講演情報
[22-P-P101-01]物品管理における札管理方式導入における効果~定数管理の定着と業務効率化を目指した実践報告~
*大上 希、宗貞 健一 (山口県 社会医療法人松涛会 老人保健施設コスモス)
【はじめに】
介護老人保健施設における物品管理は、業務効率やコスト管理に直結する重要な課題である。当施設では従来、物品の所在や在庫状況の把握が不十分であり、過不足や無駄な発注課題となっていた。そこで、物品管理体制の見直しを行い札管理方式および定数管理を導入し、3年間にわたり運用改善に取り組んだ成果をここに報告する。
【目的】
札管理方式および定数管理の導入と運用改善を通して、物品管理の効率化と適正在庫の維持を図り、その効果と今後の課題を明らかにする。
【研究方法】
1.研究期間
2023年4月1日(2023年度)から2026年3月31日(2025年度)まで
2.研究対象
当施設に2023年度から2025年度まで在籍している職員22名
3.研究方法
1)同一内容のアンケート11項目(表1参照)を2023年度と2025年度に実施(ただし、今回の研究に不要な項目は一部削除している)。得られたデータを設問1と3はマクネマー検定、設問7と10はウィルコクスン符号付順位検定で有意差を出す
2)物品係が在庫確認後に注文書に記載完了するまでの時間の測定
3)物品管理運用
(1)未使用物品それぞれに札を付け、使用時に札を外す仕組みの構築と物品定数を定める。この仕組みについてスタッフにあらかじめ教育した。
(2)物品使用の過不足の把握の為に物品定数を定める。
【結果】
設問1の欠品経験については、2023年度は「ある」と14名が回答していたが、2025年度は12名であり統計的な有意差は認められなかった(p=0.625,n=22)。設問2で、「なくて困った物品」は、「注射器」「注射針」などといった医療材料に対し、2025年度は「トロミ剤」「食事用ディスポエプロン」といった生活関係消耗品へと対象が変化していた。設問3「札を剥がし、ボックスに入れる」という日常的な運用の負担感については、「負担を感じない」または「どちらかといえば感じない」と回答した職員は、2023年度は18名、2025年度は21名へと微増していたが、有意差はなかった(p=1.000,n=22)。設問7「5階倉庫内において、目的の物品を1つ探し出すまでの時間」は「30秒以内」と回答した職員は、2023年度は4名、2025年度は9名へと増加しており有意に短縮した(p=0.029,n=22)。設問10「定数以外の物品を注文する際の、インターネット上のデジタルカタログでの検索時間」については、有意な変化は見られなかった(p=0.564,n=22)。検索時間を「1分以内」とした職員は、2023年度の3名から2025年度は4名に留まっていた。一方「まだしたことがない」と回答した職員が15名いた。注文書記載に要する平均時間は医療物品58分、生活物品40分を要していたが、札管理後は医療物品12分、生活物品10分と時間の短縮が認められた。消耗品の使用量は減少傾向がみられ、3年間でクルクルロール60→39、台所用洗剤68→62、トイレ用洗剤49→43、おしり洗浄液22→16(単位:本)の発注本数となった。5階倉庫で物品を保管しているが、各階にも一時的な保管場所を設定したことで、業務中の物品不足による時間ロスの削減につながった。
【考察】
近藤はトヨタ流改善において「標準は一度決めたら終わりではなく、状況の変化に合わせて常に改訂されるべきものである」1) と主張している。物品探索時間が短縮した一方で、欠品経験に有意な改善が見られなかった理由は、欠品内容が「トロミ剤」等の高頻度消耗品へシフトしたことで利用者ニーズの変化により従来の定数が実情と乖離しているが、物品の定期的な定数の見直しがされていなかったためである。近藤の指摘する「標準の改訂」すなわち定数の再評価が次の重要課題である。
5階倉庫での物品管理により物品を取りに行く移動距離は増加したが、倉庫内での物品探索時間は有意に短縮した。野中は「整理整頓は、単なる美化活動ではなく、必要なものを必要な時に取り出せる状態にすることで『探す』という付加価値を生まない時間を削減する活動である」2)と述べている。設問3において2023年度の2025年度も職員全体の9割近くが負担を感じていないことは3年間経過しても負担が増えていない事実であり、札管理による運用が職員に受け入れられ、整理整頓の継続性を担保し、付加価値を生まない時間の削減に成功したことを示唆している。
佐藤は医療物流において「現場の在庫管理と事務部門の発注作業が分断されている場合、トータルでの業務効率化は進まない」3)と指摘している。デジタルカタログの検索時間の短縮に有意に変化がなかったことは、本取り組みが現場の物理的在庫管理に特化していたことを示している。今後は、札管理で得られた在庫データをデジタル上で共有し、検索や注文の負担を軽減する「情報のIT化」が課題となる。デジタルカタログの未使用者に対する教育の普及の必要性もあらたに浮上した。
札管理方式の導入により、「使用した分だけ補充する」というシンプルな仕組みがスタッフに浸透し、在庫管理の可視化と適正在庫の維持に寄与したと考えられる。また、定数管理と組み合わせることで過剰在庫の抑制につながり、結果として物品使用量の減少および廃棄ロスの削減が実現したと考える。
【結論】
1.札管理方式と定数管理の導入は、物品管理の効率化と適正在庫の維持に有効であった。
2.物品管理の定期的な評価、物品の検索や注文の負担軽減のための情報のIT化、デジタルカタログの未使用経験者に対する教育の普及が課題となる。
【引用文献】
1)近藤哲男『トヨタ式「改善」の進め方』,日本経済新聞出版,2011年,ページ48-49
2)野中郁次郎『知識創造企業』,東洋経済新報社,2004年,ページ152-153
