講演情報
[22-O-J002-01]経口移行支援の標準化に向けた取り組み~スクリーニング表と実施チャートを活用した一事例~
*田中 杏咲美 (秋田県 独立行政法人地域医療機能推進機構秋田病院附属介護老人保健施設)
【はじめに】
介護老人保健施設における経口移行は、食事を通した生活の再構築やQOLの向上に繋がる重要な支援である。A施設では経口移行加算を算定しているが、対象者の抽出や支援開始までの判断基準がスタッフ間で統一されておらず、支援開始の遅延や評価のばらつきが課題となっていた。そのため、誰もが同じ視点で評価できる仕組み作りが必要であると考えた。
そこで今回、経口移行の可否を評価する「経口移行スクリーニング表」(以下スクリーニング表)と、評価後の対応を明確にする「経口移行実施チャート」(以下実施チャート)を作成し活用した結果、経口移行支援の充実が図られたため報告する。
【目的】
「スクリーニング表」及び「実施チャート」を用いた標準化により、経口移行支援に与える効果を明らかにする。
【方法】
1.期間:令和7年10月~令和8年2月。
2.対象: B氏91歳、女性、要介護5。クモ膜下出血のため他病院にてコイル塞栓術施行。併設病院へ転院後、経口摂取困難のため胃瘻造設し4月に入所。認知症あり(長谷川式認知症スケール3点)。入所時食事に対する興味を示すことはなかった。秋頃からADL拡大し車椅子乗車し食堂で経管栄養を実施すると、他入所者の食事の様子を眺め、食器に手を伸ばし「食べたい」と話すようになった。
3.データ収集方法:管理栄養士と協働し、スクリーニング表及び実施チャートを作成した。スクリーニング表は、経口移行加算算定要件とA施設の経口維持加算算定時に使用している摂食機能評価表を参考にした。実施チャートは、対象者抽出から摂食嚥下外来受診、計画立案、ケア実施、再評価までの流れと各職種の役割を明示した。
スクリーニング結果、摂食嚥下外来受診結果、看護介護記録、多職種カンファレンス内容よりB氏の経口移行に関する情報、支援内容、本人の言動や反応をデータとして収集した。
4.データ分析方法:収集したデータを基に、ツール活用による判断過程や支援の展開を整理し、ツールが支援体制へ与える影響を分析した。
【倫理的配慮】
発表者がB氏・家族に研究の目的、個人情報の保護について、本研究以外にデータを使用しないこと、終了後にデータを全て破棄する事を説明し同意を得た。本研究は所属施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】
1.ツールの作成
スクリーニング表は全身状態、覚醒状況、座位保持、嚥下反射、咳払い、食物認知、食べる意欲等、日常ケアの中で看護師・介護福祉士が評価可能な項目で構成した。これにより、職種や経験年数に左右されない客観的な判断が可能となった。
実施チャートはスクリーニング表による判断後に「誰が・何を・いつ行うか」が可視化されたことで、支援開始までの行動が促進された。
2.B氏へのツール活用の実際
スクリーニング表を用いて評価した結果、全身状態は安定し覚醒も良好、30分以上の座位保持が可能で嚥下反射も認められた。さらに食事場面への関心や食器に手を伸ばす行動があり、「食べたい」という言葉より経口摂取に対する意欲があると判断した。評価結果を多職種で共有したことで、経口摂取が可能な入所者であるという共通認識が形成された。
実施チャートに基づき家族へ説明後、11月中旬摂食嚥下外来を受診しペースト食であれば嚥下可能と診断された。多職種カンファレンスにて、食事形態、食事提供量、提供時間、食事姿勢、生活リズムを検討し、一日一回昼のミキサー食1/2量から開始した。当初は眠気により摂取量にばらつきがあり、摂食嚥下障害認定看護師に相談し、朝の経管栄養施行後の満腹感から眠気が出現している可能性の助言を得た。経管栄養量の調整と離床時間の確保を行った結果、昼食時の覚醒状況が良好となり摂取量が増加した。
