講演情報
[22-O-L003-04]「こころ」と「からだ」が動くを誘い待つ関わり心身相関の考えを基本としたアプローチ
*齋藤 徳彦 (群馬県 介護老人保健施設ミドルホーム富岡)
【はじめに(背景)】
退院後、自宅に戻られてから生活再建を阻む困難に直面する方もいる。病院のリハビリの時のようには動けないといった声も聞かれ、訪問リハビリ(以下:訪問リハ)はそういった状況にいる方々に力を発揮するサービスでもある。その人が過ごされる環境において、今ある生活を作っていくという役割は非常に大きい。また、家族との接点も多く、これまでの経験から、生活再建には家族の存在が大きな影響を与えると感じている。家族とは、利用者の生活再建を後押しする存在にもなれば、妨げにもなりえる。
この症例は、生活再建を諦めた利用者に、訪問リハにて心身相関の考えを基本に関わり、新たな生活再建の動きに繋げることができたため報告する。
【ケース紹介】
利用者(以下:ケース)は、70歳代後半の男性。脳出血発症し左半身麻痺となる。日常生活動作に大きな影響がない状態で退院されたが、左手指に強く麻痺が残り、両手を使う活動は困難。健側の右手を優位とした片手動作が目立つ。在宅復帰後は、家業であった椎茸栽培の再開を望んでいたが、椎茸栽培の仕事には左手指の機能改善が必須であり、訪問リハの利用が始まった。子供は3人いるが別居のため妻と2人暮らし。キーパーソンは長女。
【訪問リハ経過】
訪問リハが始まり数カ月で左手指の機能改善がみられた。そんなときに妻が認知症となり、それからは精神的な苦痛と介護の日々に疲弊していく。リハビリの意欲は著しく低下、リハに身が入らず妻に対する悩みを話すことが多くなる。そんな状況の中、更に不幸は続き、長女が急死する。これが追い打ちとなり完全に生活再建に対する思いを失った。生きる気力も下がり、今ある生活の維持すら怪しくなっていった。そのため、ケースの心身の負担を軽減させることを考え、妻の介護は施設に任せることを勧め施設入所が決まった。
介護の負担は無くなり、生活の好転を期待していたが、意欲の低下、閉じこもり傾向は変わらず続いた。週2回の訪問リハにも身が入らず、必要に迫られることがない限り寝て過ごすため、次第に体力の低下がみられた。家屋内で転ぶこともあり、自主トレとして散歩を勧めると、早朝の散歩が日課となった。これがきっかけとなり、自分の畑の雑草が他人の畑に入って迷惑をかけていることを知る。この問題を、何とかしたいとの相談があり、畑の草刈りをリハプログラムにして実施した。作業は協働で行い、伸び放題になっていた雑草を綺麗にすることがきた。この問題の解決は、ケースのさらなる意欲を高め、他の荒れた畑も綺麗にしたいという目標に繋がる。現在、ケースの活動の機会は増えている。
【セラピストの関わり(方法)】
妻の認知症発症からは、身体機能の回復訓練による成果だけにとらわれず、心のケアを意識して関わった。特には、認知症の介護についての助言を行った。その後、長女が急死し、更に状況が悪くなったときは、ケースの気持ちを理解し、受け身の姿勢で気持ちに寄り添うように関わった。具体的には、生活状況が悪くなっていく様子も理解し、あえて現状改善を促すことはしなかった。関わりは、悩みや困り事を共有し、その時々に合わせて、ケースが無理せず行える助言を行った。
注意点としては、心の負担になるような提案や促しは行わないようにした。身体に関しては、いつでも動ける状態を目標にリハを実施した。また、左手指の機能改善に関しても、当初の目標を忘れないでほしいという願いを持ってリハを行った。雑草の草刈り作業をリハプログラムとして実施したことは、責任を感じたケースの気持ちを受け止め、協力して行うことの重要性と、問題を解決した時の心理的効果と作業活動による身体的効果を期待し行った。
【結果と考察】
活動に繋げられたポイントは、いつ辞めてもおかしくなかった訪問リハを辞めなかったことが1つ。ケースの心を理解して、何かを執拗に促すことをしない、敢えて抗わせない関わりで、心の負担をつくらなかったことが長く続いた要因だったと考える。そして、ケースに起こる数々の困難を、関わりの中で共に経験し、その時々で行った必要な助言もポイントだったと考える。これは、ケースの今ある生活を継続するための知恵と力になり、不安や困り事のある毎日の支えになったのではないかと考える。
訪問リハにて数々の相談に応えた時間は、ケースとの信頼関係を築き、荒れた畑の整地作業を行う意欲につながり、今できる生活の目標をつくることができた。これまでのケースの心理的変化をみてきて、心や身体が「動く」または「動かす」ということの難しさを知ることができた。故に、「動くを待つ」関りも重要であることも分かった。待つとは、ただ何もせず待つのではなく、想いを聴く、受容する、支援する気持ちを表すといった「動くを誘う」関りがあっての待つでなければ、動くには繋がらないと考える。また、「こころ」と「からだ」のどちらか片方が動くだけでは活動にはならず、心と身体が共に動く=相関することが活動となることが理解できた。この度の関りでは、心のケアだけではなく身体をいつでも動ける状態に維持する、心と身体の両側面を整えるよう努めたことが、最大のポイントであったと考える。
最後に、最近のケースは、やりたい気持ちに反し身体が動かないことがあり、今までの過ごし方を後悔することもある。それでも、訪問時間に合わせて準備をして待ち、合流すると畑に向かい、協働作業にて決めた量の作業を終わらせることができている。作業中は、動かしづらい左手指を使う様子も見られ、今では、障害があっても自分のやりたい事を行えている様子から、訪問リハによる関わりが、新たにケースが望む時間を作り、今のケースに合った生活再建が始められたと考える。
