講演情報
[23-P-CMO-04]A施設における転倒予防体操を実践したその効果転倒率・身体・心理・生活面と満足度への影響
*宗貞 健一、鈴木 章恵、美奈 恵、椋梨 輝彦 (山口県 社会医療法人 老人保健施設コスモス)
【はじめに】A施設における入所者の2023年度の転倒率は4.82‰、2024年は4.40‰であった。しかし転倒予防対策のために負担を感じている職員もいるため、より効果的対策を講じる必要性を感じた。このたび転倒予防体操を実施し、転倒率とアンケートを通じて身体・心理・生活面への影響と体操の満足度を明らかにしたためここに報告する。
【目的】転倒予防体操が身体面・心理面・生活面に与える影響、体操前後の転倒率の変化の検証および体操に対する満足度に寄与する要因を分析する。
【方法】1.研究期間
2025年4月1日~6月30日:転倒予防体操介入前(以下、体操前と略す)の調査
2025年7月1日~10月9日:転倒予防体操実施(以下、体操開始後と略す) 実施期間中の転倒件数を対象者別に調査
2025年10月25日~11月15日:転倒予防体操を実施した対象者のアンケート調査
2.研究対象
車椅子、歩行器、独歩レベルで転倒転落アセスメントの危険度Ⅱ以上の入所者17名
3.研究方法
1)2025年3月1日~6月30日までに条件に該当するA施設の入所者を選出し、体操前の転倒件数を対象者別に調査。
2)2025年7月1日~10月9日の体操開始後の転倒件数を対象者別に調査。
3)各対象別の転倒件数/対象期間の延べ入所者人数×1000=転倒率(‰) として算出。ウィルコクスン符号付順位検定を用いて、有意差があるかを検定。
4)体操を実施した17名の体操実施率および転倒率の関係をスピアマンの順位相関係数で検定。
5)体操を実施した対象者にアンケート調査を実施。ウィルコクスン符号付順位検定により、「身体の変化について(以下、身体面と略す)」の5項目、「心や気持ちの変化について(以下、心理面と略す)」の3項目や「生活面の変化について(以下、生活面と略す)」の3項目において体操前後の効果を比較。体操実施期間中に退所された方には、アンケート用紙を郵送または直接自宅訪問に届け、回収を実施。
6)「身体面」「心理面」「生活面」のどの要因が入所者の満足度に繋がったかを回帰分析により測定。
(用語の定義)
転倒率=対象期間転倒件数/対象期間延べ入所者数×1000 単位:‰(パーミル)
各対象者の体操実施率は体操11項目のそれぞれの実施率の平均値とする。
【倫理的配慮】
説明文書を用いて同意書を作成し、同意書に本人またはご家族の署名をいただくことで同意を得る。医学的視点において、転倒予防体操実施可能かどうかを医師にコンサルトする。研究倫理審査は当施設の倫理委員会の承認を得た。
【結果】
表3をもとに体操前後の転倒率を比較したウィルコクスン符号付順位検定(n=17)では、統計的有意差はなかった(p=0.705>0.05)。体操実施率と体操後転倒率の関係をスピアマンの順位相関係数(n=17)で分析した結果では-0.17であった。 状態変化により回答が困難であった5名を除く12名からアンケートを得た。ウィルコクスン符号付順位検定の結果、身体的項目では「足に力が入る(以下を身体1と略す)」「立ち上がりができる(以下を身体2と略す)」「転びそうになることが少なくなった(以下を身体5と略す)」に有意な改善が認められた(p<.05)。心理的項目では「転ぶことへの不安がない(以下を心理1と略す)」「体を動かすのが楽しい(以下を心理2と略す)」に有意差がみられ、生活面では「自分でできることが増えた(以下を生活1と略す)」「活動量が増えた(以下を生活2と略す)」「生活にハリが出た(以下を生活3と略す)」が有意に改善した(p<.05)。体操に対する満足度調査における回帰分析では、身体の項目のみ投入場合、「身体5」のみ有意差があった。
【考察】
島田らは「身体活動量をあげる運動は長期介入(6~12か月以上が必要)」1)と述べている。また、体操実施率と体操後の転倒率では負の弱い相関関係にあるため、体操は転倒率の低減に寄与することは言えるが関係性は弱く、結果として転倒率への影響は認められなかったと考えられる。一方で、アンケートの身体1の足に力が入るようになったこと、身体2の立ち上がりがしやすくなったこと、身体5の歩行時のふらつきが減ったことなど複数項目で主観的改善が認められた要因は、体操による定期的な身体活動により本人に自覚できる形で反映された可能性が高いためと考える。心理面では心理1の転倒への不安がなくなったこと、心理2の体を動かすことが楽しくなったこと、いわゆる気持ちが前向きになったという肯定的変化が効果として認められたと考える。征矢野は、「運動介入が転倒率の低減には必ずしも直結しない一方で、転倒不安や自己効力感など心理的側面が改善することが報告されている」2)と述べている。転倒率が有意に改善せず心理面が改善された要因は、体操を通じて「できる」という実感が心理的な活性化をもたらしたと考える。心理面の改善が生活に対する意欲の向上、自立度向上につながることは、介護予防研究において広く報告されている。今回の生活1と生活2の結果の自分でできる、活動量が増えたこと、生活3の生活にハリが出たことなどの有意な改善がそれを示唆している。佐藤らは「身体機能の改善を実感した者ほど満足度が高い」3)と述べている。今回のアンケート調査において、身体5の項目のみ満足度への寄与が認められたのは、転倒頻度が少なくなったということで身体機能の改善を実感できたことにあると考える。身体5の項目以外に対して満足度への寄与した要因が明確にならなかった理由は、体操実施率が高くても、体操を実施してよかったという入所者の反応は明確でないため、受動的な体操参加になっていた可能性もある。
