講演情報

[22-O-D005-07]認知機能低下のある高齢者の適応プロセスについて

*大橋 竜聖、黒崎 紀子、手島 美由紀、篠原 潔人、角田 佑佳、佐々木 利英子 (栃木県 介護老人保健施設とちぎの郷)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【はじめに】施設への入居は、高齢者にとって新たな適応を要求されるという重大な転機であり高齢者はリロケーションというライフイベントを体験することになる。高齢者が安心して施設生活を過ごせるよう、施設に入居した直後から生理的・心理的・社会的状況を理解することが重要となる。A施設は老人保健施設であり、背景は平均年齢87.8歳であり、ミニメンタルステート検査で23以下が約63%を占める。日常生活動作や認知機能低下により、家族の介護困難を理由とし施設に入所するが、それを理解できずに戸惑いや混乱が生じている。
【目的】A施設での生活スケジュールや多職種での関わりの中で、生活環境に適応するまでのプロセスを明らかにする。
【方法】老人保健施設に入所している認知機能低下のある高齢者3名を対象とし、入所後1~7日、1週間後は週に1回研究者がコミュニケーションを図り、生活の様子を観察した。その後、生活環境に適応できたか否の判断は、先行研究を基に(1)表情が穏やかである(2)行動が落ちつく(3)生活スケジュールが自分のペースで過ごせる(4)他者に関心や興味を示すとする。
【結果】A氏は入所当日より、「頭がおかしくなった、家族に置いて行かれた」と不安な表情で車椅子を動かし出口を探す行動が見られた。2日目以降は、表情は穏やかで挨拶もしてくれるが、夜間は眠れず、起き上がり居室からふらつきながら歩いてきた。3日目より、「トイレ」と言って車椅子自走していたため、排泄時間で誘導することで落ち着いた。夕方になると帰宅願望強くなるが、今日は帰れないことや後日、面会に来ることを説明した。眠れない時は、ホールに誘導しテレビ鑑賞してもらった。その後、他利用者との会話やレクリエーション・集団リハビリなど行い、自分のペースで過ごすことができた。10日目頃から、夜間不穏症状は落ち着き、自宅での生活の様子など話してくれた。
B氏は、入所当日より、表情は険しく、難聴の為か会話が難しかった。食事と内服に対し拒否があり、席に座っても「食欲がない」と手を付けなかったが、水分は飲んでくれたため、栄養補助食品を提供した。見当意識障害あり、「ここはA市だろ」と自宅と間違えたり、食事を介助しようとすると、「いらない」と怒るときもあった。食べない時は食事時間にこだわらず、ゼリーやヨーグルトなどを提供すると「おいしい」と言ってくれた。その後、栄養士やSTに相談し食事形態を変更し、栄養補助食品を増量した。排泄時はトイレに行くようにしたことで「ありがとう」と言ってくれ会話も増えた。時折興奮するときはあるが、自分のペースで生活をするようになった。
C氏は、入所当日より、声を掛けると挨拶はしてくれたが、表情は硬く無表情だった。移乗も全介助であり自ら動こうとはしなかった。こちらの誘導や説明には素直に応じてくれるが、入浴だけは「今日入ったから」と拒否があった。自分の思いや不安などの言葉が少なかった。ADLも少しずつ拡大していくなかで、多職種にも協力してもらい、2日目から、個別的に毎日15分間興味のでるような会話や活動をした。3日目から、折り紙で鶴を折ったり、バルーン風船など作業を短時間ですることができた。その後、自発的に会話をするようになり、笑顔がみられるようになった。期間の違いはあったが、全員が適応したと判断する基準を満たしていた。適応までの期間は、A氏とC氏は10日、B氏は14日であり、10~14日であったが大きな差はなかった。
【考察】3症例ともに、入所当初は場所の見当識障害があり、連れて来られたという不安を抱きながら周囲を探る行動が見られた。2日目以降は、それぞれ異なった症状に現れ、A氏は「帰宅願望が強く落ち着きがない」B氏は「食事摂取量の低下がある」C氏は「無表情で感情の表出が少なかった」これは、出貝(2001)らは「漸進的にストレス閾の低下していく高齢者にとって、ストレスが加わった時、機能異常行動を起こす割合が多い。」と報告している。従って、認知機能低下のある高齢者は、一過性の混乱を引き起こしていたと考える。その経過の中で、ケアの拒否、食欲低下、せん妄などの周辺症状に対し、早期に混乱の兆候に気づき寄り添ったケアを行い環境調整することが重要となる。
A氏は、入所後、知らない場所での生活に不安感を感じ混乱していたが、生活スケジュールをこなす中でスタッフからの関わりを機に、他の利用者とコミュニケーションを図るようになった。帰宅願望はあるが、訴えを傾聴し説明することで落ち着いたため適応できたと考える。B氏は、施設に来たことへの環境の変化とともに活動量の低下もあり、食事に対して空腹感を感じなくなっていた。他者とのコミュニケーションの中で、自分の意思を伝えられるようになった。また、好みの食事形態に変更し、生活リズムを整えたことで、食事摂取量も増加したため適応できたと考える。C氏は、時間の経過とともに介護者が積極的に話しかけそばにいることで笑顔が多くなった。ケアをしてくれる人という認識が持て安心感が得られた。個別的に寄り添うことで会話ができ、自分の意思も伝えられるようになったため適応したと考える。
認知機能低下のある利用者が施設入所後の生活に適応するまでのプロセスでは、入所時環境の変化に伴い一時的に不安感や孤独感を生じ混乱する。その時、認知症による中核症状が一時的に目立つことがあるが、症状はさまざまである。経過とともに利用者個々の不安を軽減するような関わりを持つことや生活スケジュールに沿って過ごすことで、自分の居場所を認識する。介護者が寄り添い信頼関係を作ることで安心感が出てくる。すると周囲との関わりができ、自分の意思で行動ができるようになり、施設での生活を受け入れ適応していくことがわかった。
参考引用文献 出貝裕子(2001)痴呆性高齢者における施設入所後1週間の適応に関する分析 P211―223