく表情や仕草など、言葉にならない思いを読み取る力も重要である。職員一人ひとりが丁寧に対応していくことが、より良い支援につながると考える。今後も、利用者の「伝えたい」という思いを尊重し、たとえ時間がかかっても諦めずに向き合い続けることが、信頼関係を築き、その人らしい生活を支える支援へとつながると考える。
【おわりに】
本事例を通して、言葉がうまく出せない利用者であっても、「伝えたい」という気持ちは消えていないことを改めて実感した。日々の関わりの中で、職員が諦めずに耳を傾け、思いを引き出そうと工夫を重ねることが、利用者の表情や行動の変化につながることを学んだ。発語に限らず、表情や視線、仕草などの観察を行い、言葉にならない思いに気付ける支援を行うことが、今後ますます求められていく。今後も、利用者一人ひとりの思いに丁寧に寄り添いながら、その人らしい生活を支える支援を続けていきたい。