12月は実施チャートに基づいた食事観察と多職種カンファレンスを継続した。理学療法士と連携し、上肢機能や食事動作の向上を目的としたリハビリを導入したことで、食べこぼし量の減少や食事に対する意欲の向上が見られた。摂取量が安定した12月下旬より3食経口摂取へ移行し、必要エネルギーを確保するまでは経管栄養を併用した。食事提供量を徐々に増量し、2月からは経管栄養を終了し完全に経口摂取へ移行することができた。
【考察】
スクリーニング表の作成により、入所者が「食べられそうだ」という介護福祉士・看護師の感覚を根拠付け、経口移行の可否を客観的に判断することが可能となった。また、評価基準を明示することにより、スタッフ個々の判断のばらつきを減少させ、誰でも同じ視点で入所者を評価できる基盤作りに繋がったと考える。
さらに実施チャートの作成により、具体的な活動方法が可視化され役割分担を明確化することができ、多職種間の連携が円滑になった。特に外来受診の調整や家族への状態説明等、看護師がコーディネーターとして機能することで支援が円滑に進行するため、看護師の役割は重要である。
ツールの活用により、多職種間で経口移行の判断基準が共有され、支援開始までの期間短縮や情報共有の円滑化に繋がった。また、情報共有により誤嚥リスクに対するスタッフの不安感が軽減され、成功体験を共有することでモチベーションの向上に繋がった。B氏は3食経口摂取が可能となり「おいしい」と笑顔が増え、食事への意欲向上がみとめられた。今後はツールの定期的な見直しと活用状況の評価を行い、より実効性の高い経口移行支援を目指していきたい。
【結論】
「スクリーニング表」と「実施チャート」の作成・活用は、判断の標準化と多職種連携の強化に有効であり、B氏の経口摂取が可能となりQOL向上に繋がった。また、経口移行支援の仕組みが整備され、支援の充実にも有効であった。入所者の「食べたい」という意向を叶えるため、今後も継続的な活用が求められる。
介護老人保健施設における経口移行は、食事を通した生活の再構築やQOLの向上に繋がる重要な支援である。A施設では経口移行加算を算定しているが、対象者の抽出や支援開始までの判断基準がスタッフ間で統一されておらず、支援開始の遅延や評価のばらつきが課題となっていた。そのため、誰もが同じ視点で評価できる仕組み作りが必要であると考えた。
そこで今回、経口移行の可否を評価する「経口移行スクリーニング表」(以下スクリーニング表)と、評価後の対応を明確にする「経口移行実施チャート」(以下実施チャート)を作成し活用した結果、経口移行支援の充実が図られたため報告する。
【目的】
「スクリーニング表」及び「実施チャート」を用いた標準化により、経口移行支援に与える効果を明らかにする。
【方法】
1.期間:令和7年10月~令和8年2月。
2.対象: B氏91歳、女性、要介護5。クモ膜下出血のため他病院にてコイル塞栓術施行。併設病院へ転院後、経口摂取困難のため胃瘻造設し4月に入所。認知症あり(長谷川式認知症スケール3点)。入所時食事に対する興味を示すことはなかった。秋頃からADL拡大し車椅子乗車し食堂で経管栄養を実施すると、他入所者の食事の様子を眺め、食器に手を伸ばし「食べたい」と話すようになった。
3.データ収集方法:管理栄養士と協働し、スクリーニング表及び実施チャートを作成した。スクリーニング表は、経口移行加算算定要件とA施設の経口維持加算算定時に使用している摂食機能評価表を参考にした。実施チャートは、対象者抽出から摂食嚥下外来受診、計画立案、ケア実施、再評価までの流れと各職種の役割を明示した。
スクリーニング結果、摂食嚥下外来受診結果、看護介護記録、多職種カンファレンス内容よりB氏の経口移行に関する情報、支援内容、本人の言動や反応をデータとして収集した。
