講演情報
[22-O-L007-04]Y字拘束帯を付けることで口ゆすぎ動作が自立する症例
*𠮷原 託真 (三重県 介護老人保健施設鳥羽豊和苑)
【目的】
身体拘束ゼロの手引きにて拘束はゼロにすべきと言われているが、当施設においてその拘束をうまく用いて口ゆすぎ動作を自分で行っている症例を報告する。前回の全国老人保健施設大会にて、身体拘束が座位保持装置として働いている場合があるという内容を報告した1。今回その更なる詳細を示す。それはご本人の、いわば片麻痺の人にとっての装具のようなものであることを示し、拘束という負の概念を払拭した生活を送ってもらいたいと願うということである。
【対象者】
左重度麻痺あり、左股関節伸展-20°、左膝関節伸展-70°、筋力:左股関節伸展屈曲、左膝関節伸展屈曲ある程度動かすことができる。ROM:右手指伸展屈曲N.P.、右股関節伸展-20°、右膝関節伸展-70°、筋力:右指伸展指尖が1㎝程開く程度で可能、屈曲指尖を手掌にしっかり押し付けることが可能、右股関節伸展MMT3、右膝関節伸展MMT3。その他脊柱の側弯、骨盤回旋等著しい。車椅子上で足元へのリーチが行え、そこから食事できる程度まで体幹を起こせる体幹機能あり。
【方法】
動作観察を行い、拘束帯を使った方が口ゆすぎ動作能力が向上することを説明する。小児麻痺で体が動いてしまう方が使うような股の間に固定されたクッションをはさみ、前方転落をしづらいような形の車椅子(拘束なしタイプ車椅子とする)を自主作成した。それを用いたときと、通常通りY字拘束帯を用いたとき(拘束ありタイプ車椅子とする)で口ゆすぎ動作を比較する。
【動作の比較】
左麻痺と左上下肢重度変形、体幹屈曲側弯変形し、股関節で体幹を大きく前方に屈曲した状態で車椅子を漕ぐこの方は、一目で車椅子のアームレストやバックレストなど各箇所を体の保持のために用いているという事は見て取れ、前方に位置するY字拘束帯も同じく姿勢保持を助けている。
これを拘束なしタイプ車椅子で行うと、通常動作の右手で漕ぎ、右足で舵をとるという移動は問題なく行えた。しかし洗面台での口ゆすぎの時には前方に遮るものがないのにもかかわらず、洗面台に口を近づけることができないことが分かった。車椅子を斜めにしたり正面に向けたり真横近くにしたりしていろいろ試すが、アームレストが洗面台に接触してしまい、それ以上車椅子は近づけず、自身も上方かつ前方に口を持っていくことができないのである。洗面台に顎を乗せ、安定を取ろうとしている様子もある。しかし拘束ありタイプ車椅子の場合にはそれができるという結果になった。
その他にも横方向へ大きく体幹を倒すとき(足を高く上げて靴を履こうとする場合、ただでさえ悪い足の動きをカバーするために)もY字拘束帯の張りを利用し、また体幹を前後させてその反動で車椅子の細かい位置調節をする場合にも、Y字拘束帯の張りをうまく使っていることが分かった。
また拘束ありタイプ車椅子の場合は、コップ柄を右指で持つという事が可能だったが、拘束なしタイプ車椅子の場合は、うまく指伸展できずコップを落としたり、コップ口の部分を持ったりしていた。
【考察】
Y字拘束帯は下部体幹を支え、安定させるための装置として機能していると考えた。右股関節伸展筋、右膝関節伸展筋MMT3レベルでは前方上方に口を突き出すときに、その上半身体重を支えられないという事である。よってこの場合のY字拘束帯は拘束として働いているだけではなく、下肢で支えられないほど遠方まで口を突き出すことができるようにする補助具という事にもなり、車椅子と洗面台が接触してしまうという物理的障害を乗り越えて、口ゆすぎが行えるようになる、座位保持装置とも考えられる。
また拘束なしタイプ車椅子使用の場合は、その支えがないため、口を洗面台に近づける動作つまり股関節伸展筋等の努力により、全身の力みが生じ上肢手指の動きも制限されてしまうものと考えた。
この方にとってのY字拘束帯は、自分で口ゆすぎのために体幹を上方前方へ伸ばすことや、その口腔ケアという行為に付随する微妙な車椅子位置調節、うまく指でコップを掴む等の動作のために必要な自助具であり、前述した片麻痺の人にとっての装具のようなものであることを示したと考えている。
もう一つ、もしこれを拘束という負の概念のみの物としたならば、ここから派生するリハビリは無かったであろうと思われる。具体的には(1)より行為しやすいであろうY字拘束帯の長さ(長すぎても短すぎても効率が悪いと検証できたため)や種類の選定や、(2)前方固定したうえでの上方前方への体幹筋力訓練、(3)過剰努力的になる姿勢を拘束で抑えた上での指使用訓練など、そのY字拘束帯での拘束を前提とした動作を強化するようなリハビリの実施である。
拘束ゼロの手引きに従い、この方は長年拘束対象者として過ごしており、周りのスタッフや家族もそのように対応している現状である。しかしそれは本人、関係者にとってつらいものである。他方、障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引きにあるように、本人の体の安定や活動性を高めるものであればそれは座位保持装置なのだという考え方があるが、それに基づいた対応を高齢者施設でも行うことで、先に記したように皆がより幸せになれると信じている。
この症例を通して身体拘束をした方が、ADL、QOLが向上する場合もあるのではないかと考えなおし、作業療法士としてその拘束か否かの境界の部分を明確に定義する一助になれると感じている。
【参考文献】
1 𠮷原託真.“身体拘束ではなく座位保持装置使用と考えられる症例”.第36回全国介護老人保健施設大会山口.27-O-L004-08.