【結論】
1. 今回の転倒予防体操では約3か月という短期実施のため、介入前後の転倒率の有意な低減は認められなかった。
2. 今回の転倒予防体操は心理面の改善や活動量の増加といった生活面の向上に対して一定の効果があった。
【目的】転倒予防体操が身体面・心理面・生活面に与える影響、体操前後の転倒率の変化の検証および体操に対する満足度に寄与する要因を分析する。
【方法】1.研究期間
2025年4月1日~6月30日:転倒予防体操介入前(以下、体操前と略す)の調査
2025年7月1日~10月9日:転倒予防体操実施(以下、体操開始後と略す) 実施期間中の転倒件数を対象者別に調査
2025年10月25日~11月15日:転倒予防体操を実施した対象者のアンケート調査
2.研究対象
車椅子、歩行器、独歩レベルで転倒転落アセスメントの危険度Ⅱ以上の入所者17名
3.研究方法
1)2025年3月1日~6月30日までに条件に該当するA施設の入所者を選出し、体操前の転倒件数を対象者別に調査。
2)2025年7月1日~10月9日の体操開始後の転倒件数を対象者別に調査。
3)各対象別の転倒件数/対象期間の延べ入所者人数×1000=転倒率(‰) として算出。ウィルコクスン符号付順位検定を用いて、有意差があるかを検定。
4)体操を実施した17名の体操実施率および転倒率の関係をスピアマンの順位相関係数で検定。
5)体操を実施した対象者にアンケート調査を実施。ウィルコクスン符号付順位検定により、「身体の変化について(以下、身体面と略す)」の5項目、「心や気持ちの変化について(以下、心理面と略す)」の3項目や「生活面の変化について(以下、生活面と略す)」の3項目において体操前後の効果を比較。体操実施期間中に退所された方には、アンケート用紙を郵送または直接自宅訪問に届け、回収を実施。
6)「身体面」「心理面」「生活面」のどの要因が入所者の満足度に繋がったかを回帰分析により測定。
(用語の定義)
転倒率=対象期間転倒件数/対象期間延べ入所者数×1000 単位:‰(パーミル)
各対象者の体操実施率は体操11項目のそれぞれの実施率の平均値とする。
【倫理的配慮】
説明文書を用いて同意書を作成し、同意書に本人またはご家族の署名をいただくことで同意を得る。医学的視点において、転倒予防体操実施可能かどうかを医師にコンサルトする。研究倫理審査は当施設の倫理委員会の承認を得た。
【結果】
表3をもとに体操前後の転倒率を比較したウィルコクスン符号付順位検定(n=17)では、統計的有意差はなかった(p=0.705>0.05)。体操実施率と体操後転倒率の関係をスピアマンの順位相関係数(n=17)で分析した結果では-0.17であった。 状態変化により回答が困難であった5名を除く12名からアンケートを得た。ウィルコクスン符号付順位検定の結果、身体的項目では「足に力が入る(以下を身体1と略す)」「立ち上がりができる(以下を身体2と略す)」「転びそうになることが少なくなった(以下を身体5と略す)」に有意な改善が認められた(p<.05)。心理的項目では「転ぶことへの不安がない(以下を心理1と略す)」「体を動かすのが楽しい(以下を心理2と略す)」に有意差がみられ、生活面では「自分でできることが増えた(以下を生活1と略す)」「活動量が増えた(以下を生活2と略す)」「生活にハリが出た(以下を生活3と略す)」が有意に改善した(p<.05)。体操に対する満足度調査における回帰分析では、身体の項目のみ投入場合、「身体5」のみ有意差があった。
【考察】
島田らは「身体活動量をあげる運動は長期介入(6~12か月以上が必要)」1)と述べている。また、体操実施率と体操後の転倒率では負の弱い相関関係にあるため、体操は転倒率の低減に寄与することは言えるが関係性は弱く、結果として転倒率への影響は認められなかったと考えられる。一方で、アンケートの身体1の足に力が入るようになったこと、身体2の立ち上がりがしやすくなったこと、身体5の歩行時のふらつきが減ったことなど複数項目で主観的改善が認められた要因は、体操による定期的な身体活動により本人に自覚できる形で反映された可能性が高いためと考える。心理面では心理1の転倒への不安がなくなったこと、心理2の体を動かすことが楽しくなったこと、いわゆる気持ちが前向きになったという肯定的変化が効果として認められたと考える。征矢野は、「運動介入が転倒率の低減には必ずしも直結しない一方で、転倒不安や自己効力感など心理的側面が改善することが報告されている」2)と述べている。転倒率が有意に改善せず心理面が改善された要因は、体操を通じて「できる」という実感が心理的な活性化をもたらしたと考える。心理面の改善が生活に対する意欲の向上、自立度向上につながることは、介護予防研究において広く報告されている。今回の生活1と生活2の結果の自分でできる、活動量が増えたこと、生活3の生活にハリが出たことなどの有意な改善がそれを示唆している。佐藤らは「身体機能の改善を実感した者ほど満足度が高い」3)と述べている。今回のアンケート調査において、身体5の項目のみ満足度への寄与が認められたのは、転倒頻度が少なくなったということで身体機能の改善を実感できたことにあると考える。身体5の項目以外に対して満足度への寄与した要因が明確にならなかった理由は、体操実施率が高くても、体操を実施してよかったという入所者の反応は明確でないため、受動的な体操参加になっていた可能性もある。
【結論】
1. 今回の転倒予防体操では約3か月という短期実施のため、介入前後の転倒率の有意な低減は認められなかった。
2. 今回の転倒予防体操は心理面の改善や活動量の増加といった生活面の向上に対して一定の効果があった。

