講演情報

[23-P-CMO-01]ACPと介護DXを活用した看取り体制構築への取り組み

*佐藤 恵子、山口 あゆみ、田下 真理子、松本 里美、小切 匡史、小野 隆司 (大分県 杵築市介護老人保健施設 グリーンケアやまが)
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【背景・目的】
超高齢社会を迎えた日本では、多死社会の進行に伴い介護施設における看取りの重要性が高まっている。近年はcovid-19感染症の流行を契機として、施設で人生の最終段階を迎える高齢者が増加している。2024年度介護報酬改定においても看取り体制の構築が重視されており、介護老人保健施設(以下老健)には在宅復帰支援機能に加え、終末期ケアを提供する場としての役割が期待されている。
当施設は大分県杵築市(人口約25,000人)の中山間地域に位置する病院併設型老健である。高齢化率は40.1%と高く、住み慣れた地域で最期まで生活できる環境整備が求められている。しかし当施設における看取り件数は年間3件程度に留まり、状態変化時には病院への入院を選択するケースが多かった。その背景には家族の不安、職員の経験不足や心理的負担、またACP(Advance Care Planning)の取り組みも十分とは言えず、多職種で情報共有する仕組みも整備されていなかった。そこで今回、看取り推進を阻害する要因を明らかにし、ACPを基盤として介護DXを活用しながら、職員が安心して看取りができる体制の構築を目指したため報告する。
【方法】
看護師、介護職員、介護支援専門員、相談員、リハビリ職員を対象にアンケート調査を実施し、課題を抽出した。調査結果をもとに、職員教育の強化、入所時からのACP推進、家族支援の充実、看取りマニュアル整備、介護DXの活用、看取り後の振り返り体制の構築を行った。
【結果】
アンケートでは、多くの職員が施設看取りの必要性を認識していた一方、具体的な手順や終末期ケアへの理解は十分ではなかった。特に介護職員からは「夜間や休日の状態変化への対応に不安がある」「看取りの判断に自信がない」といった意見が多く聞かれた。そこで、老衰の経過や終末期の身体変化、看取りの流れを学ぶ動画教材を作成し全職員へ配信した。また、研修会を定期的に開催し、看取りケアに関する知識と対応の標準化を図った。
ACP推進の取り組みとして、入所時意向調査を開始し、本人・家族へ療養場所や人生の最終段階における希望を確認し記録した。さらに2024年より施設長に加え、非常勤医師の就任により、状態変化時のインフォームドコンセントを継続的に実施できる体制が整い、本人・家族の意思を繰り返し確認することが可能となった。看取りマニュアルを見直し、終末期の身体変化や家族の関わり方を記載したパンフレットを活用することで、家族の不安軽減にも努めた。また、同意書や意向確認書などを一覧化したチェックリストを作成し、必要書類の管理を可視化した。家族来所時にはインカムを活用して多職種間で情報共有を行いながら支援した。
夜間・休日の不安軽減に対しては、見守りシステムの心拍モニタリング機能を活用した。利用者の状態変化を早期に把握できるようになったことで、「異変に気付けないかもしれない」という介護職員の不安軽減につながった。
看取り後にはリフレクションを実施し、ケアの振り返りと課題共有を行った。その結果、看取り件数は2024年度7件、2025年度8件へ増加した。また、同意書を頂いた方で終末期に併設病院への入院希望は、2024年度が2名、2025年度が1名で、それ以前は毎年10名前後が終末期に病院へ入院していたことから著しく減少した。さらに2026年度からはACP委員会メンバーを中心とした活動を開始し、併設病院で活用している杵築市の意思決定支援ツール「きつきネバーエンディングノート」を老健でも引き継ぐ運用を開始した。本人の価値観や人生観、将来への希望を多職種で共有し、入院中から入所後まで継続した意思決定支援を行うことが可能となった。
【考察】
入所時からACPを実施し、本人・家族の意向を継続的に確認する仕組みを整備したことで、人生の最終段階における意思決定支援が充実した。また、医師による継続的な説明と家族支援により、終末期になって病院への入院を希望するケースは大幅に減少した。当施設は病院併設型老健であるため、これまでは状態変化時に入院を選択する傾向が強かった。しかし、ACPを通じて本人・家族の思いを早期から多職種で共有することで、「施設で最期まで過ごしたい」という希望を支えることが可能となった。これは地域包括ケアシステムが目指す「住み慣れた地域で自分らしく暮らし続ける」ことの実現にもつながると考える。
2026年度から開始した「きつきネバーエンディングノート」の活用は、病院から老健へACPを繋ぐ新たな取り組みとなった。ACPは一度の面談で完結するものではなく病状や生活環境の変化に応じて繰り返し確認されるべきプロセスである。入院中に記録された本人の価値観や人生観、将来への希望を老健でも共有することで、生活の場が変わっても本人の意思を尊重した支援の継続が可能となった。病院と老健が共有ツールを用いてACPを継続する取り組みは、地域包括ケアシステムにおける切れ目のない意思決定支援の実現につながると考える。
さらに、リフレクションを通じて職員同士が不安や迷いを共有できる環境が整ったことで、看取りに対する心理的負担の軽減につながった。職員が安心して意見を表出できる心理的安全性の高い職場環境が形成されたことは、看取りを継続的に推進する組織文化の醸成にも寄与した。
また、見守りシステムやインカムなど介護DXを活用したことで、情報共有や状態把握の効率化が図られ、職員が安心して看取りに取り組める環境整備につながった。介護DXは業務効率化だけでなく、看取りにおける安心感の向上にも有効であることが示唆された。
ACPを基盤とした多職種連携と介護DXの活用は、施設看取りの質向上だけでなく職員の心理的安全性向上にも寄与した。今後は病院、在宅サービス、地域住民を含めたACPの普及と情報共有体制の構築を進め、地域全体で本人の意思を尊重した看取りを実現できる体制づくりを目指したい。