身体拘束ゼロの手引きにて拘束はゼロにすべきと言われているが、当施設においてその拘束をうまく用いて口ゆすぎ動作を自分で行っている症例を報告する。前回の全国老人保健施設大会にて、身体拘束が座位保持装置として働いている場合があるという内容を報告した1。今回その更なる詳細を示す。それはご本人の、いわば片麻痺の人にとっての装具のようなものであることを示し、拘束という負の概念を払拭した生活を送ってもらいたいと願うということである。
【対象者】
左重度麻痺あり、左股関節伸展-20°、左膝関節伸展-70°、筋力:左股関節伸展屈曲、左膝関節伸展屈曲ある程度動かすことができる。ROM:右手指伸展屈曲N.P.、右股関節伸展-20°、右膝関節伸展-70°、筋力:右指伸展指尖が1㎝程開く程度で可能、屈曲指尖を手掌にしっかり押し付けることが可能、右股関節伸展MMT3、右膝関節伸展MMT3。その他脊柱の側弯、骨盤回旋等著しい。車椅子上で足元へのリーチが行え、そこから食事できる程度まで体幹を起こせる体幹機能あり。
【方法】
動作観察を行い、拘束帯を使った方が口ゆすぎ動作能力が向上することを説明する。小児麻痺で体が動いてしまう方が使うような股の間に固定されたクッションをはさみ、前方転落をしづらいような形の車椅子(拘束なしタイプ車椅子とする)を自主作成した。それを用いたときと、通常通りY字拘束帯を用いたとき(拘束ありタイプ車椅子とする)で口ゆすぎ動作を比較する。
【動作の比較】
左麻痺と左上下肢重度変形、体幹屈曲側弯変形し、股関節で体幹を大きく前方に屈曲した状態で車椅子を漕ぐこの方は、一目で車椅子のアームレストやバックレストなど各箇所を体の保持のために用いているという事は見て取れ、前方に位置するY字拘束帯も同じく姿勢保持を助けている。
これを拘束なしタイプ車椅子で行うと、通常動作の右手で漕ぎ、右足で舵をとるという移動は問題なく行えた。しかし洗面台での口ゆすぎの時には前方に遮るものがないのにもかかわらず、洗面台に口を近づけることができないことが分かった。車椅子を斜めにしたり正面に向けたり真横近くにしたりしていろいろ試すが、アームレストが洗面台に接触してしまい、それ以上車椅子は近づけず、自身も上方かつ前方に口を持っていくことができないのである。洗面台に顎を乗せ、安定を取ろうとしている様子もある。しかし拘束ありタイプ車椅子の場合にはそれができるという結果になった。
その他にも横方向へ大きく体幹を倒すとき(足を高く上げて靴を履こうとする場合、ただでさえ悪い足の動きをカバーするために)もY字拘束帯の張りを利用し、また体幹を前後させてその反動で車椅子の細かい位置調節をする場合にも、Y字拘束帯の張りをうまく使っていることが分かった。
また拘束ありタイプ車椅子の場合は、コップ柄を右指で持つという事が可能だったが、拘束なしタイプ車椅子の場合は、うまく指伸展できずコップを落としたり、コップ口の部分を持ったりしていた。
【考察】
Y字拘束帯は下部体幹を支え、安定させるための装置として機能していると考えた。右股関節伸展筋、右膝関節伸展筋MMT3レベルでは前方上方に口を突き出すときに、その上半身体重を支えられないという事である。よってこの場合のY字拘束帯は拘束として働いているだけではなく、下肢で支えられないほど遠方まで口を突き出すことができるようにする補助具という事にもなり、車椅子と洗面台が接触してしまうという物理的障害を乗り越えて、口ゆすぎが行えるようになる、座位保持装置とも考えられる。
また拘束なしタイプ車椅子使用の場合は、その支えがないため、口を洗面台に近づける動作つまり股関節伸展筋等の努力により、全身の力みが生じ上肢手指の動きも制限されてしまうものと考えた。
この方にとってのY字拘束帯は、自分で口ゆすぎのために体幹を上方前方へ伸ばすことや、その口腔ケアという行為に付随する微妙な車椅子位置調節、うまく指でコップを掴む等の動作のために必要な自助具であり、前述した片麻痺の人にとっての装具のようなものであることを示したと考えている。
もう一つ、もしこれを拘束という負の概念のみの物としたならば、ここから派生するリハビリは無かったであろうと思われる。具体的には(1)より行為しやすいであろうY字拘束帯の長さ(長すぎても短すぎても効率が悪いと検証できたため)や種類の選定や、(2)前方固定したうえでの上方前方への体幹筋力訓練、(3)過剰努力的になる姿勢を拘束で抑えた上での指使用訓練など、そのY字拘束帯での拘束を前提とした動作を強化するようなリハビリの実施である。
拘束ゼロの手引きに従い、この方は長年拘束対象者として過ごしており、周りのスタッフや家族もそのように対応している現状である。しかしそれは本人、関係者にとってつらいものである。他方、障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引きにあるように、本人の体の安定や活動性を高めるものであればそれは座位保持装置なのだという考え方があるが、それに基づいた対応を高齢者施設でも行うことで、先に記したように皆がより幸せになれると信じている。
この症例を通して身体拘束をした方が、ADL、QOLが向上する場合もあるのではないかと考えなおし、作業療法士としてその拘束か否かの境界の部分を明確に定義する一助になれると感じている。
【参考文献】
1 𠮷原託真.“身体拘束ではなく座位保持装置使用と考えられる症例”.第36回全国介護老人保健施設大会山口.27-O-L004-08.
