講演情報

[22-O-D003-02]BPSDを呈した利用者に対する対策-BPSD25Qを用いて-

*湯瀬 彰隆 (大阪府 社会医療法人愛仁会介護老人保健施設つくも)
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【はじめに】
当施設には認知症専門療養棟があり,認知症の利用者に対して認知症の行動・心理症状(以下,BPSD:behavioral and psychological symptoms of dementia)の予防・改善を目的としてBPSD25Qを用いたチームケアカンファレンスを実施している.今回,暴言暴力や異所排尿などのBPSDが出現した利用者に対して介入し,BPSDの症状が緩和した一例を担当したため報告する.
【症例紹介】
A氏70歳台男性. X-11年にアルツハイマー型認知症と診断される.徐々に認知機能低下が進行し,トイレの場所,電気のスイッチ,流し方が分からない.一人で外出し,家族が探しに行くなどのエピソードがあり,家族の介護疲れによりX-348日に当施設に入所される.入所後はトイレの場所が分からず誘導は必要も,穏やかに過ごされていた.入所時HDS-Rは3/30点(即時再生のみ)であった.X日に症候性てんかんを発症し救急搬送され,X+3日に当施設へ再入所された.その後より暴言暴力・異所排尿が出現した.
【初期評価】
屋内独歩自立.FIM:76/126点(運動項目68点,認知項目8点). 暴言暴力,異所排尿,徘徊,意思疎通困難あり.異所排尿はX+9日からX+16日の1週間で計7回あり,居室で5回・食堂で2回であった.また,指示理解は得られずリハビリテーションや日々のケアに対して暴言暴力が見られた.BPSDの出現は,時間帯に大きな差はみられなかった.BPSD25Q:過活動性BPSD重症度19点・負担度17点,低活動性BPSD重症度6点・負担度6点,生活関連BPSD重症度8点・負担度9点. (項目:暴言・暴行・徘徊・常同行動・脱抑制・易怒性・アパシー・無反応・昼夜逆転・介護への抵抗・不潔行為)
【介入計画】
作業療法介入やトイレ誘導の困難さが顕著であり,穏やかに日常生活を過ごせることを目標とした. A氏のBPSDの中でも,特に介入に困難である暴言暴力・異所排尿に焦点を当てた. 一部地域では,立小便防止の目的で街中に小鳥居を設置していた対策の歴史があり,認知症は過去のエピソード記憶や意味記憶が残存しやすい1)ことから,鳥居のマークを作成し, 異所排尿が多い場所に設置した. 生活リズムを整えて,心身ともに穏やかに生活していただくため,日課を作成し実施した.日課は,療法士・介護士・看護師が共同で実施し,朝食後に机の上を拭く→集団体操→外気浴と花の水やり→午前午後に会話時間を作る→レクリエーションで歌を歌う,タオル畳みとした.作業療法の介入としては,集団体操・外気浴と水やり・午前午後の会話,タオル畳みを実施した.チームケアカンファレンスは週1回の定時開催で,介入内容の結果と対策を検討・実施した.
【経過】X+16日より,1日のスケジュールを作成し,取り組みを実施した.X+16~23日では,暴言暴力は大きく変化なく,1週間中2回のみ集団体操や水やりに誘導可能であった.また,X+24日に鳥居のマークを設置すると,その付近での異所排尿はなくなり,トイレを探して歩かれる場面がみられた.カンファレンスの3回目以降より,日課を実施してもらった際には全スタッフが褒め・感謝を伝えることを統一した.その後徐々に暴言暴力や拒否は減少し,X+32日以降は月に1回程度拒否はみられるものの,集団体操や水やりを毎日実施できるようになった.X+37日に抗てんかん薬の減薬を実施した. X+53日以降には鳥居のマーク付近以外でも異所排尿は見られず,定時でのトイレ誘導が可能になった.その後,他利用者を交えて会話できるようになった. X+60日には険しい顔をすることはあるものの,暴言暴力は消失した.
【最終評価】
FIM:86/126点(運動項目73点,認知項目13点).BPSD25Q:過活動性BPSD重症度9点・負担度1点,低活動性BPSD重症度4点・負担度0点,生活関連BPSD重症度2点・負担度2点と,すべての項目においてBPSDの改善が見られた.特に,不潔行為の項目はトイレを探すために立ち上がることはあるものの,異所排尿は消失し,重症度・負担度共に見守りの範囲である1点まで減少した.また,険しい顔をすることはあるが,暴言暴力は消失し, 暴言・暴力の項目は共に重症度1点・負担度0点であった. (項目:暴言・暴行・徘徊・常同行動・脱抑制・易怒性・アパシー・昼夜逆転・不潔行為)
【考察】
心理学では,鳥居を汚せば罰が当たるという共通認識が,人の行動を抑制させる2)と報告されている.また,認知症では遠隔記憶が比較的残存しやすい1)と報告されている.今回,異所排尿に対して鳥居のマークを使用したことで,本氏自身が目視で鳥居のマークを視認し,ここがトイレをする場所ではないと認識した可能性がある.その結果トイレを探すようになり,本氏の排尿を察知してトイレ誘導ができるようになったと考える.また,暴言暴力に関しては,毎日の生活にリズムをもたせ,その生活リズムを踏まえて活動し休息することが認知症対象者における心身の体調を良好に保つために重要である3)と報告されている.1日のスケジュールを作成したことで,生活リズムを再構築し,心身が安定し,暴言暴力の消失に繋がったと考える. 認知症に対する多職種連携では, 認知症の専門知識を持った多職種からなるケアチームのサポートが有用4)と報告されている.今回, BPSD25Qを用いて,BPSDが出現している場面や要因を検討し,その内容に対して多職種で個別のケアを統一して実施できたことにより,その人らしい生活を再構築し,穏やかに日常生活を過ごせるようになったと考える.
【参考文献】
1) 池田学 著:認知症診断に必要な記憶障害の臨床,老年期認知症研究会誌,Vol.17,2010.
2) 松村真宏 著:仕掛け学の試み,第25回人工知能学会,2011.
3) 久米裕 著:認知症と生活リズム,日本老年学会誌,Vol.2,2023,1-6.
4) 鷹嘴亜里 著:多職種連携による認知症ケアサポートチームについての臨床的検討,神経治療Vol.36,2019.