3)佐藤弘一『医療現場の物流マネジメント』,医学書院, 2018年,ページ82-84
介護老人保健施設における物品管理は、業務効率やコスト管理に直結する重要な課題である。当施設では従来、物品の所在や在庫状況の把握が不十分であり、過不足や無駄な発注課題となっていた。そこで、物品管理体制の見直しを行い札管理方式および定数管理を導入し、3年間にわたり運用改善に取り組んだ成果をここに報告する。
【目的】
札管理方式および定数管理の導入と運用改善を通して、物品管理の効率化と適正在庫の維持を図り、その効果と今後の課題を明らかにする。
【研究方法】
1.研究期間
2023年4月1日(2023年度)から2026年3月31日(2025年度)まで
2.研究対象
当施設に2023年度から2025年度まで在籍している職員22名
3.研究方法
1)同一内容のアンケート11項目(表1参照)を2023年度と2025年度に実施(ただし、今回の研究に不要な項目は一部削除している)。得られたデータを設問1と3はマクネマー検定、設問7と10はウィルコクスン符号付順位検定で有意差を出す
2)物品係が在庫確認後に注文書に記載完了するまでの時間の測定
3)物品管理運用
(1)未使用物品それぞれに札を付け、使用時に札を外す仕組みの構築と物品定数を定める。この仕組みについてスタッフにあらかじめ教育した。
(2)物品使用の過不足の把握の為に物品定数を定める。
【結果】
設問1の欠品経験については、2023年度は「ある」と14名が回答していたが、2025年度は12名であり統計的な有意差は認められなかった(p=0.625,n=22)。設問2で、「なくて困った物品」は、「注射器」「注射針」などといった医療材料に対し、2025年度は「トロミ剤」「食事用ディスポエプロン」といった生活関係消耗品へと対象が変化していた。設問3「札を剥がし、ボックスに入れる」という日常的な運用の負担感については、「負担を感じない」または「どちらかといえば感じない」と回答した職員は、2023年度は18名、2025年度は21名へと微増していたが、有意差はなかった(p=1.000,n=22)。設問7「5階倉庫内において、目的の物品を1つ探し出すまでの時間」は「30秒以内」と回答した職員は、2023年度は4名、2025年度は9名へと増加しており有意に短縮した(p=0.029,n=22)。設問10「定数以外の物品を注文する際の、インターネット上のデジタルカタログでの検索時間」については、有意な変化は見られなかった(p=0.564,n=22)。検索時間を「1分以内」とした職員は、2023年度の3名から2025年度は4名に留まっていた。一方「まだしたことがない」と回答した職員が15名いた。注文書記載に要する平均時間は医療物品58分、生活物品40分を要していたが、札管理後は医療物品12分、生活物品10分と時間の短縮が認められた。消耗品の使用量は減少傾向がみられ、3年間でクルクルロール60→39、台所用洗剤68→62、トイレ用洗剤49→43、おしり洗浄液22→16(単位:本)の発注本数となった。5階倉庫で物品を保管しているが、各階にも一時的な保管場所を設定したことで、業務中の物品不足による時間ロスの削減につながった。
【考察】
近藤はトヨタ流改善において「標準は一度決めたら終わりではなく、状況の変化に合わせて常に改訂されるべきものである」1) と主張している。物品探索時間が短縮した一方で、欠品経験に有意な改善が見られなかった理由は、欠品内容が「トロミ剤」等の高頻度消耗品へシフトしたことで利用者ニーズの変化により従来の定数が実情と乖離しているが、物品の定期的な定数の見直しがされていなかったためである。近藤の指摘する「標準の改訂」すなわち定数の再評価が次の重要課題である。
5階倉庫での物品管理により物品を取りに行く移動距離は増加したが、倉庫内での物品探索時間は有意に短縮した。野中は「整理整頓は、単なる美化活動ではなく、必要なものを必要な時に取り出せる状態にすることで『探す』という付加価値を生まない時間を削減する活動である」2)と述べている。設問3において2023年度の2025年度も職員全体の9割近くが負担を感じていないことは3年間経過しても負担が増えていない事実であり、札管理による運用が職員に受け入れられ、整理整頓の継続性を担保し、付加価値を生まない時間の削減に成功したことを示唆している。
佐藤は医療物流において「現場の在庫管理と事務部門の発注作業が分断されている場合、トータルでの業務効率化は進まない」3)と指摘している。デジタルカタログの検索時間の短縮に有意に変化がなかったことは、本取り組みが現場の物理的在庫管理に特化していたことを示している。今後は、札管理で得られた在庫データをデジタル上で共有し、検索や注文の負担を軽減する「情報のIT化」が課題となる。デジタルカタログの未使用者に対する教育の普及の必要性もあらたに浮上した。
札管理方式の導入により、「使用した分だけ補充する」というシンプルな仕組みがスタッフに浸透し、在庫管理の可視化と適正在庫の維持に寄与したと考えられる。また、定数管理と組み合わせることで過剰在庫の抑制につながり、結果として物品使用量の減少および廃棄ロスの削減が実現したと考える。
【結論】
1.札管理方式と定数管理の導入は、物品管理の効率化と適正在庫の維持に有効であった。
2.物品管理の定期的な評価、物品の検索や注文の負担軽減のための情報のIT化、デジタルカタログの未使用経験者に対する教育の普及が課題となる。
【引用文献】
1)近藤哲男『トヨタ式「改善」の進め方』,日本経済新聞出版,2011年,ページ48-49
2)野中郁次郎『知識創造企業』,東洋経済新報社,2004年,ページ152-153
3)佐藤弘一『医療現場の物流マネジメント』,医学書院, 2018年,ページ82-84