退院後、自宅に戻られてから生活再建を阻む困難に直面する方もいる。病院のリハビリの時のようには動けないといった声も聞かれ、訪問リハビリ(以下:訪問リハ)はそういった状況にいる方々に力を発揮するサービスでもある。その人が過ごされる環境において、今ある生活を作っていくという役割は非常に大きい。また、家族との接点も多く、これまでの経験から、生活再建には家族の存在が大きな影響を与えると感じている。家族とは、利用者の生活再建を後押しする存在にもなれば、妨げにもなりえる。
この症例は、生活再建を諦めた利用者に、訪問リハにて心身相関の考えを基本に関わり、新たな生活再建の動きに繋げることができたため報告する。
【ケース紹介】
利用者(以下:ケース)は、70歳代後半の男性。脳出血発症し左半身麻痺となる。日常生活動作に大きな影響がない状態で退院されたが、左手指に強く麻痺が残り、両手を使う活動は困難。健側の右手を優位とした片手動作が目立つ。在宅復帰後は、家業であった椎茸栽培の再開を望んでいたが、椎茸栽培の仕事には左手指の機能改善が必須であり、訪問リハの利用が始まった。子供は3人いるが別居のため妻と2人暮らし。キーパーソンは長女。
【訪問リハ経過】
訪問リハが始まり数カ月で左手指の機能改善がみられた。そんなときに妻が認知症となり、それからは精神的な苦痛と介護の日々に疲弊していく。リハビリの意欲は著しく低下、リハに身が入らず妻に対する悩みを話すことが多くなる。そんな状況の中、更に不幸は続き、長女が急死する。これが追い打ちとなり完全に生活再建に対する思いを失った。生きる気力も下がり、今ある生活の維持すら怪しくなっていった。そのため、ケースの心身の負担を軽減させることを考え、妻の介護は施設に任せることを勧め施設入所が決まった。
介護の負担は無くなり、生活の好転を期待していたが、意欲の低下、閉じこもり傾向は変わらず続いた。週2回の訪問リハにも身が入らず、必要に迫られることがない限り寝て過ごすため、次第に体力の低下がみられた。家屋内で転ぶこともあり、自主トレとして散歩を勧めると、早朝の散歩が日課となった。これがきっかけとなり、自分の畑の雑草が他人の畑に入って迷惑をかけていることを知る。この問題を、何とかしたいとの相談があり、畑の草刈りをリハプログラムにして実施した。作業は協働で行い、伸び放題になっていた雑草を綺麗にすることがきた。この問題の解決は、ケースのさらなる意欲を高め、他の荒れた畑も綺麗にしたいという目標に繋がる。現在、ケースの活動の機会は増えている。
【セラピストの関わり(方法)】
妻の認知症発症からは、身体機能の回復訓練による成果だけにとらわれず、心のケアを意識して関わった。特には、認知症の介護についての助言を行った。その後、長女が急死し、更に状況が悪くなったときは、ケースの気持ちを理解し、受け身の姿勢で気持ちに寄り添うように関わった。具体的には、生活状況が悪くなっていく様子も理解し、あえて現状改善を促すことはしなかった。関わりは、悩みや困り事を共有し、その時々に合わせて、ケースが無理せず行える助言を行った。
注意点としては、心の負担になるような提案や促しは行わないようにした。身体に関しては、いつでも動ける状態を目標にリハを実施した。また、左手指の機能改善に関しても、当初の目標を忘れないでほしいという願いを持ってリハを行った。雑草の草刈り作業をリハプログラムとして実施したことは、責任を感じたケースの気持ちを受け止め、協力して行うことの重要性と、問題を解決した時の心理的効果と作業活動による身体的効果を期待し行った。
【結果と考察】
活動に繋げられたポイントは、いつ辞めてもおかしくなかった訪問リハを辞めなかったことが1つ。ケースの心を理解して、何かを執拗に促すことをしない、敢えて抗わせない関わりで、心の負担をつくらなかったことが長く続いた要因だったと考える。そして、ケースに起こる数々の困難を、関わりの中で共に経験し、その時々で行った必要な助言もポイントだったと考える。これは、ケースの今ある生活を継続するための知恵と力になり、不安や困り事のある毎日の支えになったのではないかと考える。
訪問リハにて数々の相談に応えた時間は、ケースとの信頼関係を築き、荒れた畑の整地作業を行う意欲につながり、今できる生活の目標をつくることができた。これまでのケースの心理的変化をみてきて、心や身体が「動く」または「動かす」ということの難しさを知ることができた。故に、「動くを待つ」関りも重要であることも分かった。待つとは、ただ何もせず待つのではなく、想いを聴く、受容する、支援する気持ちを表すといった「動くを誘う」関りがあっての待つでなければ、動くには繋がらないと考える。また、「こころ」と「からだ」のどちらか片方が動くだけでは活動にはならず、心と身体が共に動く=相関することが活動となることが理解できた。この度の関りでは、心のケアだけではなく身体をいつでも動ける状態に維持する、心と身体の両側面を整えるよう努めたことが、最大のポイントであったと考える。
最後に、最近のケースは、やりたい気持ちに反し身体が動かないことがあり、今までの過ごし方を後悔することもある。それでも、訪問時間に合わせて準備をして待ち、合流すると畑に向かい、協働作業にて決めた量の作業を終わらせることができている。作業中は、動かしづらい左手指を使う様子も見られ、今では、障害があっても自分のやりたい事を行えている様子から、訪問リハによる関わりが、新たにケースが望む時間を作り、今のケースに合った生活再建が始められたと考える。
