講演情報

[22-O-D002-03]認知症専門棟におけるBPSDと職員負担感の関連NPI-NHを用いた症状別解析

*戸村 啓太郎、飯野 朋彦 (長崎県 介護老人保健施設にしきの里)
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【目的】
認知症に伴う行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:以下,BPSD)は,妄想,興奮,不安,易刺激性,異常行動など多様な症状を含み,認知症高齢者に高頻度にみられる.BPSDは本人の生活機能低下や精神的苦痛だけでなく,介護負担増大,身体拘束や薬物療法の導入,さらには入院・施設入所の契機となることも報告されている.特に介護老人保健施設(以下,老健)の認知症専門棟では,多様なBPSDを有する入所者が多く,継続的な見守りや個別対応が必要となる場面も少なくない.老健では看護,介護,リハビリテーションなど多職種が協働しながら生活支援を行っており,BPSDは利用者本人だけでなく,日常的に関わる職員の身体的・精神的負担にも影響を及ぼす可能性がある.特に興奮や易刺激性,異常行動などの症状は,転倒リスクや他利用者とのトラブルにつながる可能性があり,職員に継続的な緊張状態を生じさせることも考えられる.しかし,老健認知症専門棟において,BPSDの症状別特徴と職員負担感との関連を詳細に検討した報告は少ない.そこで本研究では,老健認知症専門棟入所者におけるBPSDの実態を把握し,各症状と職員負担感との関連を明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象は,当施設認知症専門棟入所者40名のうち,医師により認知症と診断され,入所後1カ月以上経過し,過去1カ月の状態について評価可能であった30名(男性11名,女性19名,平均年齢83.8±6.1歳)とした.BPSDの評価にはNeuropsychiatric Inventory-Nursing Home(NPI-NH)日本語版を用いた.NPI-NHは,妄想,幻覚,興奮,うつ,不安,多幸,無関心,脱抑制,易刺激性,異常行動など10項目から構成され,各症状について頻度(1~4点)と重症度(1~3点)の積により得点化した.また,職員負担感についてはNPI-Dを用いて評価し,各症状に対する介護者負担を0~5点で評価した.評価はリハビリ職員が看護・介護職員に対し,過去1カ月の状態について聞き取りを行う形で実施した.解析は,NPI-NH総得点および各症状得点とNPI-D総得点との関連について,Spearmanの順位相関係数を用いて検討した.統計学的有意水準は5%未満とした.なお,本研究は個人が特定されないよう匿名化して実施した.
【結果】
NPI-NH総得点とNPI-D総得点との間には,有意な正の相関を認めた(ρ=0.765,p<0.001).すなわち,BPSDが重度であるほど職員負担感も増大する傾向が示された.症状別では,妄想(ρ=0.526,p=0.003),興奮(ρ=0.518,p=0.003),不安(ρ=0.405,p=0.027),多幸(ρ=0.508,p=0.004),脱抑制(ρ=0.483,p=0.007),易刺激性(ρ=0.602,p<0.001),異常行動(ρ=0.572,p<0.001)において,NPI-D総得点との有意な正の相関を認めた.特に易刺激性および異常行動は比較的高い相関を示した.一方,幻覚,うつ,無関心では有意な関連を認めなかった.
【考察】
本研究では,BPSDの重症度が高いほど職員負担感が増大する可能性が示唆された.これは先行研究の知見とも一致しており,認知症ケアにおいてBPSDへの適切な評価および対応が重要であることを支持する結果と考えられる.特に興奮,易刺激性,異常行動などは,大声,拒否,暴言,離棟行動など即時対応を要する場面につながりやすく,職員の心理的・身体的負担を増大させる可能性があると考えられた.また,妄想や不安に対しては,説明や安心できる声掛けを繰り返し行う必要があり,対応時間の増加や精神的緊張につながる可能性も考えられた.これらの症状には,「突発性・予測困難性が高い」「他利用者とのトラブルにつながりやすい」「継続的見守りや個別対応を必要とする」といった共通点が存在している可能性がある.一方,幻覚,うつ,無関心では有意な関連を認めなかった.これらは周囲への直接的影響が比較的少なく,急を要する対応場面が少ないため,職員負担として認識されにくい可能性がある.特に無関心は,「手がかからない」と捉えられやすい一方,活動量低下や生活機能低下につながる可能性があり,注意深い観察が必要である.以上より,職員負担感軽減には,行動・攻撃性を伴うBPSDへの重点的な対応が重要であると示唆された.BPSDは認知症本人の不安や環境要因を背景として出現する場合も多く,本人が安心できる環境調整や,多職種間での情報共有・統一したケアの実践が重要であると考えられた.また,本研究では職員負担感を量的に評価しており,精神的負担や身体的負担などの質的側面については十分に検討できていない.今後はインタビュー調査等を用いて,職員負担感の質的特徴についても検討していく必要がある.