4.データ分析方法:収集したデータを基に、ツール活用による判断過程や支援の展開を整理し、ツールが支援体制へ与える影響を分析した。
【倫理的配慮】
発表者がB氏・家族に研究の目的、個人情報の保護について、本研究以外にデータを使用しないこと、終了後にデータを全て破棄する事を説明し同意を得た。本研究は所属施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】
1.ツールの作成
スクリーニング表は全身状態、覚醒状況、座位保持、嚥下反射、咳払い、食物認知、食べる意欲等、日常ケアの中で看護師・介護福祉士が評価可能な項目で構成した。これにより、職種や経験年数に左右されない客観的な判断が可能となった。
実施チャートはスクリーニング表による判断後に「誰が・何を・いつ行うか」が可視化されたことで、支援開始までの行動が促進された。
2.B氏へのツール活用の実際
スクリーニング表を用いて評価した結果、全身状態は安定し覚醒も良好、30分以上の座位保持が可能で嚥下反射も認められた。さらに食事場面への関心や食器に手を伸ばす行動があり、「食べたい」という言葉より経口摂取に対する意欲があると判断した。評価結果を多職種で共有したことで、経口摂取が可能な入所者であるという共通認識が形成された。
実施チャートに基づき家族へ説明後、11月中旬摂食嚥下外来を受診しペースト食であれば嚥下可能と診断された。多職種カンファレンスにて、食事形態、食事提供量、提供時間、食事姿勢、生活リズムを検討し、一日一回昼のミキサー食1/2量から開始した。当初は眠気により摂取量にばらつきがあり、摂食嚥下障害認定看護師に相談し、朝の経管栄養施行後の満腹感から眠気が出現している可能性の助言を得た。経管栄養量の調整と離床時間の確保を行った結果、昼食時の覚醒状況が良好となり摂取量が増加した。
12月は実施チャートに基づいた食事観察と多職種カンファレンスを継続した。理学療法士と連携し、上肢機能や食事動作の向上を目的としたリハビリを導入したことで、食べこぼし量の減少や食事に対する意欲の向上が見られた。摂取量が安定した12月下旬より3食経口摂取へ移行し、必要エネルギーを確保するまでは経管栄養を併用した。食事提供量を徐々に増量し、2月からは経管栄養を終了し完全に経口摂取へ移行することができた。
【考察】
スクリーニング表の作成により、入所者が「食べられそうだ」という介護福祉士・看護師の感覚を根拠付け、経口移行の可否を客観的に判断することが可能となった。また、評価基準を明示することにより、スタッフ個々の判断のばらつきを減少させ、誰でも同じ視点で入所者を評価できる基盤作りに繋がったと考える。
さらに実施チャートの作成により、具体的な活動方法が可視化され役割分担を明確化することができ、多職種間の連携が円滑になった。特に外来受診の調整や家族への状態説明等、看護師がコーディネーターとして機能することで支援が円滑に進行するため、看護師の役割は重要である。
ツールの活用により、多職種間で経口移行の判断基準が共有され、支援開始までの期間短縮や情報共有の円滑化に繋がった。また、情報共有により誤嚥リスクに対するスタッフの不安感が軽減され、成功体験を共有することでモチベーションの向上に繋がった。B氏は3食経口摂取が可能となり「おいしい」と笑顔が増え、食事への意欲向上がみとめられた。今後はツールの定期的な見直しと活用状況の評価を行い、より実効性の高い経口移行支援を目指していきたい。
【結論】
「スクリーニング表」と「実施チャート」の作成・活用は、判断の標準化と多職種連携の強化に有効であり、B氏の経口摂取が可能となりQOL向上に繋がった。また、経口移行支援の仕組みが整備され、支援の充実にも有効であった。入所者の「食べたい」という意向を叶えるため、今後も継続的な活用が求められる。
