講演情報

[22-O-D001-06]その変化、本当に認知症進行? 多職種で見直した事例

*村山 真哉、山崎 早紀子、小林 雄樹、高橋 亮平 (神奈川県 介護老人保健施設ハートフル瀬谷)
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<はじめに>
全国的に認知症高齢者は増加しており、介護施設における認知症ケアの質のさらなる向上が求められている。2024年度の介護報酬改定で新設された認知症チームケア推進加算を受け、当施設でも1名が認知症実践リーダー研修を修了し、2025年6月から認知症ケアチームを発足、算定を開始した。現在も多くの利用者のケア立案に取り組んでいる。本発表では、チームによる分析と多職種連携が有効に機能し、症状の改善と本人らしい生活の回復につながった事例を報告する。

<目的>
認知症実践リーダーを中心にチームで分析し、多職種が役割を分担しながら、一職種に偏らない多角的な視点で対応を検討することを目的とした。

<対象者>
Aさま 88歳 男性 要介護5。障害高齢者の日常生活自立度A2、認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲa。妻を亡くした後、長年要支援認定で独居生活を継続。独居期間が長く認知機能低下もあるため病歴の詳細は不明。既往歴は高血圧症(50代)、腎機能障害(60代)、皮膚がん・左大腿内側切除(2013年)、透析導入(2018年)。2020年12月に認知機能低下が著明となり物忘れ外来を受診したようだが詳細不明。2023年6月、独居継続が困難となり当施設へ入所。

<経緯>
入所後はサークル歩行器で自立歩行し、トイレの失敗はあってもリハパン交換は自立していた。園芸を好み、日中は植物の世話や水やりをして過ごしていた。夜間は不眠傾向があり2~3時間ごとに覚醒してフロアで過ごした後に再入眠していたが、日中生活への大きな支障はなかった。もともと排便困難があり、2025年10月の下剤増量後から軟便による便失禁が続いた。同時期より無気力な表情、歯磨きなど日常習慣の中断、著しい食事量低下がみられた。下剤増量中止後に便失禁は軽快したが活気低下は続き、栄養状態も悪化したため、12月にはターミナルケア開始も視野にKPへICを行い経過観察としていた。しかし経過には老衰や身体機能低下だけでは説明しにくい点が多く、認知面・精神面の症状関与を疑い、認知症チームケア対象として分析を開始した。

<方法>
認知症実践リーダーを中心に、2025年12月30日を初回として2026年3月末までの約3カ月間、認知症チームケアカンファレンスを月1回程度開催した。毎月、対象利用者のBPSD25Qとワークシートを作成し、BPSDの背景要因を多角的に分析したうえで、各職種の視点からケアや対応を共有した。

<実践と経過>
BPSD25Qとワークシートを用い、認知症実践リーダーとチームメンバー3名でカンファレンスを実施した。当初は老衰や透析長期化に伴う身体機能低下が主因と考えられていた。しかしカンファレンスで、介護職員から「好物のカップラーメンは自発的に全量摂取することが多い」、リハビリ職員から「自発性は低いが立位保持や歩行能力は保たれている」と共有され、主因は身体面より精神面の可能性が高いと判断した。1月初旬、看護職員も交えて検討し、抑うつ症状の可能性を想定して誘因を探索したところ、薬剤師から内服中のランソプラゾールにまれに抑うつ症状の副作用があるとの助言を得た。そこで翌日から2週間中止して経過をみたところ、1月中旬より活動性が徐々に改善し、ベッドから足を出す、自ら立ち上がって移乗しようとする、夜間覚醒が増えるなど行動の幅が広がった。食事も約2カ月ぶりに施設食を自力で9割程度摂取できる日がみられた。
2週間後の評価では効果乏しいとの見方もあったが、介護職員から改善傾向が共有され、さらに2週間中止を延長した。1月末には手引き歩行が可能となり、2回目のカンファレンスでは介護とリハビリが連携して日常生活場面で介助歩行を積極的に導入し、元の生活レベルへの回復を目指す方針とした。看護は内服中止の評価を継続した。2月初旬、明らかな改善を認めたためランソプラゾールは中止となった。
3回目のカンファレンスでは改善を認める一方、本来のADLには未到達と共有し、介助歩行の積極的導入を継続した。
3月下旬、本来のADLまで回復し、安全のため使用していたセンサーマットも解除できたため、目的達成と判断して認知症チームケア対象を終了した。

<結果>
対象開始時のBPSD25Qは合計27点で、そのうち低活動スコアが19点を占めた。生活関連スコアでは、食事拒否・食事介助拒否が8点であった。終了時のBPSD25Qは合計8点となり、低活動スコアも5点まで改善した。
また、周囲の利用者と自発的にコミュニケーションをとるようになり、職員との会話でも笑顔が増えるなど、身体機能や食事量だけでなく精神面の改善も認められた。

<考察>
透析利用者は急激な状態悪化を認めることも多く、更に認知症を併発している場合、その要因の判断は非常に難しい。
しかし本事例では、介護が捉えた日常の細かな変化と、リハビリによる身体機能評価をカンファレンスで共有し、看護師や薬剤師の意見も加えたことで、副作用による抑うつ症状の可能性に着目できた。すべてが薬剤の影響であったとは断定できないものの、多職種で分析したことで、これまで気づけなかった要因や視点に目を向けられた点は大きな意義があった。

<まとめ>
介護現場では、利用者の状態変化に対して「認知症の進行」と結論づけてしまいがちである。しかし、本当にそれだけなのかを問い直す視点が重要である。今後も認知症チームケアを通じてBPSDへの理解を深め、利用者が本人らしい生活を取り戻せるよう支援を続けていきたい。