講演情報

[22-O-L001-04]当老人保健施設独自に作成した新・評価システムの検証~定量化に挑戦した体力評価に着目して~

*齋藤 将司、坂口 武、恒吉 朋子、藤本 剛丈 (長崎県 介護老人保健施設光風)
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【はじめに】
当老人保健施設は長崎県壱岐市に位置し、短期入所を含む定員80名の入所機能と通所リハビリテーションを併設する在宅強化型施設である。本島の人口は約23,000人であり、65歳以上の高齢化率は40%と全国平均を大きく上回る。本格的な超高齢社会を迎えた地域において、在宅復帰支援の中核を担う老健の役割は極めて重要である。入所者の平均年齢は88.3歳、平均要介護度は3.3であり、複合的な内部障害や運動障害を有する者が多い。
従来、当施設では握力、6分間歩行テスト(6MWT)、Berg Balance Scale(BBS)を共通の体力評価として実施してきたが、車椅子利用者が半数以上を占める入所者においては評価が困難であり、身体機能の定量的把握に限界があった。
この課題を踏まえ、2024年4月より当施設独自の「入所版・新評価システム」を導入し、体力評価の実施可能性向上と定量化を図った。
【目的】
本研究の主目的は、2024年4月より運用を開始した「入所版・新評価システム」を用いて、従来の体力評価法では困難であった入所者に対し、当施設独自の体力評価項目を活用する事で評価の実現を可能にし、その有効性を検証する事である。これにより、生活支援及びケアの質向上に資する知見を得ることを目指す。また、本評価システムを通じて、入所者の精神・身体状態を把握し、リスクを踏まえて個別性を重視した適切なリハビリプログラムの検討を行う。
【当施設における体力の定義】
当施設では、体力を「行動体力」と「防衛体力」に大別される概念のうち、日常生活動作に直接関わる行動体力を中心に評価している。行動体力は、1)行動を起こす能力(筋力・瞬発力)、2)行動を持続する能力(筋持久力・呼吸循環持久力)、3)行動を調整する能力(平衡性・巧緻性・柔軟性)に分類される。
高齢者や障害を有する入所者では複数の要素が同時に低下しやすく、特に呼吸循環機能と関連する全身持久力は生活範囲や活動性、自立度に大きく影響する重要な指標である。しかし入所者の多くは歩行や立位を前提とした一般的な体力評価では測定が困難な場合が多い。
このため、当施設独自に利用者の能力レベルに応じて評価を層別化することで、対象者が運動障害によって制限されない運動負荷の方法とし、可能な限り全身持久力を測定できるよう負荷量や姿勢条件を段階化した評価基準を設定した。評価は介助を必要とせず自力で行えることを条件とし、利用者に適した体力テストの方法を1つ選定し実施した。
【新・評価システムの概要】
新評価システムは、1)MMSE、2)握力、3)CS-30、4)体力評価、5)FIM、6)興味・関心チェックシート、7)TUG、8)下肢荷重力テストから構成される。体力評価は能力に応じて5段階に層別化し、(1)歩行可能者:6MWT、(2)起立可能者:連続起立回数、(3)立位可能者:連続立位時間、(4)座位保持可能者:連続座位時間、(5)座位保持困難者:測定困難とした。
評価に際しては、安全性・簡易性・経済性・非観血性・自立性を重視し、リハビリテーション医療における安全管理ガイドラインに基づき中止基準を設定した。
【対象・方法】
対象は2024年4月から2025年3月までに入所していた利用者の内、初回評価が実施できた103名(男性24名、女性79名)とした。評価項目はMMSE、握力、CS-30、体力評価、FIMの5項目とし、結果は実測値または測定困難に分類して集計・分析した。
評価は3ヶ月毎に実施し、リハビリテーション科内及び多職種カンファレンスで共有し、移動手段、移乗、排泄、入浴などのケア方針の検討に活用した。
【倫理的配慮】
本研究は当法人の倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】
MMSEは73%が測定可能で平均15.7点、中央値15点、握力は89%が測定可能で平均は男性12.3kg、女性6.7kg、中央値は男性10.3kg、女性6.3kg、CS-30は7%が測定可能で平均7回、中央値8回、FIMは運動項目の平均が38.2点、中央値35点、認知項目の平均が18点、中央値17点だった。
体力評価では、6MWT18%、連続起立29%、連続立位9%、連続座位29%が実施可能であり、全体の85%が何らかの体力測定を実施できた。項目別にみると、6MWT平均は142m、中央値135m(独歩26%、杖21%、歩行器53%)平均介護度2、連続起立平均は12.5回、中央値8回(椅子27%、車椅子67%、ベッド6%)平均介護度3、連続立位平均は57.1秒、中央値36秒、平均介護度3.7、連続座位平均は182秒、中央値233秒、平均介護度4、測定困難者の平均介護度は4.2だった。
【考察】
新評価システムにより、従来体力評価が困難であった超高齢入所者に対しても85%の割合で段階的定量化が可能となった。得られた評価結果は、入所リハビリテーション科内および多職種カンファレンスで共有され、移動手段(歩行器・車椅子・介助量の調整)、移乗方法、排泄動作の支援レベル、入浴方法の選定など、日常生活動作に関わる具体的なケア方針の検討に活用された。体力評価の層別化により能力差が明確化され、個々の状態に応じた支援方法の調整が可能となった。
また、評価結果を家族へ定期的に説明することで、外出や外泊の可否判断、生活空間の広がりに関する相談が行いやすくなった。特に、経時的な評価結果から「維持しているのか」「どの程度低下しているのか」を共有することで、家族が入所者の現状を理解しやすくなり、無理のない範囲での活動計画や介助量の見通しを立てることが可能となった。
一方、測定困難者15%は座位保持も困難であり、運動学的評価には限界があるものの、心理・意欲面の評価を含めた支援の継続が必要と考える。総じて、新評価システムは生活支援およびケアの質向上に寄与する有効な手段であることが示唆された。